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【小説】立ち入り禁止の呪いの森に入ったら…(3034文字)

 カズユキは立ち入り禁止の森のことが前から気になっていた。

「お母さん、あの森に入っていい!」

 いつもニコニコしているお母さんの顔が、森のことを聞いた途端に急にニコニコしなくなった。

「ダメ!森だけは絶対にダメ!あの森に入ったら二度と戻ってこれないかもしれないんだから!」

 カズユキはお母さんに怒られてしまった。絶対に立ち入ってはいけないという森がこの地域にはあった。
 そこは人間が絶対に立ち入っていい場所ではないのだ。ただ子供というのは好奇心が旺盛で、やるなと言われるとやりたくなるし、やれと言われればやりたくなくなるそういうものだ。
 そして森に入るなと言われれば、子供は森に入りたくなるものなのだ。なので、カズユキは森に入ることを決心した。

「きっとあの森には今までに見たこともないすごい何かがある!」

 そんな予感がしていた。そして子どものカズユキは、学校で仲良しの友達5人に森に入らないかと誘った。
 そしてみんなは一緒に森に入ることに決めた。みんな前々から森に入りたいと思っていたのだ。

「ものすごい冒険がありそうだ!」

 そんな感覚なのだ。そして今度の休日にこっそり大人に内緒でみんなで森に入ろうということになった。

休日になった…。

 みんな森近くで集まっていた。カズユキ含めた5人が集まったが、残りの1人は来なかった。
 集合時間に来なかったので、その友達は置いて行くことにした。おそらく風邪を引いてこれないのだろう。
 森の中に早速入るといきなり立ち入り禁止という看板があった。

「え、ちょっと怖いかも…どうする…引き返そうよ。」

1人の友達が立ち入り禁止の看板を見て怖じ気づいた。

「今さら怖じ気づきやがって!怖いなら帰れ! 俺たちは行くぞ!」

 カズユキは非情に1人の友達に帰るように言った。これで残りの人数はカズユキを含めて4人となった。

「俺たちはあのビビりと違うからな。行くぞれ」
「おう!」

 立ち入り禁止の看板から少し進むと、金網のフェンスで遮られていて入れなくなっていた。それに変なお札もびっしりと貼られていた。

「うわぁぁぁぁ!!」

 さすがの4人もこれには少しビビった。

「な、なにビビってんだ!? い、行くしかねぇだろぉ!」
「お、おう…」

 けれど、勇気を出して4人の子供達は金網のフェンスをよじ登って森の中に入っていった。

「よっこらしょ、よし入れたな」
「だな。でもさすがに雰囲気あるな」
「それに少し寒い」

 フェンスをよじ登って入ってから、空気が急に変わった。何か重たい空気なのだ。何というか、悪いものをここの領域に閉じ込めているようなそんな感じがした。

「それにしてもこの森はまだ昼間だというのにものすごく暗く感じるなー」
「さすがに怖くなってきたな」
「か、帰るなら今だよ…」
「帰らねぇ! ここまで来たんだ! お宝があるかもしれないじゃないか!」
「そ、そうだな」

 そのまま4人は森を突き進んでいくことにした。それにしても頭が痛いと感じていた。それに変な声も聞こえる。
 みんなには黙っておこう。



「うぅ…」
「どうしたんだよカズユキ」
「な、なんでもねぇ!」

 変な声が聞こえてくるような気がするし、なんだか木が笑っているような気がするのだ。
 他の友達は何ともないようだ。自分だけがおかしくなったようだ。

「おいカズユキ早くしろよ!」
「えっ?」
「お前遅れてるぞ!」
「お、おう」

 カズユキは歩くのもしんどくなってきた。友達と同じペースで歩けなくなっていた。カズユキは今まで体調が悪いと感じたことがないのに、今回ははっきりと分かるぐらいに体調が悪くなってきた。

「えっ…はぁ…はぁ…もうダメだ…」

 気が付くとカズユキは友達を置いて引き返していた。体が勝手に動いたのだ。他のみんなはそのまま森の奥へと入って行った。

「はぁ…はぁ…」

 カズユキはそのまま家に帰った。だが家に帰っても気分が悪いままだった。それどころかどんどん体調が悪化していく一方だった。

「カズユキ!あんた今日どこ行って来たの!気が付いたら家の中に居なかったからビックリしたのよ!」

 お母さんはカンカンに怒っていた。

「……………。」

 カズユキは黙っていた。森の中に入ったなんて言える訳もないからだ。

「もしかして、アンタ森の中入ったんじゃないでしょうね…」

 お母さんは怖い顔をしていた。

「入ってないよ。ちょっと川遊びしてて風邪引いちゃっただけだよ。頭痛いから薬ちょうだいよ」

 カズユキは嘘をついた。カズユキは尋常じゃないほどの熱が出ていた。お母さんは何となく分かっていた。
 カズユキが森の中に入ったということを。この熱は森と何か関係があるのだ。

「あんた、もう2度と森に入るんじゃないよ」
「え、どうして…?」

 お母さんは悲しそうな顔をしてそう言った。そしてカズユキはそのまま目を閉じた。

「う…ん…。ごめんなさい…」

 どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

「はっ…!!!」

 カズユキは目を覚ました。気が付くと布団の上で寝ていたようだ。それに体調が悪かったのにすっかり元気になっていた。
 そんな時だった…。

「うっ…うっ…」

 誰かがすすり泣く声が聞こえたのだ。自分は2階で寝ていて1階からその声が聞こえて来る。

「誰だろう? お母さんかな?」

 カズユキは急いで1階に行った。すると眠っているカズユキのお母さんを囲んで大勢の親族が泣いていた。
 これは一体どういうことなのだろうか?

「母さん!どうしたの!」
「カズユキのお母さんは原因不明の病気でさっき死んだんだよ。」

 1人の親族がそう言った。

「え、どうして…」

 カズユキはものすごいショックを覚えた。そんな時に坊主の人が手招きをして、別室に連れて行かれた。

「君にはちゃんと話しておかなければならないと思って君を別室に呼んだ。お母さんの件だよ」
「あっはい…」

 自分は悲しみで話を聞くどころじゃなかった。

「単刀直入に言うけど、お母さんが死んだのは君のせいだよ」
「はい…え…?」

 カズユキは耳から耳へ話が抜けていくかと思ったが、真実を伝えられて耳の中に話が入ってきた。

「なぜ君のお母さんが死んだかというと、君の呪いを肩代わりしたからだ。」
「…………」

 カズユキは何となくもう分かってしまった。森に入ってしまったからお母さんが死んだということを。

「君が苦しんでいるのを見ていられなかったお母さんは私のところに来て、自分が代わりに呪いを受けたんだよ。そしてその呪いの影響で死んでしまった。何か心当たりがあるんじゃないか」
「はい…森の中に入りました。」

 カズユキはすべての真実を話した。

「そうか、あれだけ入ってはいけない森には入ってしまったか。そのせいで君のお母さんはもう帰ってこないんだぞ」
「うっ…」

 カズユキは泣き出してしまった。小さい子供には、こんな現実はあまりにも受け止めきれない。
 カズユキは森に入ったことをものすごく後悔した。

「君は君のために死んだお母さんの分まで絶対に生きなければならない。これは義務だ。泣いたっていい。どんなに辛いことがあっても強く生きろ。立派な大人になれ」

 そう言うと坊主の人は立ち去った。

「うっうっ…」

 カズユキはひたすら泣いた。とにかく泣いた。一生分の涙が出尽くしたんじゃないかというぐらいに大泣きした。

その後…

 森の中に入って行った他の友達は未だに森の中から出てきていないと言う。 当日風邪を引いた友達と立ち入り禁止の看板のところで引き返した友達だけが無事だったという。

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