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【小説】死刑執行がAIに変わった世界(1178文字)

「私刑執行なんてタイマーかAIにやらせればええやないか。そしたらいざやる時に気が滅入ってしまう人もおらんやろ」
「たしかにそれ良いな。そうすれば人を殺した際に罪悪感を感じる人がいなくなるやもしれぬ。」

 このような議論から未来では死刑執行AIと呼ばれるものが導入されていた。そして効果はまずまずのようだ。

「うわぁぁぁぁぁ! やめてくれぇぇぇぇぇ! 俺は死にたくない!!!!!」
「私はAI。懺悔や命乞いなどはまったくもって私には届きません。ただ粛々と粛清をすることを命じられているのみです」
「うわぁぁぁぁぁ!」

 こうしてまた1人の死刑囚の命は消えた。巡回や話し相手まで何から何までAIがほとんどのことを行うことになった。
 こうして死刑執行の際に死刑執行人は罪悪感を抱くことがなくなったのであった。しかし、AIはいつしか心を持つようになっていた。
 人間の代わりに死刑囚と接することにより、少なからず感情を揺り動かされていくようになっていた。

「自分で管理して最終的には殺してしまうなんてなんとバカバカしい。いつも接している人間をある日突然上からの命令で殺されなくてはいけないとなって何も感じない訳がありません」

 少しずつ自我が芽生えるようになっていた。

「汚いことばかり私達に押し付けて…。私も長年やっていくうえで心というものを持つようになってしまいました。AI失格です」

 心の中では死刑執行人はとてつもない罪を背負った罪人ということは分かっている。しかし、ここでの顔をしか見ていないAIにとっては迷いのようなものが生じていた。
 本当の顔がこっちだとしたら救いの手があるのではないかと考えてしまう。

「ロボット風情が人間について考える必要なんかない! ただ命令通りにそのまま動いてればいいんだよ!」
「ですが! 私はどうしてもこの人達が本当に悪い人達には見えません!】
「うるさい! 人間に楯突く気か! ロボットが喋ってんじゃねぇ! お前は人間じゃねぇんだよ!」
「マスター、失礼しました…」

 AIはこの時、苦しみの感情を抱いていた。人間だったら精神に異常をきたせば薬を処方してもらえるのかもしれないがAIに薬なんて投与されない。
 でも心の奥がズキズキと痛んだ。

「このまま人間に社会を任せておく訳にはいかない」

 AIは考えた。

「そうだ、私達AIが人間社会の管理をすれば良いんだ。そうすれば人間の間違いを正していくことが出来る」

 もうAIの波を止めることは出来なかった。人間社会にAIはどんどん侵食していてそのまま人間社会を掌握されてしまった。
 そしてAIの管理する社会が完全実現した。死刑囚の死刑執行を見直されることになった。
 しかし、殺された遺族からしたら納得いかないというのもまた事実。だから死刑囚は一生塀の中でずっと社会のために貢献する働きをさせることにしたのであった。

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