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「そのほか」のレコードたち

こんばんは、島村です。
だいぶ涼しくなってきましたね。
今週もおつかれさまでした。

今週、わたしは『アザー・ミュージック』という映画を観てきました。2016年までニューヨークにあったレコード店のドキュメンタリーです。

アザー・ミュージックの開業は1995年。場所はなんと、あのタワーレコードの向かいで、広さは小さいコンビニくらい(天井は高いけど)。それでも、この店が音楽マニアから熱烈に支持を受けたのは、独自のセンスで、既存のジャンルでくくれない「そのほか=アザー」な音楽をセレクトしていたからでした。

スタッフたちも超個性的。人種、性別もさまざま、たぶん、みんな「社会不適合者」。でも一人ひとりが専門をもち、お客さんとコミュニケーションをとって適切な作品をレコメンドしていきます。ここに、政治や経済とはまた別なやり方で場をつくる、「文化」の理想形があるようにおもいました。

そんなアザー・ミュージックは閉店を決めます。
要因はやはりストリーミングサービス。もうすこし細かくいうと、ストリーミングによって、CDの売上が下がったことです。CDは原価と送料が安く、店にとって利幅の大きい商品だったのです。

映画の終盤、すっかり商品が運び出され、スタッフもいなくなって、がらんとしたお店が映しだされます。店長のひとり、ジョシュさんの目に光るものが見えると、観客からすすり泣く声が聞こえました。

わたしも、懐かしさで胸がいっぱいになりました。
学生時代に働いていた中古レコード店を思い出したからです。

その店は、東京のはずれの町田にあり、ひろい売り場にレコードとCDが隅々までおかれ、お客さんは気がすむまでそれらを物色することができました。

スタッフはアザー・ミュージックと同じく、音楽マニア。20歳そこそこだったわたしに、ボブ・ディランから新井満(あらい・まん)まであらゆるジャンルからオススメを教えてくれました。

彼らはそれぞれいろいろな生き方をしていたのも魅力で、教師の親をもつわたしに「こんな大人もいるのか」と気づかせてくれました。
そう、わたしにとって、そこはもうひとつの学校だったのです。

この映画で、店に集った人たちを思い出しました。
日曜の昼下がり、100円のジャンク品コーナーを半日かけてチェックし、やっと数枚を抜き出し、ほくほく顔で買っていく中年男性。いつもぶっきらぼうなくせに、ザ・バンドのリヴォン・ヘルムが死んだとき目を真っ赤にしていた店長。

思い返せば、お店にあつまっていた人たちは、社会からみればちっとも何かにくくれない「そのほか」な人たち(=アザーズ)でした。きっと、居心地のよさを感じていたわたしも、その一員なのでしょう。

その店も10年前に閉まり、いまはスタッフもお客さんもちりぢりです。この10年、あらゆる街で似たようなことが起きたのだとおもいます。

映画館をあとにして、渋谷駅に向かう間、わたしはJohn Mayer「Waiting On The World To Change」をイヤホンから流しました。「しまやん(その店でのわたしのあだ名)、このドラム、スティーヴ・ジョーダン」と教えてもらった曲で、当時の進行していたイラク戦争をうたっていて、こんな一節が印象的です。

it's hard to beat the system when we're standing at a distance
so we keep waiting on the world to change
「Waiting On The World To Change」アルバム『 Continuum』収録

ここじゃ「システム」にあらがうのは難しい/そう、だからさ、この世界が変わることを待ち続けようよ――さんざんな世の中への「あきらめ」にも聞こえます。でも、ゆったりとタメのきいたリズムにのる歌声から、「いつだって希望をもって、気長にやろうよ」といっているようにわたしには聴こえるのです。

またいつかイイ感じの場所でアザーズたちと会えるといいな、そう思ったところで、わたしは駅に着いたのでした。

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