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イギリス人渋谷ギャルとの10年に渡る友情

先日、すごくうれしい再会があった。

彼らは遠くイギリスはロンドンから来た旅行者で、右の女性は僕の古くからの友人でもある。名前はEilish(アイリッシュ)。28歳。

夜の渋谷で、お互いの近況や昔のことを話し合った。その様子をモノクロフィルムを詰めたライカで記録した。

彼女はロンドンに住んでいるから写真はそう簡単に撮り直せない(どんな写真でもそうだろうけど、この場合は距離的にすぐには会えないから、という意味で)

だからこの日はとにかく数を撮った。アルコールでクラクラする頭に鞭を打ちながら。

現像もこれまでにないほどの緊張感。薬品の順番を間違えたら一瞬にしてフィルムがダメになる可能性もあるからだ。現像、乾燥、そしてスキャン。慎重に作業を重ね、冒頭の写真がネガに浮かび上がってくる。僕はほっと胸を撫で下ろした。


Eilishとの出会いは10年前に遡る。駆け出しのテレビADだった僕は、彼女の初来日に密着したのだ。


「外国人女性、初めての日本旅行」みたいなタイトルって、誰もが耳にしたことがあるはずだ。

外国人が異国の地で初体験するカルチャーに驚き戸惑うサマを面白おかしく描くのはテレビの定番で、番組ごとに微妙に視点を変えながら作られ続けるヒットコンテンツである。

そんなありきたりな企画だったが、普通じゃない要素が1つだけあった。

それは、彼女が渋谷カルチャーをこよなく愛する「イギリス人渋谷ギャル」だったことだ。

中でもガングロメイクに厚底ブーツ、パラパラなど、1990年代後期〜00年代に渋谷で流行したティーンカルチャーに傾倒していた。よくわからない、という方はGoogleで「雑誌 egg」と検索してもらえれば雰囲気が掴んでもらえるはず。

Youtubeで彼女がパラパラを踊る動画を見つけコンタクトを取ると、トントン拍子で密着企画が決まった。2009年の冬。Eilishは19歳、僕は24歳のときだった。

成田空港で彼女を出迎えたときは驚いた。なんたって英語を話すガングロ外国人だ。インパクトがすごい。

写真は空港から東京に戻る最中の1コマで、まだ出会って30分も経っていないころ。ExifによるとカメラはSHARPのW61SHというガラケー。2008年発売の機種だけあり、今見るとひどい画質ではある。

かろうじて残っている写真もほぼプリクラで、自分にとってはちょっと恥ずかしいものばかりだ(彼女がいかに渋谷を楽しんでいたかはわかるが...)

ちなみに上に映るのが当時の僕とディレクター。顔の横には「密着期間中に呼びやすいように」と、Eilishが考案した僕らのイングリッシュネームが書かれている。

ディレクターはPaul Fantasia(ポール・ファンタジア)。

僕はPeter Mysterious(ピーター・ミステリアス)。

どうしてこの名前になったのかはもう覚えていない。



2週間近い密着中、僕たちは撮影者であり、ツアーコーディネーターのようでもあった。ショッピングでは彼女たちの荷物を持ち、おいしい日本食レストランを紹介する。

ドンキホーテや「聖地」渋谷109を見たときはすごく興奮していたなぁ。カオスすぎるスクランブル交差点で一緒に年越ししたのも今となっては思い出だ。

これは彼女たちが宿泊する部屋でガングロメイクを施されたとき。なかなかパンチのあるギャルに変身している。完全に彼女のおもちゃになっている。

今回の密着を通じて、僕たちには撮影者と被写体の枠を超えた繋がりが出来た。

そう言うと、少し美化しすぎな気もする。僕らには少しでも良い映像を作りたいという下心があったし、彼女にしてもいろいろと都合の良い相手だったろうことは想像がつく。振り回された部分もあったが、楽しいシーンの方が圧倒的に印象に残っている。



かくして、Eilishの初来日は幕を閉じた。密着企画は無事放送され、一定の評価も得たように記憶している。

そんな僕たちの関係は、2009年だけでは終わらなかった。

日本での密着から6年後の2015年、ロンドンのピカデリーサーカスで再会を果たした。今度は僕が仕事でイギリスに行くチャンスを利用した。

6年という歳月は人を変えるには十分だ。ご覧の通り、彼女はギャルを卒業していた。聞けば卒業の理由も日本人ギャルと同じで、「若気の至り」のようなものだという。

ちなみに写真真ん中の男性も、Eilishの初来日に同行していた。このnoteの1枚目のプリクラに写っている人と同一人物。こちらも変化に驚くばかり。


そして、渋谷ギャルを卒業してもEilishの日本愛は変わらなかった。毎年のように日本へやってくる彼女のおかげで、僕たちの友情は続いた。

2016年。表参道。

2017年は渋谷で銀だこ。

2018年には彼女を家に招いた。子供たちに束の間の国際交流を体験させてくれた。

そして2019年である。

僕は、趣味になったフィルムカメラで彼女との時間を残した。

彼氏がめちゃめちゃかっこいい。

懐かしの渋谷109前。

そういえば、今年の4月にあのロゴも変わってしまったんだよなぁ。

これついて彼女は日本人以上に思うところがあるようだが、これも時の流れである。

楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

話したのもいつも通り他愛もないことで、ゲーム・オブ・スローンズの最終話は納得いかないとか、イギリスから見ているドキュメンタルがめちゃくちゃ面白いとか、そういう話。

サッカー好きの僕からすればロンドン在住はとてもうらやましいのだけど、彼氏は興味がないようだった。倒れるフリとかばっかりでつまんないらしい。モータースポーツとUFCは見ているとのこと。へぇー。

Vikingsというドラマは激推しされた。そこまで言うなら見てみようかな。




それにしても不思議な縁である。

学校の同級生であってもこうして定期的に会う仲の人はそういない。もしかしたら、東京とロンドンという距離があるからこその関係なのかもとも思う。せっかく来るなら会っておかなきゃって。


今回の写真はプリントして彼女に送りたいと思う。本当はロンドンまで届けに行きたいのだけど、今は絶賛子育て中の身。簡単には叶いそうにない。

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