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#182 日本人が戦争しないために

毎年 終戦記念日前後に戦争関連の本を読むと決めている

今回はいよいよ半藤さんの総括的一冊ともいえる「あの戦争と日本人」を拝読した。

”あの戦争”という言葉をチョイスしたことにはどうやら訳がありそうで(書籍の中では太平洋戦争としても大東亜戦争としてもクレームが来るからと書いてあるが)、それは半藤さん自身の拘りでもある「歴史は繋がっている」ということに付随するのではないかと解釈。

つまり8/15を終戦記念日とするいわゆる太平洋戦争は、実は幕末・西南戦争あたりから脈々と続いている結果なのだと。

そういうことで自分自身、この本に辿り着くにあたって半藤さんの「幕末史」「昭和史」はもちろん、司馬遼太郎さんの「世に棲む日々」や「坂の上の雲」、百田尚樹さんの「永遠の零」なんかも読破したうえで読むことにした。まさに集大成的に。
そしてこれが良かった。

「あの戦争」とは、今の私たちが日本で暮らすうえでその礎となっている全てを指している。
もう77年も経ってしまったが、まだたった77年前に確かにここで暮らしていた人たちの思考がそうであったと考えると、実にシビれる。
そう、これは現実であり、私たち自身の歴史なのだ。



■熱狂

半藤さんは、戦争の原因として繰り返し熱狂の危険性を訴えている。

日本人はどちらかというと皆に倣うことを良しとされてきて、それ故に個性が無いとかイノベーションが生まれにくいとか言われてしまうのだけど、
その代わりかなり高い理性と秩序を持っている。それは世界一と言ってもいい。

そしてこの世界一右に倣う国民が、誰か(それはメディアも含む)の掛け声によってそうだ!そうだ!と画一的に騒ぎ出せば、それはもう危険な状況だという訳だ。

幕末以降の戦争は全てこの熱狂によって起きた。

今はSNSなどで比較的多くの人が異なる意見をぶつけ合うことが出来るようになっているけれど、果たしてもし”そのような傾向”になった時、盲目的にそうだ!そうだ!と言わずに冷静になれるのだろうか。
自分でも良くわからない。


■成功体験と精神論

日本にとって、悪い意味での大きな機転は日露戦争の勝利だったように思う。

当時の口シアとは像と蟻ぐらいの戦力差があって、正直リスクの高い戦争だった。ではなぜそんな戦争をしたのか。

答えは簡単で、そうしないと植民地にされてしまうから。他の国(特にアジア)に勝手に上がり込んで土地を奪ってしまうのは当時の世界の常識で、中国はじめ他のアジアは欧米列強国にとにかくやられてた。

やられないためには自分も強くなる必要があって、国家予算の半分以上を軍事費に充てて国民もヒーヒー言いながらそれに耐えていた。
だからこそ、絶対に負けないために当時の頭のいい人たちがそれはそれは必死に考えて、議論して、判断してそして決断したという。

結果は大勝利。それまでヒーヒー言いながら耐えてきた国民はみんな万歳万歳と喜んで、日本人は一気に自信を付けた。オレたちは強い!と。

もう一つ凄いのは、この戦争をするにあたって偉い人たちがその終わらせ方まで議論していたという事。実際に日露戦争もあと少し長引いたら戦力的に劣る日本は逆転されていたかもしれないと、本には記されている。
まさに身の丈を知っていたからこそ、日本海で最後の戦いをする裏で(仲介役の)アメリカと交渉できていたという訳だ。

しかし、

この勝利とそれによって得た自信が、後の日本人を盲目的にしてしまう。
自己肯定感の高まりと調子に乗って破滅してしまうことは表裏一体で、それは個人も国家も同じなんだ。

太平洋戦争を始めた人と、推し進めた人と、原爆が落ちるまで終わらせられなかった人が日露戦争の勝利でオレたちは出来ると勘違いし、大したロジックも無くただ自分自身に言い聞かせるだけで勝利を叫んでいたことは間違いない。

成功体験は神格化されて精神論に置き換わって・・・あれ、潰れる会社にそっくりだ。



■口シア

太平洋戦争関連の本をあれこれ読んでいると、子供の頃のイメージと違うなと思うのがこの戦争が対アメリカではなく、意外と対口シアの色が濃いこと。

当時の日本にとって口シアは迷惑な隣人そのもので、とにかく口シアに侵入されないために軍備を整えていたことが良くわかる。
ある本には、ほふく前進の訓練は上半身裸で雪上でやるのが当たり前だったと書かれていた。

これって・・・

今は口シアの侵攻を対岸の火事のように見ているけど、ほんの数十年前までは日本も同じように恐怖にさらされていたという事か。恐口シアすぎる。
まぁ当時は満州や樺太が直接的に隣接していたからなんだけど・・・それにしても恐ろしい。


半藤さんが亡くなられたのが2021年1月。口シアが侵攻を始めたのが2022年2月。つまり半藤さんはこの歴史的出来事を知らずにこの世を去ってしまった

日本人を熱狂させてしまった日露戦争。そして日本人をいつも恐れさせていた口シア。
そんな口シアの暴挙と今の日本の雰囲気を見た時、半藤さんは果たして「危ない」と思うのだろうか、それとも「今の日本なら大丈夫」と思うのだろうか。

是非伺ってみたいが、それはもう叶わない。
私たちはこうして、戦争の生き証人なしで常に平和への判断していかなくてはならない。


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