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#263 ゴッホを知ると面白い

絵画というのは正直 理解しがたい側面がある。

ゴッホの「ひまわり」を日本の保険会社が58億円で落札して話題になったけど、当時まだ幼く知識のなかった自分としてはいったい何がどう凄いのかが良くわからないままであった。

バブルの象徴とも言われたこの落札劇。
なぜその対象がゴッホであり、ひまわりだったのか。


その辺の何とも言えぬモヤモヤとした難しさ、およびそれを取り巻く知識欲求を埋めるのにうってつけの小説を年末年始に読んだ。
それが原田マハさんの書いた「たゆたえども沈まず」「リボルバー」である。

両方とも史実をもとにしたフィクションである、と明記されている。
つまりは圧倒的な調査によって明らかになった事実を、(読みやすいように)物語として組み立ててみた、と言ったところだろうか。

順番的には「たゆたえども沈まず」→「リボルバー」と読み進めることを強く推奨する。

確かに読みやすく、そして、なるほどだからゴッホは人々を魅了するのかと理解することが出来た。



■ゴッホは2人いる

詳しい人からすれば当たり前のことかもしれないが、ゴッホは2人いる。

多くの人が知っているひまわりを描いて耳を切ったゴッホは、フィンセント・ファン・ゴッホ
そしてもう一人はテオドルス・ファン・ゴッホ。通称テオ。フィンセントの実弟である。

実はゴッホの物語とは、そのほとんどが弟のテオの物語と言っていい。ゴッホの作品が後世にてこれほどまで価値を高めたのは、生前のテオによる圧倒的な尽力、そして(テオに先立たれて)残された妻のヨーによる功績が大きい。

ゴッホとその絵画の価値を知るのに、このテオの存在を強く認識できたことは非常に大きかった。
例えば学校の授業で「ゴッホの絵画は歴史的価値がありまーす」とだけ教わっても全く面白くないが、もう少しだけ深堀してテオの存在に気付けばその話は格段に面白くなる。

詳細は「たゆたえども沈まず」に譲るが、
狂気の画家であったフィンセントと、それを支えたテオの愛を知ればゴッホの絵画に人々が興味を持つ理由がわかるのではないだろうか。



■葛飾北斎とゴッホ

原田マハさんの小説の表紙になっている「星月夜」と「ひまわり」。

これらは多くの人がどこかで目にしたことのある有名な絵だと思うが、僕がこの小説を読み進めながら最も興味を持ったゴッホの絵がこれであった。

通称「タンギー爺さんの肖像画」
タンギー爺さんとは当時パリで売れない画家たちの絵画を買い取り、筆やインクなどの資金を提供していたという画材屋の主人で、ゴッホも相当世話になっていたという。

これは画材代が払えない代わりにゴッホが書いてあげた肖像画という事だが・・・注目すべきはその背景。そこにははっきりと富士山やら歌舞伎役者やらの浮世絵が描かれているのだ!


ゴッホが活動していたのは日本が江戸から明治に移り変わったころ。この頃には既に葛飾北斎の浮世絵がヨーロッパにあり、それだけでなくこれらの画風はかなりゴッホらに影響を与えていたという。

この事は正直知らなかったのでかなりセンセーショナルだった。


日本人はそりゃ余計にゴッホの事が好きだよな、と思わせるれっきとした事実だし少し誇らしい気持ちにすらなる。
では、どうしてゴッホは浮世絵と出会えたのか?というのはこれまた原田マハさんの小説に譲るとして、これもまた絵画の価値を高める逸話ではないだろうか。


ちなみに1/3に放送されたこちらの番組。
なぜ彼は北斎の絵を求めてわざわざヨーロッパに行ったのかというのがこの小説を読めばわかる。

次々に明らかになる幻の北斎画は鳥肌モノだった。ぜひ小説を読んだ後に番組を見て欲しい。



■理解しがたいからこそ

小説を読んでいると良くわかるのだが、ゴッホ(兄の方)はなかなかのダメ人間である。

もしかしたら中には彼自身を受け入れられない人もいるだろう。ズバリ「なんだこいつ・・・」てな感じで。

しかし世の中というのは皮肉なもんで、
フィンセントがダメ人間であるが故にテオの兄弟愛は際立つし、フィンセントの行動が理解しがたいがために、史実は謎めいていてミステリー要素を増長させている。

つまり、
変なやつでダメ要素が強いからこそ物語は面白いのであり、(面白いだけならなんてことはないのだが)時を経て58億もの価値にて数値化されてしまったという訳だ。


なぜあの絵に大金が支払われるのか、というモヤモヤした感情を払しょくするために調べてみたら、モヤモヤするからこを大金が支払われた、という何とも言えぬ結論だった。
苦笑せざるを得ない結末だが、どうやらこれが世の中の真実らしい。


おかしなことは起こる。変なやつはいる。

しかし、それらは見方を変えれば別のものの価値を促す貴重な要素かもしれない。自分自身の価値観だけで判断せず、受け入れて、共存すれば自らの価値は58億まで高まる。かもしれない。


そんな学びにて、強引に読書感想文を〆たい。笑





本日も、最後までお読みいただきありがとうございました!



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