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短歌 新作8首 『湿度を上げる』


車に乗っている間は、みんな揃って前方を向いているから、向き合うことはない。
けれど、向き合っていないからこそ見つけられるものもある。
例えばそれは、無防備にうたた寝する横顔だったりする。
そんな気分を、8つの短歌で書いてみました。

第一歌集『愛を歌え』には収録されていない新作です。
もしも気に入っていただけたら、ぜひ『愛を歌え』も読んでみてくださいね。
あの俵万智さんが帯文で「今を生きる愛の名言が、ここにある。」と太鼓判を押してくださった、295の短歌で綴った物語です。

湿度を上げる  鈴掛真

ハンドルと君の命を握りつつ新東名は朝日へ延びる

追う者と追われる者が共に乗る車内に似合う音楽が無い

助手席で寝ているうちに車ごと崖に墜ちれば君と死ねるね

帰らないでと言ったなら君の手はいくつ湿度を上げるのだろう

別れたこと知っているのに最後まで君は話してくれないんだね

傷つかない生き方ばかり心得て焼肉だってひとりで食える

車からもう降りたのにいつまでも視線が合わないような俺たち

感触を上書きしないように手をポケットに入れてぎゅっと握った

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