見出し画像

古典レトリック概要

最初のおことわりとして、古典レトリックの歴史や背景、これらを長々書くことは控えようと思う。というのも、これまで自分が調べてみて「これは大切だ」と感じたポイントだけ、わかりやすく図式化して伝えることに務める。

まずは、ざっと眺めていただく。
そして、この考えは何かに応用できそうだな、と多くの人に実感してもらうのが目的だ。

そのため、じっくり読まれない文字の羅列は、枝葉として刈り込んでおこうと思う。

※どうしても歴史や背景が気になる方は、こちらをどうぞ。


言葉を使って相手の心を駆動する技術

人が、言葉を使ったコミュニケーションを取り続けるかぎり、古典レトリックの技術は色褪せることがない。まず、下の図を見てほしい。

言葉の対象が人である以上、この技術は応用できる

仕事でも、会話でも、それがデジタルツールであっても、人は自分が伝えたい情報を「言葉」にして投げかける。そこには情報の発信者と受け手が存在する。

古典レトリックの要点


古典レトリックは、その言葉で相手に影響を与え、行動を促す技術だ。言葉の対象が人であり、その情報の受け手に対し何らかの思惑がある場合、この技術は応用できる。

レトリックの効果的な活用事例

少し話は変わるが、僕は中国の古典が好きで、数多くの歴史書を読んできた。
中でも、三国志に登場する曹操という人物がいる。曹操は、「言葉」というものをとても特別なものと考えていたのだろう。

曹操は有名な詩(四言詩)をたくさん残している。※この詩についてもまとめようと思っていたが、Sakura氏のnoteにわかりやすく掲載されていたので許可を得て引用させていただく。

曹操は、言葉をつないだこれらの詩は、単なる詩歌ではないと思っていた。

詩は、その人の内面に溢れる志の別の形。
志を言葉で発した時、それは「詩」になる。

「詩以言志(詩を以って志を言わん)」という姿勢。
彼の詩を構成するものは、分解すればただの文字であり記号にすぎない。
けれども、現代の人の心を動かすのは、

・言葉の選び方
・韻の踏み方
・修飾表現

そして、それを楽曲に合わせ、大勢の文官・武将の前で披露するという場面設定。古典レトリックがわからなかったとき、僕は彼の詩を眺めても上のような捉え方はできなかった。

いま思うのは、これはすべてが完璧なレトリックであるということ。

では、この技術は偉大な人しか使えないのか?というとそんなことはない。

このレトリックには、ともいうべき原則が存在する。
話をレトリックに戻そう。

古典レトリックの5原則

レトリック・カノン

古典レトリックは、長い年月をかけてスクリーニングされた技術である。何もないところから学ぶのではなく、レトリックを実践するための5つの原則が存在する。それが上のフロー図であり、これはガイドラインのような役割を担っている。

本来、レトリックは「話し言葉」「書き言葉」の両面を持っていた。

だが、現代のレトリックが、ごく一部の「修辞表現」に留まっているのは、書き言葉だけに着目しているからにほかならない。いわゆる、コピーライターが行うような、

  • キャッチフレーズを作るための文体のあり方

  • 何か別のものに例えて印象を操作するような方法

これらは本来、レトリックの1つの側面に過ぎない。

話し言葉と書き言葉、両方の側面を持つ

上のフロー図にある記憶や提示は、受け手の記憶に残るために行うべきことや、効果的なプレゼンテーション技法についてまとめられている。

実は、修辞表現の前後に挟まれている工程こそ、言葉を使った情報伝達という意味からも、とても大切なことが示されていると思う。このあたりの詳細は、別のnoteで1つ1つ見て行こうと思う。

少なくとも、レトリックと聞いて誰もが想像する「修辞表現」。
これだけがすべてではない。

書き言葉としての表現=レトリックではない、ということ

時間経過とともに、古典レトリックの限定的な部分にだけフォーカスされている事実を覚えておいてほしい。

デザイン思考との共通点

古典レトリックの5原則は、IAやUXデザイナーがよく使うフレームワークと共通点が多い。例えば、デザイン思考を実践的に行うためのフレームワークにダブルダイヤモンドというものがある。

例:デザイン思考のフレームワーク

上の図のように、発散と収束の中で繰り返し検討を重ねながら、最終的にプロダクト提供にいたるような流れとなっている。これを、レトリック・カノンの工程に照らし合わせると次のようになる。

レトリック・カノンとダブルダイヤモンドの工程比較

こうして並べてみると、実は両者のアプローチがとても似ていることに気づくだろう。もっとイメージしやすく可視化するとこのようになる。

両者のアプローチの流れ

情報を収集し、それを整理して分類し、解決策となるようなアイデアを練り上げ、具現化して提供する、という一連の工程。ここに共通の概念が存在する。もう少し、詳しく見ていく。


STEP. 1 発想(Inventio)/発見フェーズ

古典レトリックでは、話題や議論のための材料を集める段階。
デザイン思考では、問題認識や洞察を深めるため、ユーザー調査や市場調査が行われる段階。


STEP. 2 配置(Dispositio)/定義フェーズ

古典レトリックでは、集めた情報を効果的に組織し、構造を決める段階。
デザイン思考では、集めた情報を分析し、問題を明確に定義する段階。


STEP. 3 修辞表現(Elocutio)/表現フェーズ

古典レトリックでは、伝えたい言葉をどのように表現するか、そのスタイルや修辞を決める段階。
デザイン思考では、問題解決のためのアイデアを生成し、よりクリエイティブなものへ進化させる段階。


STEP. 4 記憶(Memoria)/プロト展開フェーズ

古典レトリックでは、その言葉の内面を捉え、状況や場面に応じて記憶に残る伝え方を試行する段階。
デザイン思考では、アイデアを具体的なプロトタイプに変え、テスト可能な形で実現する段階。

STEP. 5 提示(Pronuntiatio)/テストフェーズ

古典レトリックでは、最終的な言論やプレゼンテーションの実行段階。
デザイン思考では、実際のユーザーにプロダクトを提供し、フィードバックを得て改善点を特定する段階。

このnoteではポイントだけを列挙しているが、これからまとめて公開していく記事で、さらに深堀りして見ていこうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?