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主権者教育を もっとコミュニティ番組で                  『映画〇月〇日、区長になる女。』から見えた地域情報とは         <市民メディアの現場から Vol.4>                  B-maga 2024 1月号

 ケーブルテレビのコミュニティチャンネル
を活用して、もっと教育の現場とつながっ
た番組作りができないかと以前から考えて
いる。特に児童生徒が地域の課題を考える
「総合的な授業」などで、現場に出て取材
した内容をコミュニティ番組で情報発信し
ていければ、地域の主権者としての子ども
たちの意識は飛躍的に高められるだろうと
イメージしている。
 地域の課題を解決する学習を通して主
権者としての自覚を高める「シティズンシップ
(主権者)教育」の実践が多様な教育の
場で広がっている中、子どもたちが考えた
課題解決の政策などを、実際に地域の人
たちに届けることがテレビの放送によってで
きれば、とても楽しい授業になるだろう。
地域情報というとイベントやお店の紹介
などを中心とした情報番組が多く、視聴者
が受け身で情報を得るのが従来の傾向だ
が、子どもも含めて視聴者が発信者として
の役割を果たせるような番組づくりができる
と、地域情報番組はもっと活況になると考
えている。
 私の関わった授業の事例だが、3年前
に埼玉県の中学校で、2年生が地域メディ
アの記者になって模擬記者会見を取材す
る授業をしたことがある。コロナ禍で苦しむ
地元企業が倒産したという想定で、社長
の記者会見を設定し、中学生記者が会社
の再建策や従業員の雇用対策を質問し
て、何をニュースにするかを取材班ごとに
考えた。中学生が地域を元気にするために
考えた内容を、地域番組で発信できるよう
なことができれば、さらにいろいろな反響も
得られ面白さが増しただろうと感じた。
 そこで、2024年1月2日から都内で公開さ
れた映画が「主権者教育番組」のモデル
になるなぁと受け止めたので紹介したい。
『映画 〇月〇日(マルガツマルニチ)、区長
になる女。』という少々不思議なタイトルだが、
杉並区の区長選のドキュメンタリー作品だ。
 わずか187票差で3期12年の現職を破
り、無党派の女性候補が当選した2022年
6月の杉並区長選は、市民選挙が政治を
変えたことに注目が集まった。その後も昨春
の統一地方選で市民派の首長や議員が
各地で多く誕生するなど、深刻な政治不
信を変える新しい潮流が広がっている。今、
有権者の意識がどう変化しどんな選挙を
すればいいのか、この映画を観れば分か
る。そして政治を変える展望を提示、希望
を示してくれている。
 杉並区の住民たちが岸本聡子を候補
者として擁立。カメラは岸本に密着し、選
挙活動の会議の様子や岸本と応援者が
議論する姿など、裏側を遠慮なく捉えてい
く。撮影するのは監督のペヤンヌマキ。杉
並区在住の劇作家・演出家の彼女は、長
年住むアパートが道路拡張計画により立
ち退きの危機にあることを知り、止める方法
を自身で調べ動き始めたのがきっかけで
選挙に関わったという。
 そして投票率を上げるため、YouTubeで
選挙期間中に密着した映像を『映画 〇月
〇日、区長になる女。』のハッシュタグを付
けて発信し、岸本の魅力や活動を伝えたの
だ。その映像を編集して本作はできたのだ
が、なんともその密着ぶりが「当事者メディ
ア」の視点なので素直に受け止められる。
監督が「自分ごと」としていて好感できた。
 今は岸本区長になった杉並区の議会
や区民たちの動きを撮影しているそうなの
で、次回作で「区長になった女」や区民ら
が取り組んだことを描いてほしいと期待し
たくなった。
 この映画をぜひ観ていただきたいのだが、
単に従来の「映画」の枠で捉えるのではな
く、地域の主権者とはどうあるべきかを考え
るための「これからの地域情報番組」と受
け止め、コミュニティ番組として放送するよ
うな感覚で、多くの人たちに観てほしいと感
じている。
 ペヤンヌマキ監督が語るのは、「本当は、
猫とまったりお昼寝したり、お気に入りの川
沿いを散歩して、バードウォッチングを楽し
んだりしていたかっただけなんです。だけど
黙っていたら、この生活が奪われてしまう。
もう黙っちゃいられない!」。そして「これは
現在私に起きていることであり、杉並区で
起きていることであり、どこでも誰にでも起こ
りうること」と述べている。
 この感覚が今、地域の主権者にとってと
ても必要とされている。昨年末から国政は
深刻な政治不信の事態に陥っているが、
筆者はこの草の根ドキュメンタリーに希望を
見出している。

鈴木賀津彦(すずき・かつひこ)
東京新聞(中日新聞東京本社)の記者として長年勤めた経験を活かし、定年退職後に複数の大学で非常勤講師としてメディア情報リテ
ラシーなどの授業を担当。特にデジタル・シティズンシップ教育に取り組む。記者時代から、誰もが発信者になる時代のメディアの在り方と
して、市民メディアの役割を重視、NPOなどで市民メディアプロデューサーとして活動。横浜市在住。

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