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AI時代に高まる音声メディアの役割             地域に求められ挑戦する「金沢シーサイドFM」 

◆地域に密着した情報を
 放送するメディアって温かい

 横浜市金沢区で2022年10月に開局し
たコミュニティFM「金沢シーサイドFM」社
長の松原勇稀さん(23)に来てもらい、私の
担当する大学の毎期の授業で講義しても
らっているが、多くの学生が、ラジオ局のイ
メージを覆されて「目からうろこ」の感想を寄
せてくる。時代遅れのラジオ放送を起業す
るなんて未来はあるの? と疑問を抱いてい
た学生も、地域メディアが果たすコミュニティ
づくりの魅力を理解するようになるからだ。
 金沢シーサイドFMは「学生起業」のラジ
オ局として注目を集めた。金沢区にある関
東学院大学経済学部の伊藤明己(はる
き)教授のゼミで、「地域メディア」を学ぶ学
生たちが「地域活性化のためにラジオ局
を」と住民たちに呼びかけ設立準備委員
会を発足。地域の企業や商店などから出
資を募るなどの協力を得て、2021年に伊
藤ゼミの3年生だった松原さんが社長にな
り会社を設立、開局を実現した。
 出資のお願いで企業訪問した時も「今さ
らラジオ局なんかつくって経営は成り立つ
の?」と冷ややかな対応も多く、資金集めは
苦労したが、開局の設備投資などに必要
な約3,000万円を集めることができた。開
局後も番組スポンサーの数が「コミュニティ
FMで日本一」になるという営業努力を続
けている(日本一と言っても300件程度な
のだが・・・)。
 黒字化はまだ先とはいえ、営業面では
売上額も伸ばしている。音声を電波に乗せ
るだけの従来のラジオとは違い、地域の
ポータルメディアとして多様な分野の情報
をつないで地域コミュニティを盛り上げてい
るからだ。放送事業を核にしながら、ネットで
の工夫が地域の潜在力を高めている。金
沢区エリアに特化した求人媒体の「かなザ
WORK」、お店・事業者と区民をマッチさ
せる会員システムの「かなざわCREW」、ク
リニック情報を区民に届ける「シーサイ
DOCTORS」のほか、「シーサイドインフル
エンサーズ」など、サイトで地域の人と人を
つなぎ「活性化」につなげる仕掛けだ。
 ネットだけではなくリアルなイベントや定期
発行の雑誌を発行し、人の出会いを促す
取り組みもして、「金沢区のコミュニケーショ
ンを成立させるマスディア」として事業を広
げている。

◆ラジオ離れが進んでいる
 現代でもアイデア次第で
 可能性が無限大

 ラジオ局の事業をこんな形で広げている
ことを松原さんの講義で聴いた大学1年
生の感想を、少し長くなるがそのまま紹介
しよう。
<松原さんが自分の生まれ育った地域に
還元したいという強い思いからラジオ局を
設立されたと伺って、その行動力が素晴ら
しいと思いました。また、会社を運営する上
での目標や展開していくサービス内容が明
確化されているからこそ、全国1位という目
標の達成につながったのだと思いましたし、
今日聞かせていただいてとても説得力があ
り引きつけられるものがありました。私はコ
ミュニティFMという言葉を今日初めて聞い
たのですが、こんなに魅力があるとは思い
ませんでした。特に魅力的に感じたのは広
告出稿のメリットについてのお話です。地
域密着型のラジオだからこそ、その地域の
小さなお店も広告を出しやすかったり、公
共性があることで企業やお店にとっても大
事な信頼の獲得ができたりと、松原さんの
会社、スポンサー、リスナーの全ての人に
とって有益であることが分かりました。他に
もコアなリスナーのために聖地巡礼の企画
をしたり、地域の子供たちのために発表の
場を設けたり、求人情報を展開したりなどさ
まざまなイベントに発展していけると伺って、
ラジオ離れが進んでいる現代でもアイデア
次第で可能性が無限大だなと感じました。
もちろん防災情報の提供などではいつも
聞いている地域のラジオであれば信頼でき
るし、安心感が生まれるのではないかと思
います。自分の町にもこんな素敵なラジオ
があったらいいのにと思いました。>
 昨年12月の授業での感
想ですが、他の学生たちの
感想もまとめてあるので右の
QRコードからご覧ください。
この動きについて、小さい事業だからで
きることではないかと受け止める学生には、
あの堀江貴文氏が今後の事業のためにと
昨年9月に北九州市のFM局を買収したこ
とを伝えている。「ラジオ局をあのホリエモン
が!」と驚き、理解を深めてもらえるからだ。
 堀江氏の記者会見はウェブのニュース
で映像が見られるので(右
QRコード)ご覧いただき、ラジ
オ局の未来をイメージしてい
ただきたい。

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市 民 メ デ ィ ア の 現 場 か ら Text by 鈴木賀津彦
Vol.7
鈴木賀津彦(すずき・かつひこ)
東京新聞(中日新聞東京本社)の記者として長年勤めた経験を活かし、定年退職後に複数の大学で非常勤講師としてメディア情報リテ
ラシーなどの授業を担当。特にデジタル・シティズンシップ教育に取り組む。記者時代から、誰もが発信者になる時代のメディアの在り方と
して、市民メディアの役割を重視、NPOなどで市民メディアプロデューサーとして活動。横浜市在住。

【写真】学生に講義する松原勇稀社長=東京・豊島区の学習院大学で
「金沢シーサイドFM」のホームページ
https://kanazawa-seasidefm.co.jp/


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