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国際問題もローカルからの発信を   長野県から伝えたノーベル平和賞受賞者のメッセージ              <市民メディアの現場から Vol.3>                  B-maga 2023 12月号

「SDGsグローバルガバナンス
サミット2023」に集った
ノーベル平和賞の受賞者たち

 戦争のない世界を目指して私たちは何
をすればいいのでしょうか。最近の国際情
勢のニュースを見るたびに、多くの人たちが
そんな思いで「どうにかしなければ」と危機
感を募らせています。
 イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区へ
の無差別で非人道的な攻撃に強く抗議し、
攻撃の即時停止・終結を求める国際世論
が高まっています。ハマスによるイスラエル
への武力攻撃と人質の拉致、殺害に対し
ても人道的立場からの抗議も当然ですが、
紛争の解決のために国際社会はどうある
べきか、混迷を深めています。ロシアによる
ウクライナへの侵攻が続くなかでの中東で
の「戦争」です。
 そんな情勢の中、ノーベル平和賞の受
賞者6人が来日、元国連事務総長の潘基
文(パン・ギムン)氏も招いて「世界平和を
実現させるためのキックオフ大会」が11月6
日に東京都内で開催されるというので出か
けました。「SDGsグローバルガバナンスサ
ミット2023」と銘打って民間の平和活動団
体「ユナイテッド ピース インターナショナル
(UPI)」(西村峯満代表理事)が主催した
集まりで、約1,000人が詰めかけ、受賞者
らのメッセージを共有しました。
 来日したのは、平和活動家のレイマ・ボ
ウィさん(リベリア、2011年受賞)、人権活動
家カイラシュ・サティヤルティさん(インド、
2014年受賞)、人権派弁護士シリン・エバ
ディさん(イラン、2003年受賞)、人権活動
家タワックル・カーマンさん(イエメン、2011
年受賞 )、地雷禁止国際キャンペーンの
ジョディ・ウィリアムズさん(米国、1997年受
賞)の5人。予定した先住民人権活動のリ
ゴベルタ・メンチュ・タムさん(グアテマラ、
1992年受賞)は国情から来日できずにビ
デオメッセージを寄せましたが、登壇した5
人はそれぞれ子供の保護や女性参加、民
主 主 義などの観 点から平 和へ向けたス
ピーチを行いました。また、翌々日の8日には
長野県軽井沢町に場を移し、周辺の首長
らを交えた意見交換の集まりも開きました。

世界の動きを
身近なローカルから
どう発信するか

 さて、ノーベル平和賞受賞者が5人も来
日して一緒に議論したこのサミット、NHKが
この日のニュースで報じていたとはいえ、取
材したマスメディアは意外と少なかったなと
受け止めました。全国紙などの新聞記事も
目立たず、もっと報じられていいはずなのに
と、参加者の一人として感じていましたが、
長野県域の県紙「信濃毎日新聞」が力を
入れて報じていたので注目しました。
 「世界平和へ、ノーベル賞受賞者ら日本
に結集」の当日の報道や、「ノーベル平和
賞受賞5人 戦争根絶へ軽井沢で訴え」と
8日の模様を伝えたほか、ジョディ・ウィリアム
ズさんの単独インタビューや主催の西村
UPI代表の思いを伝える記事なども展開、
手厚い報じ方をしていました。
 もちろん、軽井沢で催しがあり、地元の
ニュースですし、また西村代表が長野県出
身であるという「地域ニュース」として当然
のことかもしれないのですが、そのローカル
性をうまく結びつけて、このサミットを大きく
報じた意味は大きかったと言えそうです。
世界の動きをローカルからの視点で発信
することが、こうした形でできることを示して
くれました。
 「地域のメディア」という意識が強いと、
国際情勢を伝えるニュースなどは「自分た
ちの仕事の範囲外」と捉え、ついつい人任
せにしてしまう傾向がこれまでは強くありま
した。しかし、ネットの時代、ニュースが世界
中を巡りボーダレスになって、世界の平和
に向けた行動をローカルから起こしていくこ
とがますます求められています。
 信濃毎日新聞も記事のネット配信に力を
入れており、今回の関連記事も紙の新聞
が配られている長野県内ばかりか、全国で
ネット記事を読んだ人が多かったのではない
でしょうか。世界の動きを「遠くのこと」ではな
く、身近なローカルからどう発信するかが、今
後さらに重要な取り組みになりそうです。

鈴木賀津彦(すずき・かつひこ)
東京新聞(中日新聞東京本社)の記者として長年勤めた経験を活かし、定年退職後に複数の大学で非常勤講師としてメディア情報リテ
ラシーなどの授業を担当。特にデジタル・シティズンシップ教育に取り組む。記者時代から、誰もが発信者になる時代のメディアの在り方と
して、市民メディアの役割を重視、NPOなどで市民メディアプロデューサーとして活動。横浜市在住。

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