見出し画像

人は24時間歩くとどうなるのか

僕らは旅路の全行程を終えてホテルに到着した。今、ホテルの名物である温泉に入ってきたところだ。風呂上がりで心地悪い疲労感に襲われている。

友人はというと、傍らのベッドにめり込むようにして眠っている。「ホテルに着いたら完全踏歩を祈念して美味しいものを食べよう」と思っていたのだが、こんな感じだと今日は夜ごはんを食べずに眠り続けることになるだろう。

かく言う僕も身体各所がものすごく重いし睡魔が迫ってきている。食欲どころか睡眠欲だ。もしかしたら本記事を書き上げる前に寝てしまうかもしれない。

もしこの記事が5/7に出ていなかったら、「noteを書いている途中に力尽きたんだ」と認識していただいて構わない。


今回僕らは、しまなみ海道を舞台として24時間歩行企画を行った。企画を行った理由は単純で、「24時間歩いたら人はどうなるのか」を知るためだ。

被験者は二人。日頃から短距離を主戦場として活動している僕と、マラソンとアコーディオン演奏に熱中する友人。成人男性にしてはいささか脳筋極まる二人組が、実際に24時間歩いてみたらどうなるのか。


前日の17時30分。

僕らは、尾道のフェリー乗り場から、しまなみ海道の最初の島である向島に渡った。夕方、暮れなずむ町の小さな港がこの旅のスタートだ。

画像1


前日19時(1時間30分経過)。

本来のルートから寄り道して、夕焼けのスポットと有名な神社に向かった。ベストタイミングで着いたが、曇っていたせいで夕陽は見えず。山の奥地に在している鳥居が恐ろしい光景だった。

画像2


前日20時(2時間30分経過)。

巨大な橋。「橋(はし)を走(はし)ろう」という下らなさすぎるダジャレのために貴重な体力を出力。キロ約3分30秒のペースで走ったが(意外と優秀)、橋の真ん中くらいで心が折れ断念。

画像3


前日20時半(3時間経過)。

香港料理を食べる。辛いが疲労に心地よい響きだ。

画像4


前日22時(4時間30分経過)。

もうすっかり更けてしまった夜。暗闇から聞こえるがさがさという音に震え上がる我ら一行。何者かが息を潜めている。

画像5


今日0時(6時間30分経過)。

新しい日を迎える。そろそろ体力的にキツくなる。


今日1時(7時間30分経過)。

深夜コンビニで夜食を購入。誰もいない駐車場に座り込んで栄養補給する。


今日2時(8時間30分経過)。

最初の関門。眠すぎて歩きながら寝るという蛮行に。見かねた友人が約15分の休憩をくれる。空にはたくさんの星が見え、向こう岸には新たな世界が広がっている。

画像6


今日4時30分(11時間経過)。

夜空に星が見えなくなり、東側が少し明るくなってくる。始まりの予感がする。

画像7


今日5時30分(12時間経過)。

折り返し。友人が倒れそうになりながら歩くので、おろおろしながらトイレと休めるベンチを探した。

しまなみ海道はトイレの数やベンチの数が一定ではないので、異常に密集しているところもあれば、5km歩かないと無いところもある。

友人はちょうど変なところで死にかけたので、めちゃめちゃ辛かったと思う。立ちションしない辺り紳士である。


今日10時(16時間30分経過)。

僕らの間で休憩戦争「休むか休まず歩き続けるか」勃発。旅の空気が悪くなる。


今日12時(18時間30分経過)。

友人が驚異的な速さでしまなみ海道を駆ける。時速2キロまで後退していたペースが時速5キロにV字回復し、絶望的と思われた「しまなみ海道を24時間以内で踏破」が現実的になる。

昼ご飯のあと、今度は「しまなみ海道を踏破したあとにホテルまでどうやっていくか」で口論になる。友人にあえなく敗北し、友人案「バスで行く」に決定。

この時点で、旅の目的が「24時間歩行」から「しまなみ海道完歩」になる。


今日15時(21時間30分経過)。

最後の関門である橋に到達する。全長約5キロを誇るこの橋は、No日除け&超向かい風というベストコンディション。バスの時間が16時10分過ぎの予定なので、かなり危うい。

今回の旅路にふさわしいクライマックスだ。

画像8


今日16時(22時間30分経過)。

しまなみ海道を遂に抜け、最後のカーブを競歩並みのスピードで駆けぬく。バス到着10分前に、なんとかバス停にギリギリ到達。

画像9


こうして22時間30分の激闘が終わり、僕たちは全行程80km超にわたる距離を完歩したのだ。



さて、今ホテル。

僕たちは何とかしまなみ海道を渡りきった。体調はあまり良いとは言えず、身体のあちこちが痛むわ疲労で目が霞むわで大騒ぎだ。

ただ謎に充実感だけはある。目を閉じれば、歩いてきた道が見えてくる。……と同時に意識の深淵に持っていかれそうになる。


そろそろ限界だ。何か文章も変になるし満たされた気分でもあるので、少し休眠をとることにしよう。


最後に。今回の旅のまとめ。

24時間歩くと色んなものが見えてきます。普段は現れないはずの弱さも見えてくるし、普段は湧かない感情も湧く。


コンビニの飯。喉に通らない水。鈍痛に悩まされる腰、頭、足。疲労感で意識は朦朧とする。

自然の叫び声。某かなしの静かな遠吠え。散り散りの天体。トイレが我慢できない友人の震え声。

限界、限界、越えた限界の先にまた限界。


だから良いですね。24時間歩行って。普段は世界の内側に隠されている何かが声をあげる。この声に耳を傾けるって結構貴重な機会なんじゃないかと。

皆さん、暇だったらぜひ24時間かけて全力で何かやってみてください。意外と一日ってバカに出来ないですよ?割と今回の企画では、それが一番の学びのような気がする。




※後書き

旅自体は22時間30分で終わってしまったのですが、よくよく考えてみれば尾道に降り立って友人と待ち合わせするまで、1時間30分くらい余裕で歩いていました(笑)

(参照「旅の準備運動」「黒猫の山道」)

なのでなんだかんだ24時間歩いていますね。やったぜ。



この記事が参加している募集

熟成下書き

休日のすごし方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?