見出し画像

ピンクのマーガレット

いま、カメはカフェのテラス席で小さな動揺を抱えていた。彼の目の前にはピンク色のマーガレットがひっそりと置かれている。いつもならば穏やか過ごす時間が、今日はぎこちなく落ち着きをなくしていた。

カメは通りの向こう側にウサギを見つけた。彼女はいつも通り軽やかに歩いている。カメは心の中で繰り返し自分に言い聞かせた。「落ち着け、落ち着け」と。

ウサギが彼のテーブルに辿り着くと、彼女が挨拶を交わす間もなく、カメは「ウ、ウサギさん、これを…」と言いながら、ピンクのマーガレットを差し出した。カメは彼女の瞳をじっと見つめ言葉を続けた。「僕はずっと前から君のことを…」

「えっ、カメくん?そ、それって告白なの?ちょっと待って。心の準備が…」ウサギは驚き、顔を赤らめながら戸惑った。その瞬間、彼は「なんてね。今日はエイプリールフールだから」と言って、足速に立ち去った。

ウサギは少し拍子抜けして笑顔を取り戻し、「やっぱりね。カメくんには最近よくからかわれるわ。でも、綺麗なお花に免じて許してあげる」と、マーガレットを手に取った。

その時、ウサギは花にメッセージが付いているのを見つけた。「ピンクのマーガレットの花言葉は、真実の愛」しばらく考え込んだウサギは、やっと違和感に気づいた。

「待って、エイプリールフールは昨日よね。つまり、この花言葉は…」その瞬間ウサギの頬はピンクを通り越して真っ赤に染まった。彼女はカメのいたずらが、真実の告白だった事に気づいた。

それでもこの日のウサギは冷静だった。「でも、私にはわかっているの。カメくんはルナちゃんの卒業が悲し過ぎて我を忘れているのよね」ウサギはマーガレットをじっと見つめると、彼のどこまでも純粋な気持ちを心の中で優しく包み込んだ。

この記事が参加している募集

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?