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ぼくの小鳥ちゃん

映画「マダム・ウェブ」の上映が始まって、さほど時間は経っていなかった。主人公のキャシーの部屋の窓ガラスに鳩がぶつかるシーンで、彼女は未来を視る能力に目覚めた。「このシーンは…」映画館のシートにひとり座るカメの記憶の底から一冊の本が甦った。江國香織さんの「ぼくの小鳥ちゃん」だ。

「ぼくの小鳥ちゃん」の主人公である「僕」と小鳥ちゃんの出会いは、雪の降る朝の部屋の窓辺だった。そこに小鳥ちゃんが不時着したのだ。「いやんなっちゃう。中途半端な窓の開け方」小鳥ちゃんはそう言った。

目の前の映画は、次々とシーンを変えていった。カメはスクリーンを目で追っていたが、それと並行するように、頭の中では「小鳥ちゃん」の物語が静かによみがえっていた。

小鳥ちゃんは「僕」が図書館に行くとき、いつもついてくる。でも、小鳥ちゃんは図書館をあまり好きではない。彼女曰く「ひろすぎるし、すかしてていけすかない」のだと。

カメは思い出していた。「僕」が本に夢中になっていると、小鳥ちゃんは読んでいる本の上で、眠るふりをすることも。

シアター10を後にすると、カメはふと、心の奥深くにしまっていた感情が、静かに蘇るのを感じた。「自己主張が強い小鳥ちゃんは『僕』を散々振り回すけれど、どこか憎めないんだよね」

彼の心の中に広がったのは、初めてその物語に触れた時の甘く切ない想いだった。「小鳥ちゃんにもう一度会いたいな」その感情が彼を動かした。彼は迷うことなく、小鳥ちゃんと初めて会った場所、図書館へと続く道を選んだ。

※ぼくの小鳥ちゃん
江國香織・著/荒井良二・絵/あかね書房


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