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7歳下の妹


ある日、朝起きてリビングへ行くと、塾へ行くところのはずの妹がテレビの前に張り付いていた。

聞けば、推しであるSexyZoneの菊池風磨が、KAT-TUNの中丸がMCを務める『シューイチ』に9:05頃〜出演するので、一目見てから塾に向かいたいのだと言った。

その時点で 9:00。Twitterのハッシュタグで検索しながら今か今かと待ち侘びていた。

しかし、予定の9:05を過ぎても出てくる気配がない。「なんで?!」「生放送だから、収録押してるのかな…」「見れなかったらどうしよ」と【この世の終わり】のような顔をする妹を見て、とりあえず私もTwitterで検索した。

すると「数分なら見れるかなって思ってたけど、ちょっとずれちゃってる、、 少しでも風磨眺めてから家出たい、、」と言っているツイートが流れてきたので、「(妹の名前)と同じような人いるわ」と妹に報告して、ほら!!と画面を見せようとしたとき、ビビッと電流が頭の中を駆け巡り、一瞬の判断でスマホを引っ込めた。


妹みたいな人、ではなく、それは妹本人である。


そのときの私の判断力は人生でも3本の指に入るだろう。妹と接するときに限り、私の鈍感力は凄まじく、大体の場合そうやって地雷を踏んできたのだ。今回、発見した妹のアカウントを妹に見せずに済んだのは奇跡としか言いようがない。だって、Twitterをやっていることは知っていたけれど、鍵垢ではないと知らなかったのだから。

だからどうということも別にないのだけれど。


結局、妹が家を出たのは9:15。とても9:30に授業を受ける人とは思えない所業である。


悪趣味な私は、妹が去った後、決してフォローボタンやいいねを押さないように細心の注意を払いながら、妹のツイートを盗み見した。


完ッッ全なジャニオタ垢だった。


妹がジャニーズにハマったきっかけは間違いなく私である。

私が中2の頃、奇跡的に当選したJaponismで妹は7歳にして嵐のライブデビュー。しかも、アリーナ席である。参戦時は(大野)智担だったけれどそのライブをひとつのきっかけとして、徐々にニノ担へと変化

そしてニノが開設したYouTube『ジャにのちゃんねる』(現・よにのちゃんねる)を機に、菊池風磨を知る。その後、しばらくは洗濯大名などでお笑いもできるアイドル、おもしれえヤツ!って感じだったのだが、私がパリに行っていたほんの1ヶ月のうちに、完璧な風磨担へと進化を遂げた。そして、当時から海外進出のために?改名することが決まっていたから、その彼らがSexyZoneであるうちに、とSexyZoneとしてのファンクラブに入会、その勢いのままに12月、一般発売にかけたライブチケットが見事当選し、ChapterⅡ に参戦した。


私もちょうど妹と同じ時期に嵐にハマっていたからわかる。
思春期に受験期が重なる年頃のジャニーズへの沼り方は恐ろしい。

基本的に学校や塾や部活で忙しいので友達との遊びにお金を使う必要がない。メイクは校則で禁止されていて制服がある以上、服も最低限でいいので、ファッションや美容に興味がない限り、そちらへの投資もゼロ。つまり、お年玉という名の有り金をすべて推し活に投資できてしまうし、してしまう。

暇な時間は推しのドラマ、バラエティ、楽曲、ライブBlu-ray、SNS上のジャニーズファンアカウントのチェックで満たされる。ジャニーズで、アイドル本人発信のSNSが解禁された現在、YouTubeやインスタのチェックもそこに含まれるため、さらに忙しい。


とはいえ、そんな感じで自分だけで完結しているうちはまだマシな方で。Twitter や インスタ(私の時代は「プリ画像」というサイトにもジャニーズ勢は一定数いた)でジャニオタのつぶやきを見ていると、明らかに熱量が桁外れな層がいる。

担当だけでなくて箱推しとして推しが所属するグループの他のメンバーが出演するものも全部チェックする。彼らの一挙手一投足を覚えていて、どのときのあの表情が良かった、などとつぶやける(例:「2017年3月21日のVS嵐の、このときの翔潤、尊い!」など)。それだけでは飽き足りず、自分で推しのイラストを描いたものがバズってネップリ(コンビニのネットプリントサービス)でプチグッズを作り始める(※推しで稼ぐなんてという謙虚な心があるため、自分には一銭も入らない方法で推し仲間を幸せにする)、推しで妄想した二次創作を書いてサイトで1位を獲得する、百均グッズで整理整頓した推し部屋がバズって紹介される。最近なら、TVerで配信されるものは再生回数が評価されるよう、リアタイしたあとに繰り返しTVerで見る。グッズは気に入ったものだけでなく全部買う。なんなら同じものを10個でも20個でも買う。

なんていう人たちこそジャニオタの究極形である。


私はさすがに限界で、そこまではしたことないし、できなかったのだけれど

妹はそれに片足をつっこんでいた。

Blu-rayになってからのライブDVDはこの半年で全部揃えたらしい。風磨だけでなく、箱推しとして先日は佐藤勝利くんの舞台も観にいき、中島健人の脱退が発表され「SexyZone」ではなくなることが決まってからは4人表紙の雑誌は全て買い込んだ。おかげでリビングは妹のセクゾグッズで溢れている。

Twitterでもセクラバとしての頭角を表し、少ないながらもインプ稼ぎやエロ垢ではないオタク仲間のフォロワーもついていて、先日は1つ投稿がバズっていた。


だからなんだ、という話ではあるけれど、

妹からの身バレが怖いので決してフォローはできないが、姉として、これからも妹のオタ垢を見守っていこうと思う。




私の妹

妹は、私が小学1年生のときに生まれた。

私は12月生まれで、妹は5月生まれ。だから正確には6歳半年下の妹だけど、学年にすると7学年下になる。妹の名前はおとなたちが考えた最終候補2〜3個の中から私が選んだものになった。

母曰く、3歳頃から公園で遊んでいて自分より年下の子に出会うと見ず知らずの子なのに自ら声を掛けて一緒に遊び(遊んでもらい?)、別れ際に「またあそぼうね!こんどは(私のあだ名)のおうちにあそびにきてね!」と言っていた、というエピソードが残っているほど、私は根っからの子ども好きだ。よく、妹ができると大人たちの注意がそちらに向くせいで寂しかった、嫉妬した、というエピソードが時を超えて姉の口から語られることがあるけれど、私はそんなことを感じたことがない。ただただ、妹の誕生を喜び、赤ちゃんがお腹にいるとわかった翌日から幼稚園の先生や友達、小学校の先生や友達に言いふらし、彼女が生まれてからは毎日のようにまだ名前が決まっていない妹に「赤ちゃんへ」という手紙を書いて学校から帰ってきていた。(小1の私、かわいすぎて泣ける。)

生まれてからもかわいがり続け、たくさん遊んであげたはずで、ことばを話せるようになってからは「まんま」の次に「ねんね(姉)」と言ってくれたほど良好な関係を築いていた

はずだったのだけれど、私に対するいい子でかわいい期間は突如終わりを迎え、我が妹は2歳半以降、現在進行形で姉に対する猛反抗期に突入した。その傍若無人な態度は数少ない家に来たことがある幼馴染の目にも余るもので、いつも私に対する妹の態度を目撃すると笑い転げる。彼女以外の「またまた〜」なんて言ってくる輩は、妹のエピソードを語ると皆、固まる。家庭のヒエラルキーは、私の立場から見るとピラミッドの頂点から、妹、母、父、ルンバ、私、である。(父の立場から見ると、母、妹、ルンバ私父、らしい。)


「7つも年が離れてるなら喧嘩もしないでしょ」とよく言われるけれど、とんでもない。年子の姉妹、あるいは双子の姉妹のごとく、毎日のように揉めに揉めながら育った。

姉妹には2通りのパターンが存在している。1つは、いわゆる「長女」タイプのしっかりした姉と、そんな姉に憧れ甘えるかわいい妹パターン。もう1つが、姉がとにかく不器用で、それを反面教師に妹がしっかりと要領よく育つパターン。我が家は言わずもがな後者である。

うちの妹は私と正反対でとにかく昔からいろんな面で器用で賢く、スポーツも勉強も、努力せずともよくできた。家ではジャイアンなのに外面そとづらは良いものだから、人間関係においても、いわゆる「人気者」というわけではないけれど嫌われもせず、大きな失敗なく育った。


中学1年生ごろからは父母に対しても反抗期に突入し、私への反抗も過激さを増した、そんな妹も春から高校1年生。彼女は先日、高校受験と中学の卒業式を迎えた。(ちなみに私は反抗期がなかった。)



妹の卒業

ウィーンから帰った翌日、13:00前に起きるとすでに妹は学校から帰ってきており、机の上には卒業アルバムが置いてあった。


私は卒アルを3冊しか持っていない。

幼稚園と、小学校と、高校。

つまり、私には中学の卒アルがないのだ。


受験をして中高一貫の中学に通っていた私は、内部進学を辞退して高校は公立高校へ進学した。6年間通わなかった私には卒アルが渡されなかった。だけどきっと、渡されていても一度も開かなかっただろうと思う。


そんな私にとって、中学の卒アルを持てる妹が、そして今後それを見返すことに躊躇がないであろう妹のことが、ほんのちょっぴり羨ましかった。


妹の中学は、公立にしては本当に良い環境だった。

私の時代には「汚い」「暗い」と言われていた(本当に汚かった)校舎も、妹の入学時には建て替えられていて、そこら辺の私立よりも綺麗に生まれ変わった。治安も良く、育ちのいい人が集まる地元のその中学は、私のときから7年経ち、今ではただヤンキーがいないだけでなく、出来杉くんのような子たちが溢れる学校になっていた。

特に妹と同じ、学年10位以内の子たちは、みんなただでさえ勉強で努力しているのに、部活や学校行事にも手を抜かず、勉強もスポーツも音楽もできて、おまけに顔も良く、性格もいいバケモノ級の子たちだった。成績がそこまで良くなかったとしても、毎朝すれ違う人全員に挨拶し、学年のほぼ全員と仲が良い、彼女のことを嫌う子はまずおらず、休みの日は遊びの予定で全部埋まっている、みたいなコミュ力お化けの女の子もいた。おかげで、妹と仲良いわけではないのに、うちの家族全員が認知している妹の同級生が数人いるほどだった。


そんな環境だと知っていたから余計かもしれない。

妹のアルバムを開いた。

昨秋、妹のクラスが合唱コンで優勝して、市民ホールで披露した合唱を見に行ったことがある。年頃なのに、みんな体を揺らしてノリノリで歌っていて、その行事に熱心に取り組む姿勢が眩しくて、羨ましくて仕方なかった。

クラス写真も、体育祭も、合唱コンも、授業風景も、その時と同じ眩しさと、ほろ苦さ。私も、こんな青春を、中学時代を、送りたかったと心底思った。





妹の卒業式は晴天のなか、行われた。

私の反省を生かし、地元の公立に進学した妹の中学は母校でもなんでもない。だけど、同じ小学校だった子、その中で同じ高校に進学した子たちが通っていた中学だと思うと、勝手に親近感が湧いて、その日に何も予定がなかったのをいいことに、さもOBOGです、というかのような顔をして参列した。


MBTI をすると百発百中で「 I (内向型):97% 」と出る我が妹は、せっかく遊びに誘ってもらえる機会があっても断ってしまうことが多い。一緒に写真を撮りたい友人も2人だけらしく、私たち家族と写真を撮って、その子たちと写真を撮り終わると、そのうちの1人と一緒に遊びに出かけるからと、そそくさと帰っていった。

少し勿体無いな、寂しいな、と思うけれど、コロナ禍で学校活動が制限されるなか、彼女が中学で親友と出会えたこと、そのおかげで楽しい3年間を過ごせたこと、(私たちが知る限り)人生に暗い影を落とすほど人間関係で嫌な思いをすることなく卒業できたことを、姉としては嬉しく思う。

中学卒業、おめでとう。



妹とおでかけ

「ジャニランド、行きたい。」

妹のその鶴の一声で、姉妹だけで行く初のお出かけが決定した。

普段、家族4人で出かけることはあっても、私と妹だけでどこかに行くことはなかった。というより、提案しても妹に拒否られていただろう。今回は、私が嵐ファンでありジャニーズに理解があるために最近、ジャニーズの話をするとき限定で反抗的な態度が緩和されつつあったこと、母が忙しくて私しか暇な人間がいなかったことを理由に、しゃーなしで私に白羽の矢が立ったらしい。

ついでに、ディズニーストアも行きたい、チップとデールのうるぽちゃちゃん(手のりぬいぐるみ)欲しい、百均も行きたい、ロフトで勝利くんへのファンレター用のレターセットも買う。

もちろん全部買ってくれるよね? なんて恐ろしい圧をかけられ、最寄駅に着いた時には、なんか飲み物も買ってね、なんて言われながら、へいへい、と妹の希望をすべて満たせるよう、方向音痴の妹のために道案内までして刺せあげつつ、ミッション・お出かけを遂行した。


今更ながら説明すると、今回のメイン目的である「ジャニランド」とは、ジャニーズグッズの中古販売店である。私は、基本的に中古品が苦手なうえ、自分が参戦したわけではないライブのグッズや見に行ったわけでもない映画のパンフレットなどはなんか虚しくて買いたくないという価値観の持ち主なので縁がなくて存在を知らなかったが、妹は中古でもなんでもいいので手に入れたいという収集癖の持ち主なので、天国のような空間だったと思う。存在を知らなくてもそのレア度がわかるほど、貴重な品々と品質の良いコレクションの豊富さに溢れた空間だった。

1番のお目当てはなかったようだが、妹は満足そうにニノのうちわと、セクゾのCDを2つ買い、私はその様子を見守り、店をあとにした。


ターミナル駅に戻るまでに、ジャニランドの近所にある Seria に立ち寄った。妹の買い忘れが発覚して3回店に戻り、その度にこちゃこちゃと(妹の)オタグッズの収納用品やシーリングスタンプ用品を(私が)購入した。


ターミナル駅に戻ってからは、タピオカ好きな妹のためにゴンチャへ行った。そこへ向かう途中に3COINS や マツキヨのメイク用品専門ストアなどを見かけるたびに立ち寄り、(妹の)細々としたものを(私が)購入し、タピオカを飲み終わってからは、上階にある3COINS+、PLAZA、無印良品、ロフトへ立ち寄って、その都度こちゃこちゃと(妹のものを)(私が)購入。さらに、別館へ渡って、ディズニーストアでうるぽちゃちゃんを(私が)購入。

その後、少しだけ私の時間も取ることができ、ディズニーストアの向かいの美容雑貨店でパックやマッサージブラシを買ったり、JINSでメガネを見たり、ORiental TRaffic でスーツに合わせるパンプスを見たりもした。


こうしてすべてのミッションを無事遂行できてさすがに満足だったようで、いつも私の顔を見れば小言・文句・暴言を飛ばしていた妹が一度も反抗的な態度を見せることなく、「かわいい妹」のまま1日を終えた。


一日中、妹の希望を遂行し、方向音痴の妹が勝手にどこかへ行かぬように注意を払い続けてみて、親になるってこういうことなのかもしれないなと思った。たしかに自分のための時間は少ないけれど、横で満足そうにしている彼女を見るだけで心が満たされた。私とは違って素直にかわいいものを好きなままでいられている彼女が、かわいいものを手にしてこれからもそれを素直に好きでいられるように、そのためなら希望を叶えてあげたいと思った。


ニノ、菊池風磨、Mrs. GREEN APPLE、ディズニーが好きで、美容にも興味がある妹にとって、東京には何かと用事が多い。4月以降もそんなイベントがあるたびに私の家に泊まりに来る予定だし、関東ローカルしか放送されない推しの番組を録画してほしいという要望もあり、私の新居にはテレビとBlu-rayレコーダーを設置した。

彼女が東京に遊びにきたら、私のお財布は寂しくなるけれど、それでもまたいろいろなところへ連れていってやろうと思う。



先述の通り、妹は3年間、学年10位以内をキープするほどの頭の良さで、内申も5段階評価で社会以外「5」、入試当日も英語で満点を叩き出した。合格発表は明日だけれど、心配するまでもなく合格確実である。

合格おめでとう、

そして、我が母校へようこそ。


妹の合格

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