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私が看護師になった理由③

 いくつ受けても採用されない面接に辟易していた頃、お金もなければ仕事もない、住む家だけは彼氏(現旦那)のおかげでなんとかなってはいたけど、ストレスからの日々の浪費は絶えなかった。
貯金は減るどころかマイナスで、カードの返済に追われたが返すあてもなく、恥ずかしながら親から援助してもらっていた。それでも私は買い物をやめられなかった。ルイヴィトン、シャネル、エルメス、フェンディ、プラダ、、化粧品、、買い物をしている時だけ、全てのことを忘れられた。とにかく街へ出て何かを買わずにはいられず、手にすることで得る欲求の解消と同時に訪れる罪悪感の間で常に苛まれていた。

薬品名は出さないが恐ろしい精神薬がある。その薬を飲むと、20分ほどで怖いくらいの集中力と得体の知れない高揚感が現れる。私はその薬を今でも麻薬だと思っている。(実際は向精神薬)そして、規定量の限度としては1mgを分3であったと思うが、当時私はこの限度ギリギリで処方をしてもらっていた。今では賢いドクターはあまり出したくない薬であると言われてるが、当時は今ほど規制は厳しくなかった。ちなみに筋弛緩作用もあるのでいまでもたまに肩こりがひどい時などは飲むことがある。
 話は逸れたが、その規定量を例えば1mgを本来1錠のところ2錠、3錠、と飲むととんでもないことになる。気が付けば家の中じゅうがピカピカになっていたり、(ありえない集中力で掃除をしてしまう)覚えのないメールを打っていたりした。そしてその記憶はほとんどない。これならまだマシで、精神状態が悪い時に飲むと私の場合さらに悪化した。脳内のアドレナリンが過剰に出てる感じや、全ての感覚器が研ぎ澄まされ、他者のちょっとした言動に過剰に反応してしまい、結果揉めて終わる。これは完全に私が悪いのだが、自分のことしか考えられなくなるのだと思う。客観性を失い、理性を失い、攻撃的になったり、時にハイテンションと多幸感で完全無敵状態になる。完全無敵状態になると、マリオで言えばスターを手に入れたあの状態のようになる。
ちなみに私はこの薬のせい、と言い切れないが大切な友達を1人失っている。そしてカードを限度額ギリギリまで毎月使い、一般庶民のくせに伊勢丹と大丸のVIPにまでなった。(もちろんそんな財力は当時の私にはない)
スター状態になると35万の鞄を即決で買ってしまったり、ノリで某美容外科で何十万もする鼻の整形(プロテーゼではないが、これは割と後悔していない)をしてしたりした。
しかし、お金なんてものは所詮なんとかなるものだ。しかし、人間関係や信頼というものは一度拗れたり失ってしまえば取り戻すことは難しい。
 薬を飲むと、2.30分で血中濃度は徐々にあがり2.3時間で最大になる。そして切れる。この薬の最大の難点はそこで、効き目は早いが切れ目も早い。そして切れ目になると、飲む前以上の更なる激しい落ち込み状態となる。死ぬこと以外考えられなくなる。だから、気分を上げるためにまた飲んでしまう。これの繰り返しで立派な依存症は出来上がる。
いとも簡単に。体重は7.8キロは落ちて元々細かったのがさらに病的な細さになり30キロ台で何をするのもしんどくて一日中寝ている事も多かった。

 そんな中、決して私を見捨てる事なく支えてくれたのは今の旦那であり、母親である。母親とのことはまたいずれ後述するが、旦那に関しては別れる事も出来たが、いや、大半の男性は面倒見きれず逃げていくだろう。しかし、彼は半狂乱となった私と1年間、ずっと向き合ってくれた。
感情が抑えきれず、夜中に包丁を持ち出し危うく殺傷沙汰になるところまでいったこともあるし、夜間に下着姿でウロウロしているところを警察に保護されたこともある。とにかく死ぬことばかりを毎日考えていたと思う。しかしそんな勇気は私にはなかった。
そしてその内自分でも徐々にこのままではダメだ、でも何も出来ない、の繰り返しの状態から何度も脱却(薬を断つこと)しようとしては失敗した。それをずっとそばで支えてくれた。どんなに辛かっただろうと思う。しかし、彼は言ったのだ。

「今の芽衣子が本来の芽衣子だと思ってない。1番苦しいのは芽衣子自身だから。その苦しみが少しでも楽になれれば、俺はなんだって良い。ずっと一緒にいるから」

単純だがその一言で私は全ての薬をトイレに流した。
一般的に離脱症状が現れるというが、私はそういった離脱症状もなく、割と簡単に断つことが出来た。
すると自然と、本来の自分、もはや本来の自分なんてものは分からないが、とりあえず理性は取り戻すことが出来た。

看護師になった理由、と言うタイトルであるが、なろうと思ったきっかけはそんな自分からの脱却が目的であった。自己肯定感の低さ、自分には何もない、価値がない、それらを改善し、単純だが迷惑をかけた分何か人の役に立つことがしたかった。そして、浅はかだが、看護師という肩書きは自分という人間に責任を与えてくれると考えた。そして自立。何があっても、彼が例えいなくなっても1人で生きていけるだけの力を手に入れたかった。
めちゃくちゃだった自分の人生を振り返り、なんとか軌道修正し、やり直したかったのだ。それには今考えると失礼な話だが、看護師が1番手っ取り早く簡単だと思った。



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