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【没後10年】河野裕子の本(2020年7月現在)

河野裕子さん(1946-2010)の歌集その他の著作の「新刊で読める状態にあるもの」を探していきます。
・基本的に完本で読める媒体の在庫がある場合について版元・版型ごとに太字で示しています
・Amazonや版元へのリンクは在庫のあるなしに関わらず付けています。
・共著以外の関連書籍やムック本、編集委員を務めた『現代短歌大事典』(三省堂、2000年)については今回は省きました。

1.歌集

『森のやうに獣のやうに』

(第1歌集、311首)
初版:青磁社(第2次)、1972年(解説:高野公彦)
再版:沖積舎、1985年
[以下に完本収録]
『現代短歌文庫10 河野裕子歌集』砂子屋書房、1991年(2007年改版)(※在庫あり)
『河野裕子作品集』本阿弥書店、1995年
『現代短歌全集第16巻(昭和46年~54年)』筑摩書房、2002年
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)104首抄録

初版再版ともに古本で結構な金額がついていることが多いですが、中身は上記の通り3回完本収録されていて、そのうち砂子屋書房の文庫は2007年に改版されて現在に至っています。砂子屋さんの本はAmazonよりも砂子屋さんのオンラインショッピングサイトで買う方が圧倒的に便利です。

『ひるがほ』

(第2歌集、368首)
単行本: 短歌新聞社、1976年
文庫:短歌新聞社文庫、1997年(解説:小島ゆかり)
[以下に完本収録]
『現代短歌文庫10 河野裕子歌集』砂子屋書房、1991年(2007年改版)(※在庫あり)
『河野裕子作品集』本阿弥書店、1995年(※ただし5首脱落あり)
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)112首収録

状況としては『森のやうに獣のやうに』とほぼ同じ。短歌新聞社文庫は時々古書店の均一棚に紛れているが、薄くて地味なので探すのには若干の根気が必要かも。
注意すべきは、『河野裕子作品集』の『ひるがほ』にはなんと5首抜けがあるということ。松村正直さんの以下のブログを参照。3首組の『ひるがほ』初版から『作品集』用の原稿を起こす際に、単行本p.36~37の見開きを丸ごと飛ばしてしまったものと見られる。なので『ひるがほ』も、砂子屋の文庫で読むのが無難かと。

『桜森』

(第3歌集、353首)
初版: 蒼土舎、1980年
並装版:蒼土舎、1981年
新装版: ショパン、2011年(※在庫あり)
[以下に完本収録]
『河野裕子作品集』本阿弥書店、1995年
[以下に抄録あり]
『現代短歌文庫10 河野裕子歌集』砂子屋書房、1991年(2007年改版)(※在庫あり)
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)88首収録

急に音楽系の出版社が出てきて驚く。これは、あとがきの献辞部分「内藤克洋氏と斎藤慎爾氏、高橋真姫さんには、出版の一切のお世話を頂きました」にヒントがある。
斎藤慎爾氏といえば俳人・文芸評論家であり深夜叢書社の社主でもあるが、『桜森』刊行の前年の1979年に蒼土舎から句集『夏への扉』を刊行している。その蒼土舎の発行書籍の発売業務を担当していたのが、全音楽譜出版社から独立した故・内藤克洋氏が設立した東京音楽社、のちの「ショパン」(これが社名。同名のピアノ愛好者向け雑誌がある)というわけだ。
斎藤と蒼土舎の関係、あるいは東京音楽社=ショパンと蒼土舎の関係は資料が無いのでよく分からないが、蒼土舎名義での10年ほどの短い事業展開の最初の方で斎藤が業務に関わっていたことは『桜森』のあとがきから推測できる。
ちなみに、ショパンの業務は現在、内藤氏の娘である井澤綾乃氏が社長を務める「ハンナ」に引き継がれているらしい(これも同名の雑誌がある)。社名が変わり過ぎてもう何が何だか、という感じだが、Amazonで在庫切れしていてもハンナのStores経由ではまだ買えるみたいだ。たまに書店でも見かけるので、やはり売れているのだろうか。

『燦』

(自選歌集)
短歌新聞社、1980年(現代歌人叢書42)

『あかねさす』

(自選歌集)
沖積舎、1982年

『はやりを』

(第4歌集、297首)
短歌新聞社、1984年(昭和歌人集成35)
[以下に完本収録]
『河野裕子作品集』本阿弥書店、1995年
[以下に抄録あり]
『現代短歌文庫10 河野裕子歌集』砂子屋書房、1991年(2007年改版)(※在庫あり)
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)94首収録

短歌新聞社がよく出していた、同一表紙の歌集叢書のうちの一冊。短歌新聞社は2012年に解散しているので、当然ながら現在は在庫なし。ここにきて初めて、序数歌集で完本収録物の在庫が市場にないものが出てきた(古本は検索すると結構出てくる)。

『紅』

(第5歌集、593首)
ながらみ書房、1991年
[以下に完本収録]
『河野裕子作品集』本阿弥書店、1995年
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)160首収録

最近、意外と古本でも見かけないと話題になった『紅』。ここまでが『作品集』でカバー可能な範囲。ちなみに、裕子さんの「コスモス」在籍は1964年から1989年までなので、「コスモス」時代の作品もこの『紅』までとなる。

『歳月』

(第6歌集、288首)
短歌新聞社、1995年(現代女流短歌全集1)
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)77首収録

おなじみ短歌新聞社の表紙同じシリーズの一巻。現状『あなた』のみに抄録されている歌集の中では一番古い。そのせいか、「日本の古本屋」を覗くとまあまあの値段がついている。この歌集、個人的には「塔」が全歌集レビューをした際に担当が回ってきて(2014年4月号)、近場で使える図書館にも蔵書が無くて吉川さんからお借りしたことがあり、そのせいでよく覚えている。

『体力』

(第7歌集、494首)
本阿弥書店、1997年
[以下に抄録あり]
『現代短歌文庫70 続・河野裕子歌集』砂子屋書房、2008年(※在庫あり)
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)98首収録

[和英対訳版]
BookPark、2004年(“Vital Forces” 結城文、アメリア・フィールデン訳)

中期の方が初期より手に入りにくいというのは、まあキャリアが長くて著書も多い人なら起こり得る現象だと思うが、『体力』を生前刊行の文庫で完本収録しなかったのは個人的には意外。そもそもこの時期の作品は、『体力』のあとがきによると歌集収録時点で半分近く落とされているらしい。

『家』

(第8歌集、598首)
短歌研究社、2000年
[以下に完本収録]
『現代短歌文庫70 続・河野裕子歌集』砂子屋書房、2008年(※在庫あり)
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)112首収録

ここでようやく完本在庫ありが再び。現代短歌文庫はやはりいい仕事してます。

『歩く』

(第9歌集、493首+ソネット1篇)
青磁社、2001年(※在庫あり)
[以下に抄録あり]
『現代短歌文庫70 続・河野裕子歌集』砂子屋書房、2008年(※在庫あり)
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)112首+ソネット1篇収録

青磁社のホームページによれば、単行本は現在6刷とのこと。Amazonの「新品」から青磁社オンライン経由で購入可能だが、そもそも青磁社は電話・メールで注文すれば送料無料で送ってくれるので、こちらも直接注文の方がお得です。

『日付のある歌』

(第10歌集、644首)
本阿弥書店、2002年
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)110首収録

「歌壇」の連載をまとめた、娘の永田紅さんの『北部キャンパスの日々』(本阿弥書店、2002年)と対になる一冊。意外なことにこれも抄録は『あなた』のみ。

『季の栞』

(第11歌集、447首)
雁書館、2004年
[以下に完本収録]
『現代短歌文庫113 続々・河野裕子歌集』砂子屋書房、2013年(※在庫あり)
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)80首収録

「ときのしおり」と読む。「現代短歌 雁」の連載をまとめたもので、単行本は今はなき雁書館からの刊行。この辺の歌集は連載単位で歌集をまとめていることが多いので、序数歌集順と制作順は必ずしもイコールはなっていません。

『庭』

(第12歌集、422首+長歌1首)
砂子屋書房、2004年
[以下に完本収録]
『現代短歌文庫113 続々・河野裕子歌集』砂子屋書房、2013年(※在庫あり)
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)82首+長歌1首収録

意外なことに、砂子屋書房から出た単行歌集はこの『庭』のみ。やはり連載ごとでまとめることが多いと版元がばらける、ということだろうか。

『母系』

(第13歌集、412首)
青磁社、2008年(※在庫あり)
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)103首収録

版元サイトによると6刷在庫あり。青磁社と濱崎実幸氏のコンビによる装幀も素晴らしい一冊。

『葦舟』

(第14歌集、437首)
角川学芸出版、2009年(※ネット書店在庫あり、ただし版元在庫なし)
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)120首収録

最近まで見かけていた気でいたが、なんと既に版元在庫なしだった。Amazonやhonto、e-hon等には購入可能とあるので、現品限りという感じだろうか。

『蟬声』

(第15歌集、427首)
青磁社、2011年(※在庫あり)
[以下に抄録あり]
『あなた』岩波書店、2016年(※在庫あり)121首収録

遺歌集。「せんせい」と読む。版元サイトによると6刷在庫あり。

『あなた』

(アンソロジー、永田和宏・永田淳・永田紅 編)
岩波書店、2016年(※在庫あり)

全15歌集から1567首を収録したアンソロジー。現状これと砂子屋の文庫3冊があれば河野裕子作品を一望したことにはなるかと思う。アンソロジーではカットされがちな各歌集の「あとがき」を網羅しているところも良い。

2.エッセイ・評論

『歌うならば、今 '84京都〈春のシンポジウム〉』

(共著、シンポジウム記録)
而立書房、1985年(※在庫あり)

1984年のシンポジウムのまとめ本。而立書房のホームページには在庫の有無の記載なし。Amazonは一時的に品切れのようだがhontoやe-honで取り寄せ品になっているので在庫ありと見ました。

『みどりの家の窓から』

(エッセイ集)
雁書館、1986年

初のエッセイ集。雁書館の本なので案の定国会図書館にも納本されていない。ここに収録のエッセイは全篇が後述の『たったこれだけの家族』(中央公論新社、2011年)に再録されています

『体あたり現代短歌』

(評論集)
初版:本阿弥書店、1991年
再版:角川学芸出版、2012年(※版元在庫なし、Kindle版あり)

これも『葦舟』同様、紙の本は版元在庫なしなのでネット書店は現品限りか。しかしこちらはKindleで読めるのはありがたい。ちなみに、評論の代表作と言われる巻頭の「いのちを見つめる 母性を中心として」は改稿版で、雑誌掲載時とは書き出し等が若干異なっている。

『現代うた景色』

(エッセイ集)
単行本:京都新聞社、1994年
文庫:中公文庫、2014年(改題『現代うた景色 河野裕子の短歌案内』)

中公で文庫化したものの、既に版元サイトにも記載なし。Kindle版もない。古本で見かけたらお早めに。

『世紀末の竟宴』

(写真つき歌句アンソロジー)
作品社、1994年

年表に全く知らない本の記載があって驚く。藤原新也氏の写真と12人の歌人俳人の作品によるコラボレーション企画らしい。タイトルはこれで「ときのきょうえん」と読む(時代を感じる)。「日本の古本屋」で古書在庫を確認。

『女と男の時空Ⅰ ヒメとヒコの時代―原始・古代―』

(執筆担当)
ハードカバー版:藤原書店、1995年(※在庫あり)
ソフトカバー版:藤原書店、2000年(※在庫あり)

評論「万葉女流たちの心性と言語表現」を収録。ハードカバー、ソフトカバー共に版元在庫あり。2000年発行のソフトカバー版では上下巻のうちの下巻に収録されているので注意。

『鑑賞・現代短歌 3 齋藤史』

(評論集)
本阿弥書店、1997年

「歌壇」の連載「齋藤史百首鑑賞」をまとめたもの。このシリーズは良い本が多いですね。

『短歌と日本人Ⅵ 短歌における批評とは』

(執筆担当)
岩波書店、1999年

「短歌に歌われた身体」を分担執筆。岩波の本ということもあって、図書館で見かけることも多い気がします。

『西行と兼好』

(執筆担当)
ウェッジ、2001年(※在庫あり)

「西行と桜花―あくがるる心―」を分担執筆。これも年譜を見て初めて知った本(しかもAmazon在庫あり。版元サイトは見づらすぎて諦めた)。こうした散文寄稿の書籍がちらほら存在している。

『歌人河野裕子が語る 私の会った人びと』

(回想録 聞き手:池田はるみ)
本阿弥書店、2008年

「歌壇」2006年4月号〜2008年9月号の連載をまとめたもの。

『京都うた紀行 近現代の歌枕を訪ねて』

(共著:永田和宏)
単行本:京都新聞出版、2010年
文庫:文春文庫、2016年(改題:『京都うた紀行 歌人夫婦、最後の旅』)(※在庫あり、Kindle版あり)

京都新聞での連載をまとめたもの。余談だが、私が買った裕子さんの本はこれの単行本版が最初だった。

『家族の歌 河野裕子の死を見つめた344日』

(共著:永田和宏・永田淳・永田紅・植田裕子)
単行本:産経新聞出版
文庫:文春文庫(改題:『家族の歌 河野裕子の死を見つめて』)(※在庫あり、Kindle版あり)

産経新聞夕刊の連載「お茶にしようか」をまとめたもの。共著者を「その家族」と略したケースも、よくよく考えると珍しい。

『たとへば君 四十年の恋歌』

(共著:永田和宏)
単行本:文藝春秋、2011年
文庫:文春文庫、2014年(※在庫あり、Kindle版あり)

単行本発売当時、NHKのETV特集の影響もあってよく売れたおかげかどうかは知らないが、金井美恵子が「解毒」する対象として見定めてきたことも記憶に新しい。

『たったこれだけの家族』

(エッセイ集)
中央公論新社、2011年(※単行本在庫なし、Kindle版あり)

「河野裕子エッセイ・コレクション」のうちの一冊。前述のとおり、『みどりの家の窓から』収録のエッセイはここに全篇再録されています

『わたしはここよ』

(エッセイ集)
白水社、2011年(※在庫あり)

『うたの歳時記』

(エッセイ集)
白水社、2012年(※在庫あり)

さすが白水社、語学書や翻訳文学を手掛けているだけあって在庫の息の長い……かと思いきや、同じ版元から出た永田和宏『もうすぐ夏至だ』(2011年)『あの午後の椅子』(2016年)は既に在庫切れに。『もうすぐ夏至だ』は『わたしはここよ』と対になる本なので、残念。ちなみに、永田淳『評伝・河野裕子 たつぷりと真水を抱きて』(2015年)は紙版・電子書籍版ともに健在。

『桜花の記憶』

(エッセイ集)
中央公論新社、2012年(※単行本在庫なし、Kindle版あり)

『どこでもないところで』

(エッセイ集)
中央公論新社、2014年

中央公論新社の「河野裕子エッセイ・コレクション」は、品のある装幀なのに既に単行本では在庫なしになっていて寂しい。3巻目となる『どこでもないところで』のKindle化が待たれる。

3.追記

今年(2020年)は没後10年ということで、「歌壇」と「短歌」がそれぞれ8月号で河野裕子特集を組みました。そのうち、「短歌」の方の家族鼎談「歌が残っているから――10年の時を経て」の中で、永田淳さん(青磁社代表)が次のような発言をしています。

それから近いうちに、母の全歌集を出そうって思っています。
(「短歌」2020年8月号、p.111)

これは嬉しい情報です(私はTwitterで松村正直さんに教えていただき、すぐに確認のため「短歌」の現物を買いに走りました)。15冊分がまとまるとなると、かなりの鈍器になることは今から想像に難くないですが、それでも全歌集はあると便利(索引とか)なので、ゆっくり待つことにしましょう。

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