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手紙




泣き腫らして真っ赤になった目元、鏡に映った自分はまるでうさぎのようだった。
近くにあったティッシュを取り、鼻をかんだ時、玄関のチャイムが鳴り響いた。


「郵便でーす」


こんな泣き腫らした顔では外には到底出られやしない。
まあ、郵便を受け取るくらいならいいだろうと、顔を上げないようにして鍵をひねる。


「えっ」


扉を開けると、来訪者と目が合ってしまった。
下を向いたままではあり得ないことだった。
それなのに、先程見たばかりのような赤い瞳とぶつかってしまった。


「うさぎ…?」


足元にいたのは、まっしろな抱き心地の良さそうなふわふわのうさぎだった。
まあるくて、つつくとこてん、と転がってしまいそうな。
今のチャイムはうさぎが押したのだろうか。
いや、そんなファンタジーありえない。


「はい、うさうさ郵便局です。お手紙を届けに参りました」

「え、しゃべっ、え?」


目の前の状況に頭も、口から出る言葉も追いつかない。
うさぎが来訪してくるだけでも信じられないのに、人間の言葉を話すだなんて。
これは妄想で、うさぎが喋ってるように聞こえるだけなのだろうか。


「てか、羽、え、それ本物?」


さらにはそのうさぎ、背中から羽が生えていた。
いや、付けているのだろうか。
もしかしたらペット用のコスプレ衣装かもしれない。
最近、巷では流行っているらしいから。


「なに言ってるんですか。本物に決まってるじゃないですか」


そう言って足元のうさぎは、これまたまっしろでふわふわな羽を動かした。
得体の知れないものという不信感はあるが、こういうふわふわしたものを見ると触りたくなり、うずうずする。


「いや、うさぎって羽生えてないよね…」

「うさぎは一羽二羽と数えるでしょう。羽くらい生えていて当たり前です。そんなことより、」


冷静な突っ込みも、当然と言わんばかりの理由とやらに一蹴されてしまう。
うさぎは、肩にかけた古びた皮革のバッグをあさり始める。


「こちら、お手紙です」


そう言って差し出してきたのは、淡いピンク色の封筒だった。
受け取り、裏返してみるも宛名として私の名前が書いてあるだけで、差出人の記載は見当たらない。


「え、誰から?」

「うさうさ郵便局 個人情報保護義務により差出人様のお名前は、配達員からは言えないことになっております」


うさぎは慣れたようにつらつらと述べ、浅く一礼した。


「え、なんて?うさ?個人情報?いや、てか差出人が書かれてないもの配達するのまずいでしょ!」

「たしかにお渡ししましたので。それではまた、



ーー年後に。



そう訳のわからないことを言って、羽を羽ばたかせ始める。
あ、やっぱり本物だったんだ。
意識の奥の方で一人納得していると、うさぎは空へ吸い込まれるように飛んでいき、あっという間に見えなくなってしまった。





羽根を一本だけ残して。















手紙、受け取ってくれてありがとう。

今、すごくつらいよね。

毎日がしんどいよね。

他の人がいかにすごいか、いっぱい自分を責めて心が押しつぶされちゃっているよね。

自分を押しつぶさなくてもいいんだよ。

あなたはまだ入ったばかり。

何もわからなくても、これからいっぱい学べばいい。
一つずつ経験していけばいいだけなんだから。

いっぱいいっぱいになって緊張したら、そりゃ誰だって失敗しちゃうよ。

頭真っ白になっちゃったんだよね。

怖かったね。

そんな固くならなくていいんだよ。
ゆっくり、何度も、何度も深呼吸してごらん。

好きだったこともできなくてつらかったね。

好きだったこと、何か覚えてる?
数ヶ月前まであなたが毎日のようにしていたこと。

高校生の頃なんて、夜中まで起きて描いてて、ふと時計を見たらもうこんな時間だ!怒られる!って思ってヒヤヒヤしてたよね。


でも、大好きで大好きで止まらなかった、たまらなかったよね。

またその頃を思い出してもいいんだよ。

オタクでもいいんだよ。

なーんにも悪くない。恥じることなんてないんだよ。

漫画を読む、キャラに熱をあげる、キャラの絵を描く、小説を書く、行き帰りにアニソンを聴く、好きなこといっぱいあったのに、言えなくて、できなくて、つらかったよね。

バレたくないって抑えてて、蓋をして、すごく苦しかったよね。

仕事、すごくつらいんだよね。

好きなことを思い出すことさえもできなくなってしまって、すごくすごくつらかったよね。悲しいよね。

まだ見えない未来を心配しなくても、不安にならなくてもいいんだよ。

あなたは何も間違っていない。

やめてしまっても大丈夫。

あなたの居場所、必ずできるから。

二つ目の家、できるから。

楽しいこともいっぱい待ってる。

力を抜いて大丈夫だよ。





ただ、生きていてくれて、ありがとう。














今の私は先程 鏡で見た顔よりもひどい顔をしているのかもしれない。

嗚咽が漏れた。














封筒の中には、一本のまっしろな羽根が入っていた。








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