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おばけのいたずら#4

 そして明け方に眠った僕たちが目を醒ましたのは昼過ぎだった。布団でごろごろしながら昨日の話の続きをしていた。そして明け方の出来事を彼女に話した。「寝ぼけていたんじゃないの?」そう言われてしまった。向きになって、物音で起きて地震かと思いテレビを点けたこと、テレビの時計が5:45だったこと、ニュース速報は出なかったこと、そしてカバーを直してまた寝てしまったことを何度も説明した。

 彼女は笑うばかりだった。その時にライトに迷い込んだ蛾のことを思い出した。「蛾がライトに迷い込んだのは憶えているでしょ?」彼女はそれは憶えていた。

 「カバーが外れたなら、床に蛾が落ちているはず」僕は起き上がって床を確認してみた。そこには4cmほどの蛾の死骸が転がっていた。

 彼女はそれを見て少し驚いた素振りを見せたが「入れたってことは抜け出すこともできたはず、そのあとで力尽きて床に落ちたんだよ」彼女は僕の言うことを信じてはいないようだった。

 「昨日は人に気を使ったし、夢でも見たんだよ」僕も自分の見たものをだんだんと信じることができなくなってきていた。

 でももう一つそれが事実である根拠に気づいた。シーリングライトからはスイッチの紐が垂れ下がっているはずだった。でもそれが垂れ下がる事なくカバーに中に入っていたのだった。たぶん僕が雑にカバーを戻したのだろう。

 僕は再びカバーを外して穴から紐が出るようにして元に戻した。「これが明け方にカバーが外れて戻した事の証明になるよね」彼女も同意せざるを得なくなったようだった。

 それから数日後のことだ、僕がキッチンで煙草を吸いながら洗いものをしていると彼女が何かを書いていた。

 「金魚の鼻歌 おばけのいたずら 白と白のあいだの向こう またあの歌が聞こえる」

 それは一遍の詩だった。恥ずかしがって意味はすぐに教えてはくれなかった。でも「おばけのいたずら」とは数日前の明け方に僕が見た出来事ということだけ教えてくれた。それ以上の意味はのちに彼女と何か掛け事をして勝つまで教えてはもらえなかった。

 でもその詩を彼女が書いた時から、あの明け方の出来事は僕の中で「おばけのいたずら」になったのだった。

 僕はあの夜からずっと取り憑かれたまま生き続けている。

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