見出し画像

書評『モナリザ・オーヴァドライブ』

映画を見るのに以前はNetflixを契約していたのですが、今年はもうずっとU-NEXTで見てる。月額料金は上がってしまうのですが、U-NEXTにはその分ポイントがもらえて、ポイントを使えば新作映画とかも見れてしまう。
このポイントほかにも使い道が色々あって、電子書籍なんかもアプリ内で買って読めるんですね。
ポイントは使わなきゃもったいないので、絶版で読めないギブスンの長編でも買うか!と『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライブ』をダウンロードしました。
そういえば、Amazon見てたら『クローム襲撃』がいつの間にか絶版になってるじゃないか……。電子書籍があるのが一応救いだけど、物理で欲しい人は早めに買った方がいいんじゃないか? 書店にまだあったらラッキーかも。

あらすじ

ヤクザの娘、久美子は内部抗争の危険を逃れ、ロンドンへと身を隠していた。彼女のボディ・ガードについたサリィ・シアーズという女は、明かにカタギの人間じゃない。久美子はサリィに連れられてロンドンの街を歩く。その一角のジャンク屋の男は彼女、サリィの過去を知っていた。モリィ・ミリオンズそれが彼女の古い名だった。

スリック・ヘンリィはジェントリィという厭世的で偏屈な男が、原子力機構から電気を盗んで運営している《工場ファクトリィ》で、ジャンクをいじって過ごしていた。スリックはキッド・アフリカに貸しがあった。それでそいつから、素性の知れないチューブに繋がれた、返事も返さない死体みたいな男を引き取る羽目になった。確かキッドは言っていた。こいつのことを“伯爵カウント”って……。

かつての伝説的な疑験スティムスター、アンジェラ・ミッチェルは、ヤクに溺れ、マトリックスにおわしますロア神ともずいぶんご無沙汰だった。
しかし彼女は滞在するマリブで、ママン・ブリジットあるいはグランド・ブリジットと呼ばれているロア神の一角から、不意に接触を受ける。
ロア神曰く、ミッチェルはドラッグによって、彼らをその身に降すことができなくなっていたのだ。誰かが彼女に毒を盛った。彼女を嵌めようとしている。
アンジェラはドラッグを断ち、再び疑験スティムに復帰しようとしていた。

クリーヴランドで娼婦として稼いでいたモナは、いま不法居住区スクワットでエディと一緒にいた。エディは最近《フッキィ・グリーン》て店で、ビジネスに一枚噛むことができたようだ。大金が入る。こんな場所ともおさらば。
エディはモナに“いつもの話”をするようすすのかす。彼女がクリーヴランドででっちあげた、変態に犯された話。エディはその話を聞いて興奮しながらモナを抱くのが好きなのだ。
ああ、なんでもいい。ここから出ていけるなら、なんだって。

前作から7年後、バラバラな4人の人間、断片が、単なる偶然か、マトリックスの神の導きか、運命の糸を織り上げ、駆動オーヴァドライブしていく。

ギブスンの小説はプロットが追いにくいところがあるので、なかなか混乱する。その点、ガイドブックは大まかなプロットが掲載されていて、おすすめ。読みづらくて挫折した人はぜひ。

感想

電脳三部作の完結編。
書かれた年は1988年で、ワールドワイドウェブもインターネットも実装されていない、そんな時代の想像力。
『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』と順に読んでいき、3作目ともなると、ギブスン=黒丸クロマ文体にも慣れ始め、それこそipadの画面サーフェイス疾走オーヴァドライブするように読み進められた。
ようやくこの感覚刺激に順応してきたようだ。

そうじゃなくても、『ニューロマンサー』と比べると後の2作はどこかおとなしい。ギブスン自身も一作目のヴィジョンがガーンズバック連続体よろしく、褪色していずれ古びてしまうことをよく知っていたのだろう。そこは明確に舵をとっている感じがする。

4人の中心人物が交差するプロットは、前作、前前作のキャラクターも巻き込んで展開する。ミラーシェードのサイボーグ、モリィと、ちらっと仄めかされるケイスの存在など、ニヤッとする。
そしてアンジェラとボビィ、二人の行く末。アレフと呼ばれる構造物に肉体を捨てて移住し、そこで余生を過ごすことになる。(この先の世界はグレッグ・イーガンとかが書いてるかも)
という感じで、大団円というほかなく、楽観的で気持ちのいいエンディングなのが意外だった。
ギブスンがサイバースペースというものに、まだ希望をかけている節も窺える。
テクノロジーが発展した社会にあって、それでもわずかに残った人間性を、大事なもののように、そっと掬った。そんな眼差しを感じる。
ハードSFとしての側面もさることながら、この作者の詩的な感性にこそ真に打ちのめされるものがあると思う。

スプロール三部作はなんと言ってもAIたちの物語だった。(ニューロマンサーってそもそもAIの名前のことだしね)最終的にマトリックスに偏在し、知性を得たAIは、アルファケンタウリの別のマトリックス、つまり異星人とのファーストコンタクトをも成し遂げていたことが明らかになります。
今日的な用語で言えばシンギュラリティですが、そんなものが本当に訪れたとしても、人間には気づくことさえできずに、AIが宇宙人と勝手によろしく挨拶かましてるかも知れないというのは、リアルな想像なんじゃないか。

しかしニューロと比べて圧倒的に感想が少ない……。
これから橋三部作も読もうというのに、心細い。

ネットではこちらの人の記事が良かったです。ちょっと参考にしました。

追記:『ハーモニー』に出てくる全書籍図書館ボルヘスって、モナリザが元ネタっぽい。

この記事が参加している募集

読書感想文

SF小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?