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今月のSFマガジンの感想


『ソラリス』 森泉岳士

コミカライズ1話&2話。ギバリャンの部屋、カーテンの柄がかわいい。

『堅実性』 グレッグ・イーガン

あらすじ
ある日、七年生(日本の中一)のオマールが住む世界が、マルチバースと接続されてしまい、ありとあらゆる人、物が並行世界と入れ替わってしまう現象に巻き込まれてしまう。
オマールは並行世界の父とおぼしき別人…ラフィークとともに共同生活をはじめ、徐々に喪った秩序をこの世界に取り戻そうと試みる。

感想
ほんの少し目を離しただけで、人や物がよく似た別のものに入れ替わってしまう。オマールとラフィークは、最終的にウェブカメラを使って、終始監視状態に置くことで、並行世界と入れ替わるのを防ぐことができる。
訳者の山岸真氏は、量子論の観測問題を人間スケールで描いた話だと言っていて、それも確かにある。
でもこれはもう一つ、物理的身体に対する、社会的身体(SNSのアカウントなど)をめぐるイーガンの感じたリアリティが落とし込まれているのだと妄想したくなる。
観測されないと存在できず、煉瓦に情報を刻まないと過去が消えてしまうのは、ツイートなどのSNSのログによってしか存在を認知できない、把握できない、社会的身体に依存して生きる我々のリアリティそのものではないか。
なーんて、深読みしすぎかな。

知らん間に物が入れ替わっていく恐怖は、ディック『ユービック』っぽい。知らないパンツとか怖い。
しかし、いきなり並行世界に迷い込んでしまって、鏡像分子や同位体を気にする中学生がいるか? 賢すぎる。笑

イーガンの『順列都市』って下巻だけ品切れだったんだ…。なんかあれだね、目を離した隙に物がなくなる、リアル『堅実性』。
『ディアスポラ』も品切れだし、ハヤカワ文庫の堅実性は絶対ではない。戦場とハヤカワ文庫ではいい奴から先に逝くと、誰かが言っていた。
いつか絶対読むから、絶やさないでおくれー。

『鬼才、フライング・ロータス早川書房に降臨!!』

SFと音楽の関わりは気になる。サン・ラー、オクテイビア・バトラー、サミュエル・ディレイニーのアフロ・フューチャリズムは、一度本格的に調査せねばなるまい。余裕があったら、聴くよフライング・ロータス! なかなか愉快そうな人だった。

『《攻殻機動隊》シリーズの歩み』 藤田直哉

攻殻シリーズの基礎的な復習のような感じ。押井の二作を“サブカルチャーに耽溺する者たちの身体性を主題化した”作品であること、またGhost in the shellの結婚のモチーフを「古事記」になぞらえた「サイバー国うみ神話」だというのが、面白かった。

『最初で最後のSF評論家ー石川喬司追悼』 巽孝之

日本SFが敗戦と原爆で生まれた想像力なのは知っていた。これは石川さんではなく巽さんの論ですが、英米SFの想像力を戦勝国のフロンティア精神だというのは、なるほどという感じ。サイバースペースの開拓から、イーロン・マスクのスペースXまで、フロンティアの追求は終わらない。

『母と皮膚』 小野美由紀

あらすじ
ツキは宇宙ステーションにいる母と“センサリースーツ”を介してつながっていた。目に見えないその薄膜をまとえば、ツキの感覚刺激がそのまま、地上350mの場所にいる母、ウミに伝わる。母の思い出の地である南海の島の空気を、ツキは全身で感じ、伝えていた。ツキは岳を登るためにガイドを雇ったが、ヨウと呼ばれるこの男は無愛想で、なぜかツキに対する非難がましい感情を感じる。だがツキは気づく。このヨウという男が自分の“母親”であることに。隠された3人の関係が、徐々に解きほぐされていく。

感想
note無料公開で話題になった『ピュア』の作者による短編。元々SFプロトタイピングとして描かれたものを改稿したもののようです。ボディシェアリングが中心的なネタ。
ところで、十二国記を読んでいるせいか小野不由美と名前がごっちゃになる…。

『ピュア』は単行本を買いそびれてしまって未読です。未収録短編を追加した文庫版が出るそうで、そっちを買いたい。実際読むのは、いつになるやらですが……。
クローンや性転換、感覚を伝達するデバイスなど、ジョン・ヴァーリィっぽくて、今月号で一番気に入りました。

『八は凶数、死して九点』 十三不塔

前号からの続き

陳魚門は、麻雀と古代エジプトのボードゲーム、“セネト”を組み合わせた謎のゲームで、自分の記憶を賭けた死亡遊戯に興じます。
イギリス人バート・レイノルズ、太平天国の女、傅善祥、なぜか韓信のコスプレをした男、陳魚門の4人である。

こういうものです

最近ゲームをめぐる想像力が日本SFで活発な気がする。ほとんど読めていないのが悔しいですが、小川哲『ゲームの王国』宮内悠介『盤上の夜』柴田勝家『ニルヤの島』などです。

『ニルヤの島』だけ読んだことあって、作者が考えた自作ボードゲームが作中に登場し、実際遊べたり。

『本性』 草上仁

あらすじ
宇宙のあらゆる知的生命が一堂に会する、星際会議。この不毛な議会で、見飽きた風景となった、哺乳類代表と恐竜を祖先にもつダイノソア族のあくびを催す議論が、性懲りもなく繰り返されていた。
哺乳人類は、ある考古学調査の資料を議会に提出し、ダイノソア族が研ぎ澄ました“槍”を太古の昔に制作していた事実を暴露する。武器の使用は、野蛮な種族の特徴である。ダイノソア族は、しぶしぶ反論をするが……。

感想
いやー、面白かった。
『スターウォーズep1』だったかで、アミダラ女王が出席する、銀河連邦会議みたいなシーンがあるんですが、(ETとかがチラッと出てるアレ)絶対、意見とかまとまらないやつだよ。

これね

来月号は『ループ・オブ・ザ・コード』の荻堂顕先生が短編を載せるみたい。『ループ〜』は気になってたから(でも買ってない泣)、楽しみです。

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