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大人になる方法を憶えておけばよかった。

悩みごとや、考えごとが多すぎて、もう頭の中がうるさくて、誰かこの脳みそを止めてくれ、と思ってたころがあった。

いや。
ほぼ、そんな感じで生きてきた。

大きなことから、小さなことまで、考えが考えを呼び、数珠つなぎにつながってしまって、また同じようなところへ辿りついてしまって、それでもまだ止まないで。たいていは、こわいわるい方へと考えていってしまうし、いやいや、ダメダメと抵抗してみたりして、一人相撲に疲れてしまう。

我ながら考えすぎだと、他ごとをしてみるのに、こびり付いたように離れない。前頭葉にカサブタや火傷の痕でもあるみたいに。
外が晴れていても、曇っていても、雨が降ってきたとしても、窓の外のことのように。

大人になれば、飄々と「いい天気ですね」とか「雨が降りそうですね」とか言いながら、スンスン歩いて。あるいは、微笑みさえ浮かべながら、足を組みコーヒーを飲んで。
悩みごとも考えごとも平気になって、とらわれることもなく、「あぁ、そんなこと」とか「考えたってしかたないもの」と涼しい顔をしていられるようになる。
  そう見えていた。

いいな。平気とか。
楽になれるのかな…。
いいな。
大人になりたい。
楽になりたい。
   そう思いながら生きていた。                            

                                 ※※※※

「ねぇ柊ちゃん、もうさ忙しくしてたいの」
と、姪っ子が言う。二十歳の大学生。

「考える暇が、マジで、いらないの」

時間があるといろんなことを考えてしまって、もう考えたくないのに、止まらなくて。考えたって仕方ないのに、考えちゃうし、どこまでも考えちゃうから。苦しいの。

他ごとをするにも、しっかりどっぷり浸からないと、すぐに考えにもどってしまうから。
  
つかれる。。。もうやだ。しんどい。

そう言う姪っ子が、あのころの私みたいで。
前頭葉のカサブタをずっと弄っている。
苦悩しながら生きている。

                                     ※※※


そのくせ、
一方で、どこかで嫌だったのもあって。

鈍感になること
開き直ること
いろいろが平気になること
図々しく厚かましくなること
麻痺してしまうようで


繊細な気持ちとか
優しさや柔らかさとか
瑞々しさとか
鮮やかさとか
失いたくないものもあって。

苦悩と隣り合わせのものだとしたら
それらを手放して得るのだとしたら
嫌だなって。

欲張りだったのかな。
生真面目だったのかな。
生意気だったのかな。


                                     ※※※※

43歳の今、

足を組んでコメダで珈琲を飲んで
飄々と、機嫌のよい挨拶をして
スンスン歩いている。

悩んだり考えごとがなくなった
わけじゃないけれど。
前頭葉のカサブタは
もう弄ったりしなくなって。
悩みとかなさそうだよね、
なんて言われるくらいだ。

たまに思い出を取り出してみたりして。
少し磨いてみたりして。
言葉にして綴ってみたりして。

いつの間に
大人になったのかな。

大人になる方法を憶えておけばよかった。
 
失いたくなかったもの、
それらを引き換えにしたつもりはないけど
ずいぶんと楽になった。

なり方を教えてあげたくても
その方法は憶えていなくて。
「いつの間にか」としか言えなくて。

ありあわせの何やかんやで、
目分量でちょこちょこ入れて作った料理が
めちゃくちゃ美味しかったけど
もう二度と作れない味
みたいに大人になっちゃったんだよな。

憶えておけばよかったな。





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