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二人、お風呂。

体躯の大きな夫が、そのもじゃもじゃしたすね毛の脚をたたんで、私の入る隙間を作ってくれた。

ちゃぽん。

一人で入るよりもお湯かさが増して、狭くて楽しい。娘たちと入る時はもっと窮屈に、三人で体育座りでいたりするけれど。

白い薄手のタオルをふわふわと漂わせる。
夫は昔から、湯船にタオルを持ち込むのだけれど、それは私が小さな頃、古い家のタイルのお風呂で父と入っていた頃を思い出す。

クラゲを作って遊んだ。
空気を閉じ込めて、ゆっくり沈めてブクブクと。

「かして。」

夫は大きなクラゲを作ってみせて、私はそのブクブクあがってくる気泡を手で捕まえる。

こうして二人でお風呂に入るのは、何年ぶりだろう。夫がお風呂に入ると言うから、磨りガラス越しについ、聞いてしまっただけで。
 
「私も入っていい?」

夫は笑って、「どーぞ」と言ってくれたから、あとはスルリと脱いで入るだけだった。

「いつぶりだろうね?」
「ホントだね」

ゴシゴシワシャワシャと洗う、夫の髪の洗い方。湯桶に貯めたお湯を、両手ですくって、文字通りバシャバシャと飛び散らせながら洗う顔。まるで、プールの顔付けの練習をする子どもみたいに、ギュッと目を瞑って。

そのまま身体もその要領で、ゴシゴシ泡泡と忙しく洗う。懸命に洗う。油性ペンでもついてしまったかのように洗う。ゴシゴシ。

そうだった。初めて一緒にお風呂に入った時から、ちっとも変わらなくて、そういえば体型もそんなにかわっていなくて、いや、でも白い毛が増えたか。20年以上たつもの。

ずっと見ているのに、視線に全然気が付かないところも変わらない。だから私は見放題だった。背中もお尻ももじゃもじゃの脚も。

私が髪を洗う間、夫の視線を感じて、振り返るとさりげなく目を逸らす。

「見てたでしょ」
「見てない」

見てたくせに。相変わらずの質素な身体、筋肉はほとんど落ちて、大きな蒙古斑のある私の背中。

ズズズズと身体を沈めて、脚を伸ばして、湯船に収まる夫を横目に、泡泡で身体を洗い終えて、その脚らへんに、ちょぽんと浸かる。

「子どもたち入ってこないかな」
「もう中学生だし入ってきたら問題でしょ」

いつの間にか大きくなって、いつの間にか子どもたちと一緒に入れなくなってしまった夫が急に少し不憫になって。

「たまにはこうして二人で入るのもいいね」
と言うと、ニシャと笑って
「そうだな」
と、タオルで顔をふいていた。

ガバッとザバーンと、夫が先に出たあとの湯船は、なんだかとても浅く感じて、ズルズルと寝そべるようにして、肩まで浸かった。


あと何年かしたら、
こうしてまた二人になるのかなと、
それも悪くないかなと
白タオルをふわふわさせながら考えていた。


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