プラセボ効果に垣間見る医療の形

催眠鎮静薬の効果が、ある日の夜は良く効いたとしても、同じ薬が、ある日の夜には全く効かない、ということは良くあることです。催眠鎮静薬に限らず、人が感じ得る薬の効果とは、薬を飲む人の生活と密接に関わっています。それは時に、薬がどのように作用するか、という問題では計り知れないような影響をもたらすことがあります。

さて、プラセボ効果をご存じでしょうか。“プラセボ”とは、一般的に有効成分を含まない薬、つまり科学的には薬効が存在しない偽の薬を指します。乳糖やデンプンなどで作られた錠剤やカプセル剤のようなもので、理論上は人に投与しても何の影響ももたらしません。しかしながら、プラセボを投与すると、例えば痛みなどの症状が改善することがあります。このように、有効成分を含まないプラセボがもたらす治療効果をプラセボ効果と呼びます。

ところで、先日、腰痛に対するプラセボ効果を検討した研究が報告されました。

Carvalho C.et.al. Open-label placebo treatment in chronic low back pain: a randomized controlled trial. Pain. 2016 Dec;157(12):2766-2772. PMID: 27755279

この研究は、3か月以上続くような慢性的な腰痛を感じている97人(平均44歳)を対象とした臨床研究(ランダム化比較試験)です。プラセボ効果についてしっかり説明した後、通常ケアに加えてプラセボを投与するグループ41人と、通常ケアのみを行うグル―プ42人の2群にランダムに振り分けて、3週間後の痛みの変化を比較検討したものです。この研究では、プラセボを服用した人たちに対して、研究実施者より、「これはプラセボです」とはっきり説明されており、自分がプラセボを飲んでいることをしっかりと自覚したうえで研究に参加しています。

その結果、通常ケアを行ったグループより、プラセボと分かってプラセボを飲んだグループで統計的にも有意に疼痛が減少しました。痛みの評価は0点から10点で11段階で評価されており、点数の変化はプラセボを服用したグループで1.49点低下、通常ケアを行ったグループでは0.24点の低下にすぎませんでした。(図1)

(図1)腰痛に対するプラセボの効果(Pain. 2016 Dec;157(12):2766-2772.より引用)

「これは薬効の無い薬です」と説明されて飲んだプラセボが、プラセボを飲まない場合に比べて、腰痛症状を改善する可能性がある、ということが示されているのです。プラセボと分かってプラセボを飲んだら、効果があったと言うのはどういうことなのでしょうか。

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