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エヴァ二次創作小説『まごころを、私が』

本作は当初、「カクヨム」に投稿しましたが、当該サイトにおける二次創作に『エヴァンゲリオン』は該当せず適切ではないことが判明したため、こちらへ転載することと致しました。

・キャッチコピー
「<二次創作>『新世紀エヴァンゲリオン』綾波レイ、高校二年に想う」

・作品紹介
『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ、「綾波レイ」の二次創作小説です。主として漫画版を時間軸としておりますが、彼女が高校二年になった時点から、過去を回想しております。

綾波 宗水

『まごころを、私が』

第17使徒を碇君が殲滅してから今日で3年が経ち、世界はまたしても仮初の平穏に浸っていた。NERVが事実上、その機能を凍結することとなり、私たちは一般市民へと戻ったかのようになっていた。今でも時々、葛城三佐と赤城博士が危機管理委員会による任務で招集することがある。今は立場上、元・三佐だけれど、その実、彼女たちは第18使徒というもの、その最後の審判の時を待っている。
 ヱヴァンゲリヲン零号機専属パイロットという肩書きは、第三新東京市立第一中学校卒業、私立蜻蛉せいれい高等学校入学、現在二年生へと書き換えられた。書き換えたのは時だけじゃない。私自身がそう選択した。
 碇君は理系の工業学校へ進学した。『二号機パイロットの子』はドイツへ帰国、大学院へ編入したと赤城博士が以前、彼女から送られてきたポストカードをみせたことがある。

私も碇君と同じがいい。
 中学三年に進級するとき、そう思った。
「綾波は、何になりたいの?」
 少し驚いた。そんなこと考えた事も無かった。そして何より、いつも逃げ出してきた碇君も、未来を信じている。それは当然のことなんかじゃない。碇君は少しずつ、背も伸びてきている。
 けれど、私は何も変わらない。碇君がシンクロ率を向上させていった時でさえ、私は安定していただけ、その技術もすぐに距離があいた。
 でも、悔しくはなかった。確かに碇君がそのことから目を背けようとしたとき、私は寂しかった。それも初めての感情だったのを、今でもハッキリと覚えている。
 遺伝子工学上、私たちの隔たりとは、神話にさえ劣る。
 それでも、しばらくはこのままの容姿であることは想像がつく。
「ボクは………科学者、かなぁ」
 彼はいつまでも碇ゲンドウと共にいる。彼もそのことに気が付いているからこそ、煩悶し、恥じ、そして受け入れる。
「綾波も理系?」
 屋上から見える空には何も浮かんでいない。快晴と人は言うだろう。
「わからない」
「そうなんだ…………前にさ、難しそうな科学書読んでたから」
「えぇ」
 もし、このまま私に未来があるのならば、私も碇君のように何か将来と呼ぶべきものを空想しなくてはならない。それは偶然を必然のように思いこむこと。私には一番程遠い、詩を詠むようなこと。

「ここに来て、もうこんなにも時間が経ってたんだね」
 卒業式、碇君は泣いていた。惣流《あの子》が帰るから。別れとはこの世の唯一のさだめ。何人とたりともこれを侵すことはできない。セカイを書き換えない限りは。
「私、文系に進むの」
「そうなんだ……」
「また泣いている」
「や、やめてよ、男らしくないみたいじゃん」
「いいえ、私はその理由をもっと知りたい」
「あやなみ」
「涙の成分、涙の発生理由、そのどれを知っても、碇君の涙は理解できない」
 あの日のことが脳裏に浮かぶ。

『笑えばいいと思うよ』

あの時のあなたの気持ちが知りたい。
 私に多くの感情を教えてくれた。感情、それは人との懸け橋。エヴァに乗ることだけが絆じゃない。

大学生になる前に、私は消えるかもしれない。あの日のように、空には全く雲が無い。でもそのことに違和感はない。
 本来、約束された未来など無い。『あの人』は確定した過去をもとに世界を新生させようと今もしている。きっとそれは私が今ここに存在している間は不可能ではない。計画が破棄されるとすれば、それは私の身体も同様。
 それでも、複雑、そして豊穣な精神というものに私は触れた。碇君のことがもっと知りたい。この思いだけは、私が発見したものだから。
 第18使徒リリンの可能性を見届けたいの。


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