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心優しい村人たちは、なぜ凶行に及んだのか。僧侶が読み解く『福田村事件』

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

 第92回「福田村事件」

森達也監督
2023年日本作品

 

 昨年の9月1日。築地本願寺では関東大震災100回忌法要が営まれました。その日に私はちょうど「仏さまの教え(常例布教)」を担当しており、法話の中で「震災後にデマによって多くの朝鮮人が殺された」と言及しました。それに対しアンケートで批難のコメントが寄せられました。

 「何を根拠に言っているのか。いいかげんな話をするな」と。多からぬ聴聞者の中にも、朝鮮人虐殺の事実を認められない方がいらっしゃったのです。その方にも見ていただきたい『福田村事件』は、関東大震災直後に実際に起きた事件を元にした作品です。

 震災の混乱の中、「朝鮮人が暴動や放火を起こしている」との流言が広まり、各地で市民による自警団が結成され、多くの朝鮮人が襲われました。

 そんな中、千葉県福田村で、自警団を含む100人以上の村人たちにより、香川から訪れていた薬売りの行商団15人の内、幼児や妊婦を含む9人が殺される事件が起きます。行商人は皆日本人でしたが、彼らが話す讃岐弁に馴染のない村民が不安にかられたのでした。

 竹槍を向けられた行商人たちが死に直面して正信偈を称えます。そして「水平社宣言」を叫びます。水平社宣言は被差別部落解放を訴えたもので、起草したのは浄土真宗僧侶・西光万吉。行商人たちは被差別部落民であり、真宗門徒だったのです。彼らが日本人か否かと判断に迷う村人たちに対し行商団の一人が問います。

「朝鮮人だったら殺してもいいのか?」

 心優しい村人たちが、集団の中で疑心暗鬼を増幅させて凶行に至るさまは、まさに「害せじと思うとも、百人千人を殺すこともあるべし」
(『歎異抄』第13条より)。必見。
 

松本智量(まつもとちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

本記事は築地本願寺新報の転載記事です。過去のバックナンバーにご興味のある方はこちらからどうぞ。


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