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器の小さな男

栗の花の匂いを嗅ぐと「不貞」という文字が浮かぶのは私だけでしょうか。

快晴の夏空。風が心地良い。
妻と地元のパン屋でイートイン。
パンを買えば60円で提供される珈琲がイチオシ。

雑談はそうそうに選挙の話へ。
期日前投票に行こうとしていた。
普段、意識してないので誰が候補かも知らない。
付け焼き刃で調べる夫婦。

「この人、子育て支援に力入れてるみたい」
ネットで拾った情報を共有し合う。
ただ、最終決定はお互いに言わない、詮索しないのが結婚来のルール。
「私、決めたよ」妻のトーンが上がった。

散歩がてら投票所へ。
と、風が一瞬止んで、マスク越しに強烈な匂いが襲った。
精子の匂い……違う、栗の花か。

隣の妻は平然とした顔。
「あ、○○さんの選挙カー」
指さす方向に、意中の若手候補の事務所が見えた。
「ポスター曲がってる……直してあげたい」

ん? なにその優しさ。もしや妻も――
むわっと嫉妬の感情が沸きあがる。
……投票、やめようかな。


花栗に若手候補の選挙カー

(はなぐりにわかてこうほのせんきょかー)

季語(仲夏): 栗の花、花栗



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