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夫婦別姓、やってみた

 逃げ恥新春スペシャル、やってくれましたね。みくりさんと平匡さんがまさかの事実婚・夫婦別姓を選択していて妊娠をきっかけに入籍するという、共感ポイントありすぎな脚本で年始早々テンションめっちゃ上がってた。これで勇気づけられた人きっとたくさんいると思う。初めて脚本家の名前覚えたわ、野木亜紀子さん。

 逃げ恥に比べたら微々たるものですが、私も先日、実践結婚批判を公開したところ多くの反響をいただきました。
 特に友人知人から「実は私も名前を変えることに抵抗があって……」とか「私も初婚事実婚にしようとしています」とか「名前変えたけど本当は変えたくなかった」という声がたくさん届いた。直接LINEやMessengerで長文を書いてきてくれた人が多くて、noteやFacebookのコメント欄には書けないけど強い共感を誘ったのだと思う。

 目下結婚しようと考えているあなた。困ってますよね。制度が変わるのを待つ? 諦めて婚姻届を出して姓を変える? てかパートナーに相談しにくいし、親に何と説明したらいいんだ。会社には言う? 言わない?
 一つのケーススタディとして、初婚事実婚で夫婦別姓を実践している私のお話をします。何らかの参考になれば。

 そしてもし最近プロポーズした人がいたら「名前、どうする?」の7文字でいいからパートナーに言ってみてほしい。返事が「あなたの戸籍に入るつもりだよ」ならそれで終了。「実は名前を変えたくなくて……」という返事なら、話し合うきっかけにしよう。わだかまりを抱えたまま結婚したくないよね。どちらにしろ、夫婦別姓の問題にアンテナ張ってくれてるとわかるだけで絶対パートナーからの評価上がるよ。

●名前を変えたくない理由
・もし離婚した時、過去を背負い続けないといけないから
 どこのカップルも結婚時は離婚なんて考えていないが統計的に3分の1は離婚する。現実主義者は未来の可能性も気になるよね。何らかの理由で別れるとなったときに相手の名前を背負ってるのは嫌だよ。
 もう一回変えればいいというのは暴論で、あまりにも心理的・物理的コストが大きい。周囲に離婚した人がいる人にはよくわかると思う。
・旧姓の自分が社会的に存在しなくなるから
 特に士業の方にとっては大きな問題。
・各種の名義変更が著しく手間だから
 私の場合、名義変更が必要と思われるものを挙げると

パスポート、保険証、マイナンバー、運転免許証、銀行口座、証券口座、メインのクレカ、サブのクレカ、スマホの名義、賃貸物件の名義、奨学金返済の名義、水道、ガス・電気 

……気ぃ狂うわ。
(私の場合パートナーと名字がほぼ一緒で余計に名義変更が面倒くさく感じた)

●パートナーとの相談
 私の場合は「事実婚にしたい」と伝えて「いいんじゃない」という返事で終わった。大変ありがたい。
 でも面食らってしまう人も多いかもしれない。そんな時は議論するきっかけにしよう。
 片方の名前を変えることがあまりにも象徴的すぎて、結婚=名前変えることと思ってしまいがちだけど、結婚は「あなたと一緒に生きて行く(と社会的に表明すること)」であって、名前を変えることは本来関係ない。江戸時代までは結婚しても名前は変わらなかった。
 人によって事情や感じ方は異なるから、結婚するにあたって名前を変えたい・変えてほしいという人がいるのもわかる。互いに結婚と名前についてどう考えているのか、すり合わせよう。

●公的な手続き
 一緒に住んでいる場合、住民票の続柄記載を1人は「世帯主」、もう1人は「夫(未届)」もしくは「妻(未届)」にするとok。区役所に行って住民票の変更をしたいと言うとやってくれる。
 ちなみに、私が住んでいる東京都豊島区はスルッと対応してくれたのですが、自治体によっては条件が厳しいそうです(数ヶ月一緒に暮らしていないといけない、等)。

●親、親戚への伝え方
 これが一番厄介。いくら説明しても理解してもらえないかもしれない。説明するしかないけど……。私らはそれなりに実家と距離を取っているので、伝えはしたけど曖昧なままお茶を濁している。「婚姻届はいつ出すの?」と聞かれたら「まだ決めてなくて……」で逃げる。「名前変えたくないんですよね」と双方の実家に伝える、といった感じ。
 祖父母や遠い親戚には単に「結婚しました」で良いと思う。
 
●友人への伝え方
 単に「結婚します/しました」で良いんだけど、受け手の友人側は「名前何になるの?」と聞くのはやめにしませんか。
 ほとんど女性側でだけ繰り広げられている会話だと思うけど、友人に結婚報告をすると十中八九この質問が返ってくる。それほどまでに女性が名前を変えるのが一般的で、象徴的な出来事となっている。
 私は1人だけ「名前は変わるの?」と聞かれた。これは建設的な会話を生む質問だった。良い質問! 名前を変えることを前提としておらず、変えると答えても変えないと答えてもきっと肯定してくれると感じさせてくれた。
 
●会社への伝え方
 直属の上司は事実婚のことまで伝えて「今はいろんな形があるからね、いいんじゃない」と言ってくれた。大変心救われた。心理的安全性、大。世の全管理職の方に参考にしていただきたい。
 一方、人事手続きを進めようとすると途中で壁にぶつかった。
 「当社は法律婚を以て結婚届の受理を認めています」事実婚では受理できない、と。結婚手当と結婚休暇もなし。ただし、「パートナーシップ制度のように公的に認められた証明書があれば認めます」とのことだった。
 豊島区に問い合わせると、豊島区にもパートナーシップ制度はあるがLGBTQの方を対象とした制度であることと、事実婚は法的に認められていることからパートナーシップ証明書の発行はしていない、という回答だった。
 豊島区の対応は誠意あるもので納得できるものだった。そう、事実婚は法的に認められているのだ。民法からも判例からも明らか。むしろ納得できないのは会社の対応で、婚姻届を出さないと結婚を認めないというのは法律とズレた人事制度を運用していることになるのではないか。
 でも会社とごたごたするのも面倒なので、それ以上追求するのはやめた。

●心情的な部分
 いろんな人に伝えた前後が一番しんどかった。多分もっと揉める人もいるだろう。でも喉元過ぎれば熱さを忘れるもので、今はあまり悩むことも困ることもない。そもそも私の名前なんて他人は興味ないのだ。そんなこと、どーでもよすぎるでしょ。笑 だから別姓にするか悩んでいる人で周りからの強い反対がなければ、今のところは事実婚にして別姓のままいればいいと思う。大事なことなので繰り返すけど、事実婚は法的に認められている。
 
●今後困る・課題となる可能性
前調べした段階で、3つの課題が浮かび上がった。
①子どもができたとき
 事実婚で妊娠・出産すると母親と子で戸籍が作られ、父親は「認知届」というものを出す。これで法的に父親と子の親子関係が認められる。父親が子を認知しないと父親に養育費の支払い義務が生じないらしいので気をつけないといけない。
 そしてきっと子が大きくなるにつれて、姓が一緒でないと面倒なことが発生しそうな気はする。

②借金するとき
 家を建てるとか事業を始めるとかで借金しようとするとき、事実婚だとローンを組めないというような話がネット上に転がっている。どこまで本当なのかわからないけど、不動産会社や信用会社によっては嫌がられるのかもしれない。
 私が仮にも財閥系の冠のついた会社に勤めている限り問題にならないような気もするけど、2人ともベンチャーとか個人事業主とかだと厳しいのかもしれない。

③死ぬとき

 法律婚では夫婦の財産は夫婦で築いたものであり、相続する権利が生じる。ところが事実婚の場合、残された配偶者は法定相続人になれない。だからもし今私が死んだら私の資産(微々たる貯金と奨学金返済)は実父に引き継がれる。
 今はまだしも、ふつうに長生きしたとしたら私の資産もパートナーの資産もそれなりの大きさになるはず(なってほしい)。それでも事実婚の場合は死んだ人の資産が配偶者に相続されない。ちなみに子がいる場合は、子に相続される。
 
 ①〜③で壁にぶつかったときには、もう一度法律婚を考え直すかもしれない。子の養育費や遺産相続に関しては公正証書なるものを作ると法律婚に近い状況にできるそうなので、事実婚カップルには作ることが勧められている。でも選択的夫婦別姓が認められ、法律婚でも別姓でいられたらこんなことで悩まなくてよくなるんだけどね。
 
ちなみに、課題かと思ってたら案外課題じゃなかったこと
④入院したり手術するとき
 病院では病状や手術の説明などで「ご家族の方と一緒に来てください」というシーンが発生する。これは法律上の家族でないといけないのか? と思ってたけど、別にそんな縛りはないらしい。
 ポイントは妙に「事実婚なんですけど大丈夫ですか?」とか言わないこと。病院にとってはトラブルが起きないのが一番であって、妙な確認をすることで(この人たちは何か特殊な事情を抱えているのか?)と医師らに疑念を抱かせることが最も迷惑になると思う。堂々とした夫/妻としての態度を取るのが正しい。大丈夫、事実婚は法的に認められている。

⑤保険金受け取り
 生命保険は多くの場合、事実婚でも配偶者として認めているそう。確認したほうが良いとは思う。

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 逃げ恥のヒットしかり、私の友人知人のコメントしかり、やっぱ選択的夫婦別姓、多くの現役女性が望んでる。ぜひ「法律婚でも別姓でいられる」形にしてほしい(もちろん選択制なので姓を変えたい人は変えていい)。選択的夫婦別姓の実現のために「選択的夫婦別姓全国陳情アクション」という活動があったり、サイボウズの青野さんが活発に働きかけてくれているのを知った。
 
でも……

 多分、制度を変えるにはもう少し時間がかかる。もしかしたら、変わらない可能性もある。選択的夫婦別姓は数十年前から議論されているが変わらなかった歴史がある。菅首相は不妊治療助成に積極的で、女性の活躍支援という意味では十分仕事をしているとも見える。コロナ対応や経済対策などに比べたら選択的夫婦別姓の問題は粒度が小さいと言わざるを得ない。

 そんな状況でも私たちの人生は止まらず進んでいく。自分がどういう選択をするとよいか、できるだけ情報を集めて考えよう。このケーススタディはきっと誰かの参考になると信じて、書き置きます。

《終わり》

(参考図書)
荒川和久『結婚滅亡』株式会社あさ出版、2019年
小島妙子『内縁・事実婚・同性婚の実務相談』日本加除出版株式会社、2019年

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