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早期認知症の人への支援について

早期認知症の人への支援について

今日は、早期認知症の人への支援についてお話ししていきたいと思います。認知症は、脳の病気によって生活機能の障害が出現した状態を指します。
100以上の疾患で認知機能障害が起こります。それぞれに対応方法は異なります。
その前段階の、軽度認知障害の状態では、生活機能の障害がないか、比較的軽く、自分のことは自分でできる状態を指します。


健康(知的に正常な状態)
軽度認知障害(MCI)
認知症

軽度認知障害は非常にあいまいな概念です。

軽度認知障害から認知症へのコンバートは5~15%/年と考えられる。リバートはおよそ16~41%/年と考えられる。

中略

軽度認知障害から正常へのリバージョンは、16~41%と幅が広い。軽度認知障害から正常へのリバージョンが、誤診による訂正なのか、それともそのような病態が確実に存在するのかは議論のあるところだろう。

認知症疾患診療ガイドライン2017 P147 


つまり軽度認知障害と診断されても1年後に16~41%の人は、何もしなくても軽度認知障害でない状態、つまり健康な状態になるわけです。

そして、軽度認知障害と地域で診断された人が次の年に認知症と診断されるのは約4.9%、専門医では9.6%となっています。専門医のほうが約2倍精度が高いといえるかもしれません。

軽度認知障害は、それほどに診断が難しく、そして進行するかどうかもわからない病態であることがお分かりいただけたかと思います。

今回は軽度認知障害ではなく、日常生活上の不自由が少しはある、早期の認知症の人に対する支援について考えてみたいと思います。


レカネマブが発売された!

なぜかというと、レカネマブが発売されたことで、軽度認知障害の人や早期認知症の人が多く受診される可能性があるからです。わが国で12月20日に発売されたレカネマブは、12月25日より東京都健康長寿医療センターと大阪公立大学病院で投与開始されています。話題ですね。

この結果が期待されるところです。

なお、専門病院は早期認知症を心配する人が増えると、診察予約が取れなくなることが予想されます。
最初にかかりつけ医や地域の専門医が行い、紹介状をもらって投与する病院を受診するのが現実的かと思います。というのも、実際に投与できる人は非常に限られているからです。

さらに投与前には、診断精度を高めるために、アミロイドPETスキャンもしくは髄液検査を行う必要があります。初回から半年間の投与は、MRIがあって専門医が複数いる病院で行うこととされています。

半年たったら、地域の認知症専門医で投与することになるでしょう。


診断後の支援、誰が行うか?

実は、医療面はある程度起きることが想定されています。一方で問題になりそうなのが、レカネマブ投与の有無にかかわらず早期に診断された人への支援です。

日本では、これまで認知症の人の支援は、生活機能障害を伴っていたため、おおむね介護保険を利用してきました。介護保険制度ではケアマネジャーが一人ひとりの利用者を担当します。個別の心理的な支援も必要性は感じているケアマネジャーも多いです。ケアマネジャーによると、実際にはサービス利用の手配や調整に多くの時間が割かれ、心理的な支援にまで行きつくのはなかなか困難なのが実情のようです。そもそも軽度認知症に対する支援を行ったことのあるケアマネジャーは非常に限られているでしょう。

また早期認知症の人が当てはまる、要支援者のように軽度の人では、ケアマネジメントの介護報酬が著しく安いため、長い時間をかけて相談をする時間をもうけることができないと思います。実際ケアマネジャーは要介護者の場合は月1回の訪問が義務付けられていますが、要支援者の場合は3ヶ月に1度の訪問しか義務付けられていません。

ケアマネジメントはボランティアではありません。ケアマネジャーはそれを生業にしている人の仕事です。単価を下げればたくさんの利用者を担当しなければならず、クオリティが下がってしまうこともありうるでしょう。

早期認知症の人のケアマネジメントについても、サービスの調整に対してではなく、心理的なサポートを行えるケアマネジャーには、その分報酬を加算することもありうるのではないかと思います。また研修が増えてしまう懸念はありますが・・・。


早期認知症と診断された人にもライフパートナーが必要

私が思うに、早期からパートナーシップを持てる人を一人ひとりに設けることは結構大切だと思います。私が留学していた英国スコットランドにはリンクワーカー制度がありました。これは、診断後1年間にさまざまな診断後の支援についての情報を提供したり、心理的なサポートをしてくれる制度です。

a. 病気を理解し、症状とうまく付き合うための支援
b. 本人や家族が地域とつながり続けるための支援
c. 当事者同士の出会いや関わりに対する支援
d. 将来のケアの計画づくり
e. 将来の意思決定のための計画づくり

英国スコットランド 認知症のリンクワーカー制度


スコットランドのリンクワーカーたち



当院におけるリンクワーカー制度を参考にした認知症診断後支援の取り組み

小生のクリニックでは本人と家族が、周囲の人とつながりながら前向きに生活しつづけられるような診断早期のかかわりを意識しています。

当院ではリンクワーカーという担当者を作るのではなく、一人ひとりの本人や家族にかかわる内外の専門職に以下のような内容を理解してもらい、共通した認識をもってチームでかかわっていく取り組みを目指しています。重視しているのは本人、ご家族、専門職の水平な関係性です。

a. 病気を理解し、症状とうまく付き合うための支援
当院では本人と家族が病気に対して共通認識を持てるように一緒に説明を行います。本人がいないところで説明がなされた場合、自身の病気について知る権利が阻害され、将来について考えるチャンスをも奪うことにもなります。症状が進行した方にもわかるように図表を使う、平易な表現を使う、文書として渡す、統一した説明を繰り返し行うなどの本人の障害に応じた配慮を行って意思決定に関われるように説明しています(合理的配慮)。

b. 本人や家族が地域とつながり続けるための支援
本人がこれからも地域でつながり生活を送り続けるためには、本人に対して何でもやってあげるのではなく、本人が必要とする支援が得られる環境づくりを、本人と一緒にめざします(合理的配慮)。近所の住民にも状況の理解が得られるように、本人と家族には周囲の信頼できる人に症状を伝えることの重要性についてお話しします。場合によっては本人や家族の同意を得たうえで地域の包括支援センターを通じて民生委員などに簡単な病状の説明を行うこともあります。一方で認知症に対する偏見の強い地域や本人や家族のお考えによっては伝えることを望まない場合もあります。当院では町内会や地域包括支援センターが開催する認知症に対する理解やパートナーシップを深める活動にも協力しています。

c. 当事者同士の出会いや関わりに対する支援
本人同士、家族同士など当事者同士のピアサポートは単に語りあうだけでなく、自らが持つ認知症への固定観念を氷解し、疾患の理解を深めることにもつながります。当院では本人同士、家族同士が話し合う機会を増やすため、当事者交流会を定期的に行っています。集団で料理などをしながら行う場合と、お二人で会っていただくこともあります。
 
d. 将来のケアの計画づくり
本人が生活上大切にしていることや考えをできる限り聞き取り、それを維持する視点から将来のケアについて話し合います。そして本人の望む生活維持のためには家族のケアも含めてどのような支援が必要か包括支援センターやケアマネジャーを交えて考えていきます。
その後、症状の変化に応じて変更を加えていきます。

e. 将来の意思決定のための計画づくり
認知症ではコミュニケーション障害が進行する可能性もあるため、診断初期の段階から、自分で意思決定ができなくなった場合、どのようなかかわりを希望されるかなどのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)や誰に意思決定を任せるかなどを話し合う機会を設けるようにしています。

以上、認知症疾患医療センターにおける診断後支援事例集より執筆分の一部を抜粋

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000520666.pdf




リンクワーカー制度については、以前以下の書籍の中にまとめました。
Kindle版もあります。



最近出版した認知症に関する本です。こちらにもリンクワーカー制度を紹介しています。認知症に1人で向き合わない!を合言葉に、こんな症状が出たら、誰に相談するか、どんなサービスや制度を使うかに焦点を当てました。よろしかったらお手に取っていただければと思います。Kindle版もでました。iPADなどのタブレットをお持ちの方には結構お勧めです。


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