見出し画像

夕飯どうする?認知症の人の意思決定②

前回は、ビーチャムとチルドレスの倫理原則のうち、自立尊重の原則について認知症の人に適応する際、どうして自己決定のできない人としてみなされるのか、その過程について説明しました。

認知症の人が自己決定するためには、認知症という症候群を、ひとまとまりで考えないこと、認知症の人の症状は、一人ひとり異なることを認識すること。一人ひとりの生活機能障害について、どのような工夫をすれば、生活が可能であるか考える専門家を得ることが重要とお伝えしました。その根本として考えなければならいのが、認知症の人の意思決定支援です。今回は、意思決定支援について説明していこうと思います。

私たちは、日常生活の中で様々な意思決定をしています。それを、一般の人と認知症の人で比べてみましょう。難しくなりがちなので、夕飯どうする?というお題で考えてみたいと思います。

一般の人の意思決定プロセス

  1. 情報処理: 一般の人は冷蔵庫の中の食材を確認し、どの食材が使えるかを判断します。また、家族の好みや栄養バランスについて考慮し、これらの情報を整理して選択肢を検討します。

  2. 記憶の活用: 過去に作った料理やレシピ、料理の技術に関する経験を活用して、どのような料理が作れるかを考えます。最近食べたレシピを繰り返さないように注意する場合もありますし、残り物を活用したりするのにも記憶を活用しています。

  3. 判断力: 時間、労力、栄養などを考慮し、複数の料理の選択肢から最適なものを選びます。

  4. 前頭前野の機能: 料理の準備、調理のプロセス、タイミングなどを計画し、必要な行動を調整します。

認知症の人の意思決定プロセスで障害されること

  1. 情報処理の障害: 認知症の人は食材の種類や量を正確に認識するのが難しい場合があります。また、家族の好みや栄養バランスについての情報を整理するのも困難になる場合があります。

  2. 記憶の障害: 以前作った料理やレシピ、調理技術に関する記憶を活用するのが難しくなる場合もあります。エピソード記憶の喪失により、最近食べた料理を思い出すことが難しくなり、同じものを好んで作るようになる場合もあります。

  3. 判断力の低下: どの料理が最適かを決めるための複数の選択肢を比較する能力が低下します。これにより、選択肢の中から最善のものを選ぶのが難しくなります。単純なもの、菓子パンなどを好むようになり、栄養に偏りが生まれることもあります。

  4. 前頭前野の損傷: 認知症が進行すると、料理の計画や調理プロセスを論理的に考え、適切に行動に移すことが難しくなります。

認知症の人への支援の難しさ

認知症では、脳のあらゆる部分が障害される可能性があります。上記のような障害は、いっぺんに出てくることは非常にまれで、ランダムに出てきます。どれくらいで進行するかもわかりません。人によって記憶が中心に障害される場合もありますし、前頭前野の部分の障害だけが最初に起こってくる場合もあります。例えばアルツハイマー型認知症では記憶の障害が起こりやすくなるなど障害にはパターンがみられる場合もありますが、一人ひとり障害された時期も違えば、経過も異なります。
このように料理ができないというだけでも、ひとりひとり異なった支援が必要になることがお分かりになると思います。

やってあげたらよいのか?

その人も食べていかなくてはいけません。周囲の人もその状況を見てしまうと、はらはらし始めます。どこをどのように支援したらよいかは、とても難しいため、取り急ぎやってあげる支援を入れようとします。
買い物は同じものを買ってくるから、娘さんが購入してくる。料理は火を使うのが危ないから宅配弁当をとる。というように周囲の人は、少しずつ周囲の人にやってもらうように本人に働きかけます。一方で、それは、本人の望んでいることではないことも多いです。いわば押しつけがましいと思われて人間関係が悪化してしまうことさえあります。
周囲の人は親切心からやっているという自負がありますので、支援を拒否されたと周囲に話します。

そういったかたちで本人は、いわば押しつけの支援を受け入れなかったことで、聞き分けがない人、理解のない人というように見なされてしまっていることもあります。

本人のやりたいことを実現する

ここで私が意識するのは、本人のやりたいことを一緒にやる人を作ることです。本人が例えば、記憶が障害されていれば、購入してくるものリストを作るのを一緒に行う、段取りがうまくいかなければ一緒に作る、こういったことを一緒にやってくれる人を探します。近所の人かもしれないし、お孫さんかもしれないし、訪問看護・訪問リハビリ、訪問介護の場合もあります。本人の味方となる人が増えてくれば、本人の生活を見守る人も増え、これからの生活が維持できるようになると思います。それが、在宅限界を突破するヒントになると思います。


この記事が参加している募集

スキしてみて

記事が価値がある思われた方は、書籍の購入や、サポートいただけると励みになります。認知症カフェ活動や執筆を継続するためのモチベーションに変えさせていただきます。