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若年性認知症の認知症診断後支援について考える

若年性認知症の人は、みなさんが直接なじみがあることは少ないと考えているかもしれません。
しかし、10万人あたり50人程度おられるとのことです。それを考えると、小さな市町村であったとしても少なくとも一人は住んでおられる計算になります。

レカネマブが発売されることで、早期認知症の診断の重要性が強調されています。このことにより、もっと多くの若い方が認知症と診断される可能性があります。


若年性認知症の定義

以下の項目を満たす人を若年性認知症と定義しています。
① 発症が 65 歳未満。
② 記憶力の低下、または、その他の認知機能障害がある。
③ 以前と比べて、仕事、家事、金銭管理、身辺整理、対人関係などの日常生活や社会生活が困難にな り、家族などの援助が必要である。
④ 知的障害、自閉症などではない。

若年性認知症の診断や診断後支援の特徴

①診断が難しい。確定診断までに時間がかかることが多い。
②診断後の支援が非常に少ない
③個別の支援が必要
④経済的な問題が大きい
⑤仕事と病気の両立支援が必要
⑥受け入れの経験のある事業所が少ない
⑦使える社会制度が若干異なる
⑧行政の担当職員も経験が少ない
⑨ヤングケアラー問題

①診断が難しい


認知症の定義は、「これまでできていた生活が脳の病気によってできなくなる」ことです。若年性認知症の場合は、日常生活の障害に至らなくとも、仕事上のミスが増えた、約束の時間が守れなくなった、営業で回っていて道に迷ったなどの、診察室ではわからないような症状で気づかれる場合もあります。
また脳の予備脳も高いため、長谷川式簡易知能評価スケールでは満点であることも少なくありません。そうなると、認知症があっても、認知症ではないと診断されてしまうこともあります。
また、精神的な症状、たとえばうつ病や双極性障害との鑑別が難しい場合もあります。
結局、なかなか診断がつかず、年単位で時間がかかることも少なくありません。


②診断後の支援が非常に少ない


若年性認知症と診断された後の支援は、地域により非常に差があります。中心部の都市であれば、若年性認知症コーディネーターがいることもあります。全県に設置はされていますが、全員の若年性認知症の方が支援を受けられているわけではありません。また地方のリソースまでは把握できないコーディネーターも多く、どのようにすそ野を広げていくかが課題です。


③個別の支援が必要

この年代の方は、仕事をしている方もおられれば、退職されている方もいる、子育て中の方など、時期的に様々な環境要因が異なる方がおられます。一律の支援を行うのは難しいと思われます。

④経済的な問題が大きい

③とも関連しますが、子育て中であったり、親の介護をしていたり、現役で就労している方も多いため、仕事がなくなると生活ができなくなる問題もあります。共働きである場合も、パートナーが介護と仕事の両立支援が必要となります。


⑤仕事と病気の両立支援が必要

本人としても、仕事と病気を両立していかなくてはいけなくなります。また脳の疾患ですので、これまで行っていた仕事の手順などもわからなくなってしまう可能性があり、配置転換や、転職を余儀なくされる場合もあります。また進行に応じて支援内容が変わっていくこともこの障害に対する支援の難しさです。


⑥受け入れの経験のある事業所が少ない

10万人に50人程度の有病率であることから、事業所としてかかわったことのない専門職も多いです。医師でも認知症専門医でなければ、気づかない場合もあると思います。
ですので、地域包括支援センターや若年性認知症コーディネーターも、支援先を探すのに苦労している場合もあります。


⑦使える社会制度が一部異なる

若年性認知症ですと、若干制度が異なります。例えば40歳未満では介護保険が利用できません。また障害者総合支援法の範疇での支援が受けられる場合はあります。また障害年金の受給資格がある場合もあります。後期高齢者医療制度よりも自己負担額が高額になる場合もあり、社会制度をきちんと利用しないと生活が困難になる場合もあります。


⑧行政の担当職員も経験が少ない

行政は若年性認知症の人の経験はありますが、担当職員は数年で人事異動がありますので、経験の蓄積という面では不十分である場合があります。また、施策もめまぐるしく変わっており、地方自治体によって支援もかなり異なってきています。しかし、行政には何度も相談されるといろいろな情報が得られる場合があります。


⑨ヤングケアラー問題

お子さんが、親の介護を担う場合もあります。50代であってもまだ10代のお子さんがおられることもあります。その子供たちが教育と介護を両立するような状況になっている場合があります。高校や大学でヤングケアラーとなっていないかの把握をしていく必要があると思います。


伴奏のような支援が必要

一緒に走る方の伴走するというのが巷では使われることが多いですが、伴奏という言葉を使われる方もおられ、そちらに近いかと考えています。
一緒にいてお互いのパートナーシップを育むような他人がいることが、今後の生活を維持していくうえで必要だと実感します。
最近では、NPOなどでも若年性認知症の方の支援を積極的に行っておられる団体が増えてきました。
また、専門機関が、若年性認知症の方のデイケアを始められていることもあります。

加えて私たちは、介護保険利用前の認知症の人への支援について、しっかりと考えていく必要があるように思います。
まずは、就労されている場合、その継続が可能になるような配慮を考えていきたいです。それは誰が同席するのか、どういう形で行うのかは、ケースバイケースであると思います。
ご家族への心理的サポートも本人と同様に必要です。

若年性認知症の人への支援については、障害分野のサービスについても適応の可能性があります。介護保険を利用前に補っていただくこともできるかもしれません。
心理的なサポートや身体の障害があったり、内部障害をお持ちであれば、訪問看護や訪問リハビリが適応となる場合もあるでしょう。医師が適応があると判断すれば、個別の支援が受けられます。
また、進行の程度は人により異なります。症状が変化する認知症の場合、たとえ数か月に一度でも専門医を受診したいと考える方もおられると思います。
介護保険利用開始後のサービスについても、高齢の認知症の方と若年の方も一緒に活動できるかどうかは、その人の性格や、おかれる環境への適応状況にもよると思います。また、いずれにしても、本人にとって害にならないような環境を考えていきたいですね🍀



認知症に関する書籍を執筆しています。10月に発売された新刊の「図解でわかる認知症と制度・サービス」では、認知症の症状、診断、治療だけでなく、認知症の人や家族が楽になる制度やサービスについてもコンパクトにまとめてあります。新聞が読める方には読んでいただけるぐらい平易な文章で書かれています。Kindle版もあります。よろしければ参考になさってください。

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