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【スタートアップ向け】裁量労働制を廃止し、賞与を導入したNOINの制度変更の事例共有

スタートアップが人事制度の見直しをする時の参考に

こんにちは、ノイン株式会社総務人事部長の土屋です。さて今回は、2021年4月に実施した人事制度の変更について開示していきます。私自身の4年間のスタートアップでの働き方やNOINの社風を見ながら、給与制度や評価の見直しました。その過程で課題と考えたことや意思決定の軸としたことをnoteにしたいと思います。人事を担当している方、もしくは経営者の方が自社の人事制度を見直す際の参考になればと思います。

将来的な組織規模は150人、IPOを念頭に入れ大幅に制度変更

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具体的に変更したポイントは上の表のとおりになります。タイミングとしては2ヶ月遅れますが2021年6月にSO(ストックオプション)信託を設計し、SOを含めて全体の報酬制度改定となっております。

これを50名前後の組織でやりました。設計としてはトータルで社員側有利になっていますが、一部不利益変更を含んでおり、影響のレベルを考えるとこれだけ一度に変更をかけるのは結構狂ってます。それでもこれから組織を100〜200名と拡大して行くことを考えると変更するべき。変更するなら影響を小さくするためにできるだけ社員が少ないタイミングで。つまりなるはやで変えるしかないと判断しました。

当然、これらの変更はIPOに耐えられる制度設計も考慮し、IPOのコンサルを得意とする社労士事務所の専門家の方2名にレビューをしてもらいながら進めました。

人事制度の変更はどんなに良い変更でも大きなストレスを伴う

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結果的に給与規程は、50%以上修正となります。修正履歴で真っ赤です。社員の皆さんには少なからず動揺もあったと思いますが、変更に伴うストレスを含めて受け入れていただきました。もちろん個別の問い合わせもありましたし、少なからず疑問の声もあったと感じていますが、覚悟していたほどの混乱はなく、結果的に半年の運用を終えようとしています。

人事制度や給与制度の変更は痛みを伴いますし、失敗をすれば当事者を苦しめることもあります。全体最適では間違いなく良い制度の変更をした自信があっても、一部不利益になる方からのネガティブな声が出ることは免れないです。最後の方にも記載をしますが、説明会を合計3時間、公開から改定まで1か月の時間を取るなど、「納得感を得るために説明尽くす」ということは今回一番気を付けたポイントです。

それでは、今回ここまでの変更をするに至った経緯と背景をご説明していきたいと思います。

裁量労働制を否定しているわけではない

まず裁量労働制を撤廃し、固定残業代付きのフレックスタイム制に変更した理由と経緯についてです。これは裁量労働制そのものを否定するつもりはなく、現段階での当社に合わないと判断しただけの話です。

社員数が増えたりグローバルにチャレンジする中で海外の労働制度を研究しながら再導入する可能性はゼロではありません。実際、最近エンジニアさんにスカウトメールの返信で「裁量労働制じゃないから」という理由でお断りされてしまっております。

仕事のアウトプットは「質×量」

基本的に仕事のアウトプットは「質×量」です。量を増やしすぎると質が低下するという論点もありますが、基本的には量をこなせばアウトプットは増えるということを、真理として給与制度の設計を行なっています。「あと1時間残業すればこれ終わるな。」というアウトプットの話です。

そしてスタートアップは限られたリソースで、お金や人材リソースに恵まれた大企業と闘う必要があります。当然全く同じ戦い方をしたら勝てるわけないので、ひたすら知恵を絞ります。しかしながら知恵でどれだけ生産性を上げても、当然泥臭く手を動かす時間(量)も必要になります。

HR的に分解すると「質」を向上するのが育成で、「量」を増やす手段が採用です。しかしながら無限に時間やお金があるわけではない中で、どちらの手段も取れない。もしくは時間軸的に間に合わない時があります。

会社としてベンチャーキャピタルをはじめとした投資家へのリターンを出すことを考えると、経営としては手元のリソースの中での最速を目指せねばなりません。事業提携などの場合は、その期限がなかなかにシビアなこともあります。
当社の場合、大丸松坂屋さんやFamily Martさんとの提携はこれにあたります。コロナで先行きがわからない中、我々に訪れた千載一遇のチャンス。かなり無理がありましたが社運をかけてやるしかないと判断しました。

ハードワークする瞬間に裁量労働制は不向きなのでは

こんな歴史の中、管理部の責任者として感じていたのは裁量労働制によるデメリットです。
そのひとつは裁量労働制によって過負荷な環境になった場合も残業代が払われないこと。

当然ハードワークの結果として、アウトプットが増えた分は評価で年収に反映されるようなプロセスをとっていたため、しっかりと報酬で報いる方針ではありましたが、報酬への反映されるタイミングは、残業代が払われる制度と比較すると遅くなります。当社は半期ごとの評価になりますが、4月〜5月がハードなプロジェクトだった場合、評価に反映されるのは半年後の10月です。

超頑張ってるけど報われるか分からない状態より、その場で残業代として精算された方が精神衛生上良いんじゃないか?マネジメント的にも「評価会議頑張るから!」という保証のできない約束より、「しっかり勤怠つけといてね」の方がお互い気持ちよく仕事できるのではと考えました。

ハードワークの結果として年収が上がるのは正しいのか?

しかも年収を12分割しているので余計ややこしくなります。先ほどのようにきついプロジェクトをハードワークで乗り切ってくれたメンバーには、当然報酬で報うべきです。しかしながら当たり前ですが、次の半期にそんなやばいプロジェクトは控えてない。あれ?給与のベースをあげてしまって良いんだっけ?次の半期もハードワークすることが前提じゃないよね?という課題も見えてきました。

「裁量労働制は合法的に広く残業代を圧縮できる唯一の制度」

固定残業代の制度に変更することを意思決定し、コンサルを依頼していた社労士さんからタイトルのとおりの、衝撃的な言葉をもらいました。勤怠上の自由度や設計思想など共感できる部分もありますが、時にしてそういう側面が強くでることは否定できません。

なお、裁量労働制でも追加残業代が支給できるようにも設計できるので、本来は設計の話ではありますが、専門家向けでは無いので省きます。

また、決して「残業代を払うから働きまくってね」という話ではなく、あくまでそういう瞬間はしっかり残業代を払いますよという話です。ハードワークが続くのは健康管理の面からもよくないので、経営会議で毎月モニタリングしています。


裁量労働制を適用できない職種があることによる不平等性

裁量労働制撤廃の背景は他にもあります。それは平等性です。職種が細分化されていく中で、社内で裁量労働制が適用できない職種が増えていく未来が見えて来ました。当然、当時から一部裁量労働制じゃない社員はいました。

裁量労働制は一部職種には法律上適用できないので、同じような働き方をしていても、勤怠ルールや給与制度に差がでてしまいます。

行政の方々も検討に検討を重ねてその線引きをしていると思いますが、私には一部どうしても納得ができない部分が残ります。似たような働き方や仕事をしてるけど、「法律で決まってるから」としか説明がしようが無い不平等な部分が残ってしまいます。

これらが裁量労働制を廃止し、45時間相当の固定残業代を含むフレックスタイムに全面切り替えをした理由です。もちろんグローバル展開をしていけば日本ではない法律の縛りを受けるようになるので、完全には平等にできない。したがって全社で平等な制度にする必要性はなくなっていく可能性があります。その場合は職種最適で労働制度を検討する可能性もあります。

評価を丁寧にするために賞与制度を導入したい

次に賞与制度の導入についてです。創業時に12分割の制度を導入しましたが、半期ごとに評価会議で議論を重ねて行くに連れて、年収12分割での評価がハマらない瞬間が増えてきました。先ほどの「今期ハードワークしたからって翌期もハードワークさせるわけじゃ無いよね」とか、「今回はめちゃくちゃ実績出たけど実はスキルが伸びたわけじゃ無いから、再現性がないよね」みたいな場合の評価や次期の年収をどう設計するかの問題です。

スキルや能力だけを評価するなら、両ケースとも「かけた時間が多かった」「タイミングよく実力以上の高い実績が出た」の問題であり、スキルや能力が伸びたわけじゃ無いから評価対象外とすることもできます。そのような評価体系の企業さんもあると思いますが、当社としては実績をしっかり報酬を反映したいし、反映しないと納得感がないと考えました。

あらためて考えると給与と賞与が分かれていて、ベーススキルを給与で、実績を賞与で反映させるシステムは評価との連動を考えると非常に理にかなってます。評価を正しく報酬に反映できますし、報酬を適切に運用できるということは、フィードバックの解像度があがって育成にもプラスになります。なぜベース給与が上がらなかったのか、それを丁寧にわかりやすくフィードバック出来ます。

年収を増加せずに一部を賞与に変更するのは不利益変更になる

さて、労務的には重要な課題があります。賞与制度を導入するにあたり、単純に賞与が追加になり年収の増加になるのであれば、社員としては嬉しい話なので何も問題はありません。しかし年収を12分割で払っていたものを、14分割の支払いにするのは、社員の皆さんにはとって不利益な変更です。年収ベースでは総額は変わらないものの、一時的に毎月の入金金額が減ります。(社会保険や税金の話を加味するとそもそも完璧に同額ではないのですが、ややこしいので省きます)

厳密にいえば毎回の評価会議で年収アップする社員の数は非常に多いので、おそらく賞与相当額も100%以上支出される想定のため、計算上はコスト増になります。とはいえ毎月の月給が12→14分割になる影響の方が心理的ハードルは高いです。

毎回良い評価もらえる自信あるし、賞与制度入ったら実質年収アップだなと思うような冷静かつ自信家は多分そんなにいないです。いつだって社員の皆さんは、適切に評価してもらえてる安心感ではなく、適切に評価されない不安を抱えてます。


不利益変更を「当月末締め当月払い」の導入で帳消しにする

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さて、労務的にはこの変更をテクニカルに乗り越えました。それは不利益変更に有利な変更をぶつけて相殺します。それが支払いサイクルの1ヶ月前倒しです。

具体的には当月末締翌月25日払いだった給与支払(固定給に限る)を当月末締当月25日払いに変更します。これは創業時からのCEO渡部の願いでもありました。当月支払の企業から当社に転職してくる新入社員には、給与のない空白期間が空いてしまうことは長年課題を感じていました。

しかしその改善をすることは全社員の給料を1ヶ月前倒しすることになるので、資金インパクトはなかなかのものがあります。実際にこの変更により2021年4月の給与は固定給については2ヶ月分を支給しています。図解すると以下のようになります。

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結果的に、賞与導入による支払後倒しの影響と、支払いサイクル前倒しを同時に行うことで不利益はゼロにできました。制度変更前後の支払いの累計額を比較すると、制度変更前と比較して支給額が100%を下回る瞬間はなく、想定上ゼロorプラス(グラフ青線)になりました。こんなに綺麗に相殺できるとは、、!

つまり全体としては、残業代の追加支給、そして賞与が100%以上支給された時の増加分ぐらいのコスト増(社員の平均年収の増加)でこれらの変更をやり切ったことになります。

そして信託型ストックオプションの導入

そして最後の信託型ストックオプションについては、シンプルに追加されるインセンティブとなりました。これは基本的にIPOしないとリターンがないものではありますが、非常に多くの社員が対象になり、かつ今対象外の社員も近い将来対象になる可能性が高い、IPOが実現できるのであれば金銭的には非常に魅力的なインセンティブプランになったと思います。

最後にここまで大きな変更になりましたので、管理職向けに事前に質疑を設けた上で、社員向けには1時間ずつにわけて、合計3回。SOに関しても2回説明会を行いました。また別途個別のDMでの質問にも対応していきます。最終的には雇用形態変更の契約書を全社員と締結し、また内定者にも個別で説明を行なっていき対応を完了しました。

最後に

私自身、この制度変更をやる3ヶ月の中で労務に関して多くを勉強し知識を身につけられました。今回説明を省いた振休、年休、勤怠、残業代のマニアックな計算方法、社会保険や税金と多くの計算や、イレギュラーな案件の検討なども同時に行い、5年ぐらいは使える制度を作り込めた気がします。基本的な部分は作り込めたので次は週休3日制みたいなイレギュラーなやつ作ってみたいな。

さて、賞与やSOまで導入すると次に気になるのは評価です。次回は適切な評価できてるんだっけ?というのを分析、改善していきます。

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