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旅先は、いつも気づけば決まってる

「いつも旅先はどうやって決めるんですか?」と聞かれることがある。

たとえば海外なら、エリアもテーマもスタイルも、僕は様々に旅してきた。

ヨーロッパを鉄道で巡ったこともあるし、東南アジアをバスで横断したこともある。南米までサッカーを観に行く旅に出たこともあった。

こうして振り返ると、いつも脈絡なく、旅先を決めてきたように思える。

でも、関係ないように見えるそれぞれの旅は、すべてどこかでつながっている気がするのだ。

僕はいつも、旅先を決めるというよりも、自然と次の旅先が決まることが多い。

次はどこへ行こうか?とあれこれ迷うのではなく、次はここへ行くしかない!と気がつけば決まっている。

たぶん、旅というものは、その旅だけで完結するものではないからだ。

ひとつの旅が終わるとき、次の旅へつながる何かを、旅はいつも与えてくれる。

まるで旅人に、ささやかな「お土産」を渡してくれるみたいに。

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この夏訪れたスウェーデンとフィンランドも、気がつくと決まっていた旅先だった。

春にギリシャの旅を終えたとき、次はまだ行ったことのない北欧を旅してみたい、と思ったのだ。同じヨーロッパでも、南と北で、風景や人々はどう違うんだろう、と。

その北欧の旅で、ひとつ印象的な出会いがあった。

フィンランドのタンペレという町から、ハメーンリンナという町へ、湖沼クルーズの船に乗ったときのことだ。

それは9時間をかけて、湖から湖へホッピングするように旅していく、壮大なクルーズだった。

乗客は30人あまり、中型の船に揺られ、「森と湖の国」を巡っていく。

それほど派手な風景ではないし、移り変わりのある風景でもない。

船から眺められるのは、緑色が澄んだ美しい森と、光が煌めく穏やかな湖、たまに桟橋とサウナ小屋を備えたサマーハウス……、そのくらいだ。

でも、その果てしなく長いクルーズは、どこまでも贅沢で、心を豊かにしてくれる時間だった。

短い夏の青空の下、涼しい風を感じながら、流れゆくフィンランドの風景を見つめる。それだけのことが、人生の大切な1ページとして、静かに胸に刻まれていく……。

お昼頃、お腹が空いて、船内で食事ができる場所を探していたときだった。

まさに食事をテーブルで楽しんでいた若いご夫婦が、僕の姿を見てピンと来たらしく、親切に教えてくれた。

「下へ行けば、ビュッフェの料理が用意されているよ」

行ってみると、サーモンのチーズ焼きやチキンのソテーなど、美味しそうな料理が並んでいる。

僕はお金を払って、いろんな料理をこれでもかと盛ると、若い夫婦と同じように、上の階で食べることにした。

新鮮な食材を生かした料理を夢中で頬張っていると、若い夫婦の奥さんが話しかけてきた。

「もしかして、日本人……?」

そうです、と言うと、びっくりすることを言われた。

「夫は日本語を少し話せるのよ……!」

すると旦那さんが僕のテーブルに移ってきて、日本語で話してくれた。

「私は日本の大学に3ヶ月間留学していました。2008年のことです」

たった3ヶ月間日本にいただけで、これほど上手に日本語を話せるのかと驚きながら、彼といろんな話をした。もちろん、ときに英語を交えながらだったけれど、彼の話す日本語は美しかった。

なかでも素敵だったのは、短い日本滞在の中で、富士山に登ったときの話だった。

「ほとんど旅行はできなかったけれど、1度だけ富士山に登りました。山頂から眺めた朝日が、本当に美しかったです」

彼はその留学以来、日本を訪れることがまだできていないという。

「次はまた日本へ行ってみたいです。京都、奈良、北海道へも行きたい」

ぜひ日本へ来てほしい、と僕が言うと、彼が嬉しそうに言った。

「エストニアにも来てください」

エストニア。それは、ご夫婦の暮らす国だったのだ。

「首都のタリン、とても美しい町です。エストニアは素晴らしい国です……」

その会話をきっかけに、ご夫婦と仲良くなって、一緒に時間を過ごすようになった。

旦那さんは日本語で風景のあれこれを教えてくれたし、奥さんはいろんな写真を撮っては僕に愉快に見せてくれた。

途中、船が1時間あまり港に停泊すると、ご夫婦と一緒にその田舎町を散策した。

そして夕方、船がゴールのハメーンリンナに着いても、なんとなく離れがたい僕らは、ハメ城という名のお城を見に行った。

でも、やがて別れのときがやってきた。

ハメ城の麓で、旦那さんは日本語で言った。

「ありがとう。とても楽しかったです」

良い旅を。僕はそう呟いて、旦那さんと、そして奥さんと握手して、さよならをした。

夕暮れのハメーンリンナをひとり歩きながら、不思議な寂しさに包まれた。

元々ひとり旅だったはずなのに、どうしてこんなにひとりを寂しく感じるんだろう……。

そして、そのフィンランドの小さな町で、ふと思ったのだ。

エストニア……。次の旅は、あのご夫婦が暮らすその国へ、本当に行ってみようかな、と。

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それもまた、北欧の旅が渡してくれた、ひとつの「お土産」だったのだろう。

今までほとんど興味を抱くこともなかったエストニアへ、旅に出るきっかけを与えてくれたのだ。

ぼんやりと、でも確実に、次の旅先として、エストニアという国が見えている。

そう、僕はいつもこんなふうに、自然と次の旅先が決まっていくのだ。

旅人として辿ってきた道を振り返れば、いくつもの旅がどこまでもつながって見える。

そしてきっと、これからの道も、旅から旅へと、ずっとつながっていくんだと思う。

10年後、あるいは20年後、自分がどこを旅しているかはわからない。

でもたぶん、次の旅先に困ることだけは永遠にないような気がする。

……行ってみたい旅先が、いつも胸にあること。

もしかしたらそれは、旅人にとって、1番の幸せかもしれないのだ。

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旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!