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発刊順:64 葬儀を終えて

発刊順:64(1953年) 葬儀を終えて/加島祥三訳

大富豪のアバネシー家当主リチャードの葬儀を終えて、莫大な遺産が均等に一族のものたちの手に入ることになった。その遺言公開の席で、少し頭のおかしな末の娘コーラが無邪気な顔で言った。
「あら、リチャードは殺されたんじゃなかったの?」―翌日、コーラは自宅で惨死体となって家政婦のミス・ギルクリストに発見された!そして彼女にも凶悪な犯人の手はのばされ・・・
容疑は相続人全員に及ぶが、弱り切った遺言執行人エントウィッスル氏は、名探偵ポアロに救いを求める。一族の心理葛藤の中に、ポアロは何を見たか!

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より

この作品は、何度も読んでいるので犯人を知った上でじっくりと再読しました。
当主リチャードが急死し、その葬儀のために一族が集まり、一族に仕える老執事ランズコムと家族との対面シーンから物語は始まる。家族は、ランズコムの昔の記憶とともに現在の姿が、彼の視点で紹介される。
 
クリスティーの仕掛けが、ここかしこにそっと忍ばせていることが再読だとよくわかる。そして、初読だとまったく気づかずに最後のポアロの謎解きであっと驚かされるのだ。
 
「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」
空気を読むことをまったくせず、突然言い放つコーラの言葉は、まるっきりの当て外れではないということは、昔のコーラを知る家族は知っているのだ。
一族の顧問弁護士エントウィッスル氏にしても同じで、その言葉が気になってしょうがない。なぜコーラはそんなことを言ったのか、根拠はあるのか?
そして、肝心のコーラは、次の日に何者かによって殺されてしまう。
連続殺人の気配が濃くなり、探っていくとリチャードは、コーラの元へ訪れていた。その時にリチャードがコーラに何かを打ち明けたのだろうか。
 
リチャードの死の謎、コーラの死との関連、それとなく一族のアリバイや動機を調べてみてもまるでわからないエントウィッスル氏は、第7章にきて、いよいよ友人の名探偵に真実を暴いてもらうよう依頼をする。
 
この物語の中にも、ポアロが自分の足で情報を得るのではなく、専門の業者に依頼をしているとう裏話がある。

ゴビイ氏は、情報提供で有名な人である。~(略)彼は情報を即座に集めるので有名であった。ゴビイ氏が親指をちょっと動かして合図すると、何百という男女の調査員―根気の良い調査員、年とった者、社会のありとあらゆる部門にもぐり込んだ調査員が、質問してまわり、探ってまわり、そして必要な情報を持ち帰ってくるのであった。

そのゴビイ氏も、時代の波には逆らえないようで、「今の連中」の愚痴をポアロに長々と打ち明ける。
ポアロはゴビイ氏が調査の報告に移るのを辛抱強く待つのだ。
一人一人のアリバイを聞く中で、リチャードの姪のロザムンドの話を聞いたポアロは、

「私にもそんな女の経験があります。エッジウェア卿の殺人事件、忘れもしないです。あの時、私、危うく敗けるところでした。このエルキュール・ポアロがですよ。誰に敗ける?ロザムンドのようなポカンとした頭から出た非常に単純なずるさにね。時によると、非常に単純な頭の人間は犯罪をずばり見事になってのけ、あとは放っておく―こうなると、私にも、手がつけられない。今度の事件に殺人者があるとしたら、この殺人者が知的で緻密な頭をもつタイプであって欲しいんです。徹底的にうぬぼれていて、どうしても百合の絵を、完全に描きたいというタイプであって欲しいです。」

そのロザムンドは、エントウィッスル氏が家族を一同に集めた時に、屋敷の購入者の候補として身分を隠して登場した「ムッシュー・ポンタリエ」が実は探偵の「エルキュール・ポアロ」だと見破り、みんなの前で打ち明けるのだ。
 
相変わらず、私が面白かった箇所を紹介する感想になりましたが、この作品を読まれた方は・・・(ちょいネタバレ)
 
犯人がわかった後に、ぜひ第3章の5を読み返してみてください。
初読で読んでいる時にはまったく気づかないこの独白の仕掛けの上手さに驚きます。


HM1-3 昭和55年12月 第14刷版
2023年4月9日読了

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