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『はじまりのはる』端野洋子(講談社アフタヌーンKC) レビュー


東日本大震災時の福島県南部に住む高校生を中心に描いた漫画です。

あくまで創作物ではありますが、作中の高校や背景となる場所など「あ、あそこだ」とわかる人にはわかるように精緻に表されているので、よほどの取材と覚悟がないと描けない濃密な漫画になっています。

震災を福島で過ごした私はこの漫画を読むとき、必ず頭から足先までビリビリとしびれる感覚が走り続けます。

漫画の舞台の中通り地方。津波はなくとも、地震、そして原発事故での影響は甚大でした。「フクシマ産」の看板はそこで生きるひとたちにどのような苦悩と葛藤をもたらしたのか。見えないもの、数値、噂と事実の混沌に翻弄されて分断されていく世界を、高校生のこどもたちはどんな目で見て、何を感じていたのか。

少しばかり違うことも承知で言うと、震災でもコロナ禍でもこうした突如変わりゆく世界に振り回されるのはなにも大人だけではなく、当然こどもたちもです。特に、大人の決めたことに従うしかないながらも、自分の進路を確実に決めなければならない高校生たち。「前」と「後」では生活が激変してしまった、進路を変えざるをえなかった子もいます。

この紹介文だけ読むとおカタイ社会派漫画なのかと思われてしまうかもしれませんが、そんなことはなくとても魅力的なキャラクターたちが描かれています。

今年は震災から10年。福島県のテレビ局では、垣根を越えた県内5局共同キャンペーンも始まっています。

たとえば新型コロナウイルスが猛威をふるう中、大災害が起きたら。思いもよらない災禍がふりかかったら。

SNSと付き合い方…どこで誰からどんな情報を得て、どうするか。何を発信するか。

原発事故前、そしてその後のはじまりの春から10年。考える際のひとつのきっかけとして、手にとっていただけたら。この文章を書くために読み返してまたビリビリを味わいました。笑

ちなみに私は椎茸農家の研一君が好き。(2巻)

研一君がネット掲示板で見えない相手と応酬するシーンなんかは、見ごたえがあります。そしてSNSを日頃使う人には何かしら、身につまされるものがあるかもしれません

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