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20年後の子育てがくれた答え

私には福島県郡山市に親戚がいて、その中でも日和田町の親戚の墓参りに行くことがある。
そこのお墓はかつて高倉城(松峯城ともいう)があった山の中にあり、子どもの頃から何度も行っていて馴染みのある場所だった。

小学生のある日、いつものようにお墓参りをしていてふと目線をおくった先、区画でいうと二つほど離れた家の墓の裏辺りであろうか。
木々の中に大きな茶色のかたまりが見えた。これまでその場所にそんなものがあった記憶がなく、また、当時関東の某都市部に住んでいた私には、それがなんなのか一瞬わからなかった。しかし、ゆっくりと山の中に消えていくソレを見送ると、じわじわと脳内にひとつの答えが浮かび上がっていった。

シカだ。たぶんあれ、シカのおしりだ。

野生のシカを見たのは生まれてはじめてだった。一緒にいた家族に興奮気味に話をしたのを覚えている。ただ、残念ながら顔を見たわけではない。そして郡山市の高倉城を検索してもらうとわかるかと思うが、確かに小高い山がそびえているものの、周りを駅や高速道路、大きな川に囲まれた土地である。山裾には民家が建ち並んでいて、大きな田畑にも囲まれている。本当にこんなところにシカが住んでるの?と思うと、あの時私が見たものは本当にシカだったんだろうか、いや、シカのおしりだったんだろうか。そんなことをお墓参りのたびに思い出しては、もう一度あの偶然が訪れたらいいのにと期待して落胆することを繰り返していた。答えはもう出ないだろうなとも思っていた。

それから年月は過ぎ、子どもたちと一緒に福島県大玉村の野生生物共生センターに訪問する機会があった。
この大玉村は、郡山市とも近い位置にある。キャッチコピーは「大いなる田舎」。「日本一大きなコンビニ(トイレ4室)」という看板の出ているファミリーマートはかなりの広さのイートインスペースが確保されている。でも恐らく日本一ではない(看板設置当時は本当にそうだったのかな?)。
ちなみにこの看板は、4号線沿いのためストリートビューで確認することができる。

野生生物共生センターは車で山の中を上って上って上っていくのだが、途中で不安になるような道程だった。
ここでは怪我をした野生動物を保護して自然に帰す取り組みをしていて、見学者もその生物を隙間からこっそり観察することができる。そのため、どんな動物がいるかはその時々によって違っている。
子どもたちと施設内を散策したり、顕微鏡をのぞいたりクイズに答えたり…そしてこの辺りにいる動物の剥製が飾ってある区域。
施設の方が説明をしてくださっている間、私の脳裏には、ずっとあのことが浮かんでいた。そう、あの日のシカのことだ。この方は福島県内の野生生物のプロ、これを逃したら一生後悔する!

そう思った私は、思いきって質問してみることにした。20年前、あの地でシカのようなものを見た記憶がある、本当にあの辺りにシカっているものなのでしょうか、ということをしどろもどろになりつつも必死で話した。そうです私コミュ障なんです。

すると穏和なトーンで「そうですね、あのあたりにいてもおかしくないですよ。シカもあちこちの山を移動しますから」との答えが返ってきた。

私が誰に尋ねたらいいかもわからずずっと求めていたことの答えは、ここにありました。その気持ちをどう表したらいいか。返ってきた言葉を何度も反芻して、少女の自分に言い聞かせるように胸の奥にしまいこみました。

結局は「福島の山の中で子どもの頃にシカを見た」というなんの変哲もない話ですが、20年越しに取り出して触れたあの日の出来事は、これから先もお墓参りの度に死ぬまで思い出すんだろうなと思い、ここに書き残した次第です。書いていてとても心が踊りました。

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