リバプールのシティ攻略法&理想的なプランA→B。ペップが奇策を仕掛けた理由~リバプール対Mシティ レビュー~[19-20プレミアリーグ第12節]

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今回はプレミアリーグのビッグマッチとなったアンフィールドでのリバプール対シティ。本文が長いので前置きを省略して早速序章から。

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序章 スコア&スターティングメンバー

リバプール 3:1 Mシティ
リバプール: 6'ファビーニョ 13'サラー 51'マネ
Mシティ:78'Bシルバ

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リバプールは、いつも通りの4-3-3。GKにアリソン、アレクサンダーアーノルド(下田さん、ベンさんの情報に従ってダブルハイフンネームで表記します)、ロブレン、ファンダイク、ロバートソンの4バック、ファビーニョ、ヘンダーソン、ワイナルドゥムの3MF、最前線にフィルミーノ、サラー、マネの3人が並びます。

シティは、いつもは4-3-3ですが、この試合は4-2-4(4-4-2)をペップグアルディオラ監督がチョイス。最後尾にエデルソンが負傷欠場のためブラーボ、ウォーカー、ストーンズ、フェルナンジーニョ、アンヘリーニョの4バック、中盤の底にギュンドアンとロドリ、サイドにスターリング、Bシルバ、最前線はアグエロ、デブライネです。

第1章 ペップが4-2-4を使った理由

この章から分析に移りますが、まず前述のようにこの試合でシティはいつもの4-3-3、攻撃では5トップになるスタイルではなく、4-2-4でリバプールに挑みました。まずこの第1章では、なぜペップグアルディオラ監督が4-2-4を選択したのかを考察していきます。

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まず、2CHにした意図ですが、中盤の底を1枚ではなく2枚にすることで相手CFフィルミーノのバックマークプレスを交わすことを狙っていました。そしてCFアグエロ、デブライネはライン間IAにポジショニングすることでCB,SBに自身の存在を警戒させ、2人で4人を釘付けにします。

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この布陣を用いることで、フィルミーノの背中でフリーを生み出してCHから第1 PLを突破し、相手WG(サラー、マネ)の背後で浮くSB(アンへリーニョ、ウォーカー)とCFのデブライネとアグエロが相手CB,SBを釘付けにしていることでWG(スターリング、Bシルバ)がフリーになるのでそのどちらかを使って前進します。

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前進に成功したら、上図の10:14のシーンのようにCF(アグエロ)とWG(スターリング)がポジションチェンジをして相手を惑わし、フリーを生み出して縦パスもしくはスルーパスを打ち込みます。そのような形でボールをアタッカーまで運べたら一気にスピードアップしてコンビネーションでゴールを狙う。

いつものACを置いたシステムだとフィルミーノにACを消されて前進が困難になる可能性があるのは容易に想像できるので、そこの噛み合わせをずらすことでビルドアップの第1PLを突破する局面で優位に立つために2CHを選択し、4-2-4で攻撃するプランを構築した、ということです。

また、上記の10:14のシーンのように左SBでこのビッグマッチに起用されたアンへリーニョは攻撃面の特に「キック」で良さを発揮し、正確な縦パスでチャンスメーク。後半アーリークロスを何度も上げていたのは少し気になりましたが。

この4-2-4攻撃は上手くいっていて、

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逆カウンターを浴びて先制点を失った6分のシーンも、↑のように前に出てきた相手左SBロバートソンの背後に蹴り込んで、受けたBシルバからのスルーパスでデブライネが相手CBファンダイクの裏を取るという良い流れの攻撃が出来ていました。議論を呼んだアーノルドの場面はハンドだと僕は思いますし、あのシーンがもしPKになっていたら、序盤は優勢だったシティですので全く逆のスコアになった可能性も十分にありました。

第2章 奇策に対するリバプールの守備&ファビーニョ躍動の理由

ではここからはリバプールがシティの4-2-4攻撃に対してどのように守ったのかを分析します。第1章で記したように6分のアーノルドのプレーがハンドになっていたら展開が真逆になっていたことも有り得ると分かった上での話になりますが、リバプールは非常にうまく組織的に守っていました。

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ベースとしては4-3-3で攻撃的プレッシングで敵陣からハイプレス。GKブラーボーまでプレスをかけることはあまりなかった印象です。しかし、4-3-3のままで守とシティは2CHなのでフィルミーノのバックマークプレスを回避される可能性があるというのは第1章で書きました。そこでリバプールは即座に守備組織に若干の調整を加えます。

それが上図ですが、フィルミーノはあまり相手CB(ストーンズ、フェルナンジーニョ)にプレッシャーをかけず、WGのマネ、サラーが背中の相手SB(ウォーカー、アンへリーニョ)を消すバックマークプレスでCBに寄せ、フィルミーノは相手右CHロドリを消すことに注力。そして左CHギュンドアンは右IHヘンダーソンが前に出てマーク。その分ヘンダーソンはサイドへのスライドが遅れるので右WGサラーは左SBをバックマークで消し、パスを入れさせない守備を徹底します。左サイドはワイナルドゥムが余っているのでサイドへのスライドは素早く行えます。

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また、時より右WGサラーが内に絞り、左CHギュンドアンをマークした時には、ヘンダーソンが少し右サイドに寄ってスライドを準備。きっちりどっちがCHを消してどっちがサイドの守備を担うのかを分担できていて、2CHからの前進をほとんどさせませんでした。

恐らくクロップ監督の指示ではなく、選手同士がコミュニケーションを取り合ってアドリブで調整したんだと思いますが、そうであれば大原則が徹底して落とし込まれている証拠ですし、流石リバプール。この相手の想定外の攻撃戦術にも動じず、調整して相手の攻撃に自分たちの守備をフィットさせ、一人ひとりの遂行力の高さとインテンシティでシティのビルドアップを封じ込みました。特にIHヘンダーソンとワイナルドゥムのサイドへのスライドの速さは尋常ではありませんでした。いつもの試合の何倍も速く、この試合へのモチベーションの高さが読み取れました。

しかし、このような組織的なプレッシングが機能していたとはいえ、相手はシティですし、やはり前進する巧さは持っています。なので当然そのプレッシングを剥がされてしまうシーンは出てきます。第1章で触れた10:14のシーンや、6分のリバプールがカウンターを仕掛ける前の攻撃などはまさにそうです。しかし、それでもこの試合リバプールが完全に崩されたシーンはほとんどありませんでした。それはなぜでしょうか?僕は

「プレッシングを剥がされた時の配置が決まっていて、徹底されているから」

だと考えています。

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基本的にリバプールは中央から突破されることは無いに等しいのでサイドから攻められた時の分析になりますが、プレッシングを剥がされ、相手WG(図ではスターリング)にボールが入ったら、SB(アレクサンダーアーノルド)はきちんとゴールと相手を結ぶ直線上に立ち、近すぎない距離感を保ってリトリートし、突破されないように遅らせ、2ndDFを待ちます。第2PLのIHや第1PLのWGは素早く戻り、SBと相手ボール保持者(WG)に対して2v1を作り、奪いに行かず、遅らせる。CBはサイドに寄らず、中央に立ち位置を取り、極力サイドには出ずに中央をキープ。それによってIA(SB-CB間)が空きますが、そこはIHやWGが下がって埋めることになっています。そしてCBがサイドに引っ張り出されてしまった時にはACファビーニョがCB間に下りて間のスペースを埋める。

<大原則>
「奪いに行かず、相手を遅らせる」
<副原則>
「SBはリトリートして遅らせる」
「IH,WGは素早く戻ってSBと相手に対して2v1を作る」
「最悪の場合以外はCBは外に出ない」
「CBがサイドに出たらCB間をファビーニョが下りて埋める」

これがリバプールのプレッシングを剥がされた後のブロック守備のプレー原則になっていると思います。

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このプレー原則によって、ボールサイドは二人がボール保持者に対応していて、送らせて前方へのプレーは消せているので、他の選手は「バックパスを予測できている」のです。だから、ファビーニョは一度深い位置まで下がったところから前に出て、3MF前のスペースに出されたパスに寄せて相手をフリーにさせない守備ができていたのです。この試合のファビーニョの守備は本当に凄くて、何度も下がったところから前に出て3MF前で起点を作らせず、相手を潰してパスをインターセプトして...というように躍動していました。

このそれぞれの選手の立ち位置、プレー原則がどのシーンでも徹底されていたのでプレッシングを剥がされてもリバプールの守備組織は崩れることなく素早くブロックを組み直しシティの攻撃を抑えたのです。

また、ここでもう一度シティの話をすると、この試合のシティにはいつもの試合にはある大事なものが欠けていました。それは

「IAを活用する動き出し」

です。

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上図のようにCFのデブライネ、アグエロが第3PL(DFライン)を釘付けにしていたことでライン間にスペースはあったので、もっと釘付けにしたところから下りてきてパスを引き出せば、前進がスムーズになりリバプールのプレッシングを剥がす回数も増えたと思います。しかし、この試合ではそのような動き出しはほとんど見られず、中々IAのスペースを使えていませんでした。これはシティの攻撃においては致命傷と言えるくらいのものです。いつもなら右IAで躍動しているデブライネですが、いつものようにライン間右IAで浮くのではなく、初期配置で相手第3PLに張り付くタスクでした。その変化があっていつものようなパスを引き出す動きが出来なくなったのかもしれませんが、デブライネのようなクレバーでサッカーIQの高い選手ならそんなの関係なしで出来るような気もします。僕自身はあまり理由がわかりませんでした。

第3章 リバプール 理想的なプランA→プランB 守備編

では次にリバプールの後半のプラン変更について。この試合リバプールは前半に2-0のリードを奪えたこともあり、理想的な試合運びが出来ました。前半のプランAからハーフタイムでプランBにスイッチ。クロップ監督はじめスタッフも予想しなかったくらいの展開だったのではないでしょうか。この章ではリバプールのプランB守備編について。

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リバプールは後半、ファビーニョとワイナルドゥムが2CH、左SHマネ、右SHヘンダーソントップ下にフィルミーノ、CFサラーの4-4-1-1に守備システムを変更。

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4-4-1-1にした目的は、「IHの負っていた負担を軽減」でしょう。フィルミーノとボール側CHで相手2CHに対応しますが、SHを置いたことで前半のようにヘンダーソンとワイナルドゥムが長距離をスライドする必要がなく、二人の負担が大幅に軽減されました。加えて後半は全体的にプレッシングをかけにいく回数を減らして重心を下げており、スタミナに配慮したシステム変更となっていました。こうすることで4+4のバランスが良いブロックを組めますし、選手の負担も軽減できるのでこのシステム変更をハーフタイムに行えたのはとても大きかったと思います。

シティの方は、徐々にSB(特に左のアンへリーニョ)が攻撃参加するようになり、明らかに人数を増やして厚みのある攻撃をしようとしていました。また、後半の頭からCFがサイドを入れ替えてデブライネが左、アグエロが右でプレーするようになっていましたが、この意図は何だったのでしょう。デブライネは右サイドでのプレーが得意な選手ですし、この試合の左サイドでのプレーはあんまりでした。アンへリーニョも上げて、左にオーバーロードを作って右のBシルバをアイソレーションして左のパスワークと右のBシルバの突破力で点を取る狙いだったのかもしれません。

この采配は僕自身はあまり合理的では無いと感じましたが、実際アンへリーニョが上がって左がオーバーロードっぽくなったところから78分には一点を返しているのでペップのやりたいことは出来ていたのかなという気もします。逆サイドのBシルバが決めていますし。

そのシーンの話ですが、実はリバプールのクロス対応にエラーが生じていました。

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上図は最終局面のアンへリーニョから二本目のクロスが入るシーンを再現していますが、一本目のクロスが入るタイミングで、左CHワイナルドゥムの近くにスターリングがいました。リバプールはゾーン守備なのでワイナルドゥムが下がってマークしなければならないシーンですが、ワイナルドゥムは下がらず。そこでミルナーが気を利かせて中央まで絞ります。一本目のクロスには対応しますが2ndをファール気味でしたがスターリングに拾われてもう一度アンへリーニョにパスが入ります。ここでエラーが浮き彫りに。ワイナルドゥムが下がらなかったことで左SHのミルナーが下がらないといけなくなり、ファーサイドが空いたのです。そしてアンへリーニョからのクロスがもろにミルナーがいるはずだったファーサイドに入り、Bシルバに決められました。ワイナルドゥムがしっかり下がり、ミルナーが左を埋めれていればクロスをカットすることは無理でもシュートブロックが出来ていたはずです。

しかし、ここで大事なのは「時間帯とワイナルドゥムのプレー内容を忘れてはならない」ということ。終盤の78分ですし、ワイナルドゥムはこの試合何度もスプリントを繰り返し、攻守にわたって広範囲に動き回っていました。そのプレーがリバプールの力になっていたのは言わずもがなで、このシーンだけを切り取るのではなく試合全体を俯瞰したときにエラーはエラーなのですがワイナルドゥムを責めるのも酷なのかなと僕は思います。

第4章 シティの4-4-2プレッシング

ではこの章からはリバプール攻撃、シティ守備の話に変えます。シティの守備戦術について今回はそこまで長く深く分析するわけではないですが、ここまでチームごとに章を分けているのでそうします。

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シティは4-4-2で攻撃的プレッシング。敵陣ゾーン3からプレッシングをかけリバプールから高い位置でボールを奪ってショートカウンターを狙います。

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そして第1PLのデブライネとアグエロが相手ACファビーニョを消すバックマークプレスをかけることによって相手SB(図ではアレクサンダーアーノルド)にパスが入ったら、ボールサイドに圧縮。全体的にスライドするのはもちろんですが、ボール側相手IH(ヘンダーソン)にボール側CH(ギュンドアン)がついて、相手AC(ファビーニョ)に逆側CH(ロドリ)がつく。そして逆側IHには逆サイドのSH(Bシルバ)が絞って見るような形にしてハメ込もうとしていました。このプレッシングは今年1月のエティハドスタジアムで行われた同カードでもシティは使っています。

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ボールサイドに圧縮したところから相手WGにパスが出たらSHがプレスバックしてSBとダブルアタックでボールを奪う。

これがこの試合のシティの狙いでした。

しかし、次章でも取り上げますが2失点目のシーンではサラーへのマークが終始甘く、アンへリーニョの守備の弱さが出てしまいました。ペップもそこは懸念していたと思いますが。3失点目のシーンも同じです。このシーンではギュンドアンとアンへリーニョが二人でヘンダーソンに対応しているのに、二人共縦を切っておらずあっさり縦に剥がされ、クロスを入れられました。もちろんマネの動き出しは上手かったですし、そこでマーク外されたらダメでしょウォーカー、って感じですが、それ以前に数的優位で対応したのにあれほど良いクロスを上げさせてしまったのが致命的でした。

第5章 リバプールのロングボールを蹴るポジショナルプレー

では第4章で書いたシティの守備に対してリバプールはどのように攻撃したのか。

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第4章でも用いましたがこの図をもう一度。上図のようにリバプールは右はWGのサラーが張りますが、左はWGマネがライン間IAに入りSBロバートソンは初期配置は低いですが、機を見てオーバーラップしていきます。

リバプールの攻撃分析はまず13分に決まった2点目のシーンから。

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ロブレンがゾーン1からロングボールを蹴り、その2ndをファビーニョが拾ってアレクサンダーアーノルドに渡し、アレクサンダーアーノルドが左足でサイドチェンジ。ロバートソンが高い位置で納めてアーリークロスを入れ、ファーのサラーが決めました。

このシーンでまず良かったのはしっかり蹴った2ndを回収できているということ。次に良かったのはアレクサンダーアーノルドが左足でキックしたということ。ここがこのゴールの鍵を握っています。アレクサンダーアーノルドはファビーニョから受けたパスを最初は利き足の右足でトラップするのですが、左足に持ち替えています。持ち替えたことでアレクサンダーアーノルドに対応していたスターリングは足が出せず、クリーンに左サイドのロバートソンにサイドチェンジが通りました。アレクサンダーアーノルドが右足で蹴っていればスターリングにブロックされていたかもしれませんし、左足でも右足と同じようなキックが蹴れることに驚き。どっちの足からのパスを消してももう片方の足で物凄いキックを蹴られるのですから、相手からすれば相当な脅威になっているはずです。それから平行ではなく斜め前へのサイドチェンジだったので一気に第2PLを超えれたのも良かったですね。

続いてリバプールが見せた「ロングボールを蹴るポジショナルプレー」について。

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攻撃の中心は右サイド。その右サイドでSBのアレクサンダーアーノルド、IHヘンダーソン、WGサラーで三角形を構築します。そして狙うのは右IAのスペース。

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例えば上図のようにサラーがアンへリーニョを背負って受けて落とし、サラーが引きつけたことで空いたアンへリーニョの裏(右IA裏)にヘンダーソンが走り込んでそこにアレクサンダーアーノルドがダイナミックに蹴り込む。そして相手に拾われてもゲーゲンプレス。

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他にもヘンダーソンが手前IAで受けて大外のサラーへ入れ、そこでまたしてもアンへリーニョを引っ張ってその裏にヘンダーソンがGOなど。

この形の他にも、手前IA(相手SHとCHの間)にフィルミーノが下りてきてパスを受けるシーンもありましたし、サラーとヘンダーソンがポジションチェンジをしたりもしていました。

というように、リバプールは右サイドの三角形が大外に相手を引っ張って空いたIAを内側の選手(主にIHヘンダーソン)が使いまくる攻撃をしていました。これがとても4-4-2のシティにはとても効いたのです。なぜなら4-4-2だと、IAがポッカリ空きます。3つのPLがある中でどのPLにもIAに立っている選手はいない。なのでIAに相手選手が入ってきたときに「誰がマークするの?」となりやすい。もちろんシティもそれは分かっているはずですが、リバプールがロングボールも使って目線をずらしながら(短いパスばかりではなく、相手を慣らさせないということ)とてもスピーディーにプレーしていたのでシティの対応スピードが追いついていませんでした。

先に紹介した13分の2点目のシーンのようにリバプールはかなりロングボールを多用しますが、そのロングボールはゲーゲンプレスで2ndを回収するので長身FWはいないもののロングボールをモノにする確率はとても高いですし、三角形が連携してIAにスペースを作って使うという攻撃をしているのでこれも「ポジショナルプレー」と言えるのではないかなと思います。ロングボール蹴ってる時点で相手にボールを晒してるからポジショナルプレーじゃないと思うかもしれませんが、リバプールは絶対的な精度を誇るゲーゲンプレスとセットで行っていますので。

第6章 リバプール 理想的なプランA→プランB 攻撃編

前章ではリバプールが見せた4-3-3の攻撃戦術を分析しましたが、守備編で書いたように前半で2点リードしたリバプールはハーフタイムでプランBに移行します。攻撃でも同じように前半とは別の攻撃をしていましたので、この章ではそれについて。

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まず、クロップ監督は2点リードですので、前半よりもシティがプレスの回数&強度を上げてくることは予想していたはずです。なのであえて2CH(ワイナルドゥム、ファビーニョ)にして相手2CH(ギュンドアン、ロドリ)をそこに食いつかせ、背後にスペースを生み出す。その背後にはフィルミーノがいるし、第3PLはサラーが押し下げれるので背後のスペースがより一層広がる、という構造。相手のやってきそうなことを視野に入れた上での合理的な策ですし、そのシステムが守備でも機能するという。最高やん!みたいなプランBだったのです。可変システムは選手の頭への負荷も大きくなりますし、省エネをしたいこの試合のリバプールのようなチームだと効果的ではないと思うので、同じシステムの中でこれほど相手に対して有効な構造になっているのはとても後半を戦う上で良かったのかなと。ましてやリバプールの選手は4-2-3-1に慣れている。

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ここで実際のシーンを一つ抜き出します。61:37のシーンです。ロバートソンの裏に蹴り込まれるもののロバートソンが戻って対応し、ウォーカーが体制を崩したところで奪取。そしてCHのワイナルドゥム、ファビーニョを経由して相手2CHを食いつかせ、右SBアレクサンダーアーノルドから相手2CHの背後のフィルミーノへ。ここでもリバプールCHvsシティCHだけを見れば2v2だけど、もう少し視野を広げて見るとリバプールCH+フィルミーノvsシティCHの3v2になっているという構造がよく分かります。見事に後半の攻撃の狙いを体現してシティのゲーゲンプレスを突破し、カウンターアタックを仕掛けました。

このようにリバプールが二種類の合理的な攻撃を繰り出してきたため流石のシティの選手も頭に負荷がかかりすぎたのか、後半の序盤に完全にシティのゾーン守備の組織が崩れたシーンがありました。

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それがこのシーン(何分何秒かは覚えてません)。前段階としてはワイナルドゥムがスルスルっと左をドリブルで突破して右にボールを展開。クロスが相手に当たった2ndボールをアレクサンダーアーノルドが拾った状況です。ここで左CHギュンドアンが第3PLまで下がってしまったのでバイタルエリア(手前)を空けてしまい、そこで受けたヘンダーソンにフリーでクロスを上げられてしまいます。

ボールを保持しているアレクサンダーアーノルドに対してアンへリーニョとスターリングの二人で対応しており前方は消せているのでバックパスが予測できている状況。ですのでギュンドアンが下がらずロドリ(16)と同じくらいの高さに立っていれば寄せれたはずで、クロスを阻止できたはず。ギュンドアンはSB-CB間のIAのスペースを埋めようとしていますが、そこに走り込んでくるとしたらヘンダーソンですし、それなら高い位置に立ってバックパス→クロスを消してからランニングについていけば二つの攻撃に対して守れますし、ヘンダーソンが走ってきたらギュンドアンじゃなくてもアンへリーニョが対応することも可能。ですのでこのシーンでギュンドアンが下がった立ち位置を取る必要はありませんでした。

リバプールは第2章で書いたようにプレー原則を徹底的に遂行していたので3MF前へのパスにファビーニョが寄せれていた。逆にシティはこのシーンではそれができておらず守備組織が壊れていたのです。

このシーンはリバプールとシティの比較という点で面白いなと思ったので紹介しました。

終章 総括

リバプール
<プランA・守備>
・4-3-3で攻撃的プレッシング。
・相手が4-2-4だったのでフィルミーノとヘンダーソンで相手2CHを消し、WGが常にバックマークプレスで相手CBに寄せる形に調整。
・選手個々がタスクを徹底的に遂行したことにインテンシティの高さが伴いとても組織的なプレッシングに。シティの前進を大いに妨害した。
・プレッシングを剥がされた時の大原則
「奪いに行かず。相手を遅らせる」
・プレッシングを剥がされた時の副原則
「SBはリトリートして遅らせる」
「IH,WGは素早く戻ってSBと相手に対して2v1を作る」
「最悪の場合以外はCBはサイドに出ない」
「CBがサイドに出た場合はCB間をACファビーニョが下りて埋める」
・以上の原則によって素早くブロックを組み直し、バックパスが予測できるので3MF前へのパスにファビーニョが寄せれていた。
<プランB・守備>
・4-4-1-1で守備。全体的にプレスに行く回数を減らし、重心を下げた。
・中央、サイドの分担が可能になり、ヘンダーソン、ワイナルドゥムが負っていたスライドの負担を軽減。
<プランA・攻撃>
・2点目のシーンでは、アレクサンダーアーノルドが左足に持ち替えたのがとても良かった。
・右サイドでアレクサンダーアーノルド、ヘンダーソン、サラーの三角形を構築。狙うは右IA
・3人の連携によって大外に相手を引っ張ってIAにスペースを生み出し、内側の選手(主にヘンダーソン)が使いまくる。
・ロングボールも使うダイナミックな攻撃でIA攻略。
・ロングボールにゲーゲンプレス、三角形の連携が伴うのでこれもポジショナルプレーと言えるのでは?
<プランB・攻撃>
・4-2-3-1で攻撃。
・あえて2CHにして相手CHを食いつかせ、背後のフィルミーノをフリーにし、パスを送り込む。
・CFサラーが第3PLを押し下げるので、より一層相手CHの背後(ライン間)が広がるという構造。
シティ
<攻撃>
・4-2-4で攻撃。ペップグアルディオラ監督は奇策を仕掛けた。
・相手CFの背後に二人を配置し、バックマークプレスを剥がして前進を図る。
・2トップがIAに立って2人で4人(第3PL)を釘付けに。
・CHの場所で第1PLを突破し、相手WGの背後でフリーのSBもしくは2トップが第3PLを釘付けにしていることで浮くWGを使って第2PL突破。
・SBに入って前進したときにCFとWGのポジションチェンジで相手を撹乱して縦パスを打ち込むプレーも見られた。
・もっとCFのデブライネ、アグエロが第3PLを釘付けにしたところから下りていく動きで縦パスを引き出す必要があり、IAを使えていなかった。
・後半は徐々にSB(特に左のアンへリーニョ)が攻撃参加するようになるが、左にデブライネを配置した理由はよく分からない。
<守備>
・4-4-2でゾーン3から攻撃的プレッシング。
・第1PLのデブライネ、アグエロが相手ACを消すバックマークプレスをかけてサイドへ誘導。
・サイドに誘導したら片側圧縮。逆SHが絞って相手逆IHを見る形でハメ込む。
・リバプールのスピーディーでダイナミック且つ組織的な攻撃についていけず、IAを何度も使われた。
・後半には完全にゾーン守備の組織が崩れるシーンも。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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