インテルよ、これではいつまで経っても強くなれない。たとえ莫大な資金があったとしても。 [18-19セリエA第33節][インテル対ローマ]

今回は、セリエAを取り上げたいと思います。ユベントスが8連覇ですよ、8連覇。まぁ、ユベントスが優勝することは前半戦が終わった時点で分かってたことなので。

それよりも白熱しているのは、CL出場権4枠かけた争いです。今シーズンもCL出場権争いはとてもアツく、3位のインテルから、ミラン、アタランタ、ローマ、トリノ、ラツィオ、と8位までが残り5試合で勝ち点9差、4位ミランと8位ラツィオは勝ち点4差。最後の最後までどこが出場権を勝ち取るのかが全く分からない展開となっています。

今回は、そのCL出場権を争う両チームの重要な一戦であるインテル対ローマをケーススタディにして、インテルの致命的な問題を分析していきます。

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ハイライトはこちら↓

ゴール インテル 1 : 1 ローマ

インテル 61’ペリシッチ

ローマ 14’エルシャーラウィ

スターティングメンバー

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まずはスタメンから。ホームのインテルは、前節のアウェー・フロジノーネ戦で約2カ月ぶりに「No.9」イカルディがスタメン復帰しましたが、この試合ではラウタロが再び先発。それ以外はフロジノーネ戦と同じメンバーです。

アウェーのローマは、直前のアクシデントでマノラスがスタメンを外れ、前節のホーム・ウディネーゼ戦では右SBを務めたJ・ジェズスが急遽CBでスタメンで、左SBは前節マルカーノが務めましたが、コラロフがスタメン復帰。そしてクリスタンテとボランチでコンビを組むのは、デ・ロッシではなくエンゾンジ。ザニオーロとシックがベンチスタートで、ペッレグリーニとウンデルが先発。ウディネーゼ戦から5人メンバーが変わりました。

インテル・攻撃 ~誰が幅を取る?~

では、試合を見ていきます。インテルの致命的な問題点、僕がこれではいつまで経っても強いインテルには戻れない、CLで勝ち上がれるインテルにはなれない、と言っている理由は、攻撃です。

まずこちらをご覧ください。

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前半の序盤、相手のローマは4-4-2で守備をしていたのですが、第一プレッシャーライン(ペッレグリーニ、ジェコ)からのプレッシング、次のプレーの限定が全くなく、後ろが連動した守備ができていませんでした。

なので、インテルはCB(デ・フライ、シュクリニアル)から相手ボランチ前のスペースにポジショニングしているボランチにパスを入れ、ボランチからライン間にパスを入れることができたシーンがいくつかありました。

この展開がずっと続けば、チャンスを多く作って勝てたかもしれません。

ですが、そうもいきませんでした。インテルは14分、ロングボールでプレッシングを交わされたところからエルシャーラウィにカットインシュートを決められ、先制されてしまいます。

そうすると、

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ローマは4-4-2から4-5-1にシステムを変え、全くプレッシングを行わず、自陣に引き込んでスペースを消し、失点をしないことを優先して、カウンターを狙うプランに切り替えました。

ローマが4-5-1にシステムを変更したことで、インテルはライン間を人数をかけてケアされたので、先制されるまでの序盤のようにライン間にパスを入れるようなことができなくなりました。それにより、インテルの本当の姿が現れます。

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上図に示したものは、前半に起きていた現象です。SHがインサイドレーンに入るのですが、SBが高い位置をとらず、低い位置にとどまっているので、ライン間の大外レーン(相手SH/WGの背後の大外レーン)にポジショニングしている選手がいなので、幅を使った攻撃ができていませんでした。

なぜ、ライン間の大外レーンにポジショニングしている選手がいないと、幅を使った攻撃ができないのか。

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この図のようにライン間の大外レーンでボールを持つ事ができたら、相手はSB(フロレンツィ、コラロフ)が対応しなくてはなりません。なので、ライン間のインサイドレーンが広がります。そうすると、ライン間のインサイドレーンにポジショニングしている選手がフリーになり、パスを出すことができます。

ライン間のインサイドレーンにいる選手にパスを渡すことができると、図でいうとペリシッチが縦にドリブルで運んで、インサイドレーン裏に進入し、相手CB(J・ジェズス、ファシオ)をサイドに引っ張り出して、相手のエリア内の守備が薄くなっている状態でクロスを入れる事ができるし、ナインゴランなどと連携してコンビネーションで崩すこともできます。

ですが、

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上図のように、大外レーンの中でも低い位置の大外レーンでパスを受けると、相手はSH/WGが対応できてしまいます。なので、ライン間のインサイドレーンが広がりません。広がるのは、ライン間ではなく、第二プレッシャーラインのインサイドレーンです(WG-IH間)。そこでパスを受けても、DFラインの一つ手前のIH(ペッレグリーニ、クリスタンテ)が対応できてしまうし、そこからライン間のインサイドレーンのペリシッチにパスを入れても、SB(フロレンツィ、コラロフ)が対応できる。CB(J・ジェズス、ファシオ)に対応させて、エリア内の守備を薄くすることは出来ないわけです。

当然、クロスを入れたり、そうでなくても良いのですが、崩すなら、エリア内、ゴール前の相手の守備が薄い方が崩しやすいですよね。

なのですが、前半のインテルはライン間の大外レーンにポジショニングしている選手がいなかったので、幅を使って、相手のエリア内の守備を薄くすることができておらず、サイドの幅を使えないので、相手が人数を割いてスペースを消している中央から突っ込んでいく無理な攻撃をしていました。

インテル 後半の修正 ~偽SBの意味~

ここまで前半の攻撃時の配置の問題点について書いてきました。

ですが、この配置の問題は、後半修正されました。

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このように、左サイドはSHペリシッチがインサイドレーンに入り、SBアサモアが高い位置を取ることで、幅が使えていない問題を解決していました。右サイドでは、SBのダンブロージオが内側に絞って偽SBのようになり、SHのポリターノがライン間の大外レーンに張る。こうすることで、幅を取る選手が決まりました。ですが、右インサイドレーンにはポジショニングする選手はいませんでした。

幅を使えるようにはなったのですが、インテルは偽SBをうまく活用できていませんでした。

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偽SBを用いることの意図の一つとして、SBが絞っているので、そのSBのマークを担当する相手WGを内側に引っ張って、WG/SHへのパスコースを空ける、というものがあります。

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ですが、相手左WGのエルシャーラウィが内側に絞らなかったので、SHポリターノへのパスコースは空きませんでした。なので、WGにパスを入れることはあまりできていませんでした。

そして、結局後方でずっとボールを回すことに。

というか、そもそもダンブロージオを偽SBとして内側に組み込む必要はあったのでしょうか。

僕は、必要は無かったと思います。

なぜなら、

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このように、ダンブロージオを内側に組み込んだことで、中盤がB・バレロ、ベシーノ、ダンブロージオの3人になりました。

しかし、ローマの中盤もペッレグリーニ、エンゾンジ、クリスタンテの3人。なので、3対3の数的同数です。ダンブロージオを偽SBとして中盤に組み込んだことで中盤に数的優位を獲得したわけではありません。

3対3の数的同数で、ダンブロージオにもマークを割り当てることができるわけですから、WGは絞る必要がありません。

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このように、ローマの中盤が2人なら、偽SBのコンセプトを活用したことで、数的優位を獲得したことになります。なので、エルシャーラウィは自分のマークであるダンブロージオに対応しなくてはならないので、絞らなくてはなりません。そうすれば、SHポリターノへのパスコースを空けることができます。

しかし、この試合では偽SBによって数的優位を獲得出来たわけではないので、偽SBを活用する必要はありませんでした。

なのでこの場合の修正はとてもシンプルなもので良かったはずです。

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このように、左サイドと同じことをする。SBダンブロージオが上がってライン間の大外レーンにポジショニングし、SHポリターノがインサイドレーンに入る。

こうすることで、実際の偽SBを採用した修正では埋めることができていなかった右インサイドレーンにも選手がいるので、実際よりもポジションバランスが良い。

なので、後半スパレッティ監督が修正したものの、その修正は適格ではなかった、という結論です。

実際に同点に追いついた61分のシーンは、ポリターノが中に入ってダンブロージオが高い位置に上がってパスを受け、エルシャーラウィの寄せが甘かったので左足に持ち替えて精度の高いクロスを上げ、ファーのペリシッチがヘディングで決めています。

配置だけではない、致命的な問題点

ライン間の大外レーンにポジショニングする選手がおらず、幅を使えていないし、修正されても必要のない偽SBが出現。といった効果的な攻撃をするための配置がされていない、という問題点について書いてきましたが、もう一つずっと改善されない問題点があります。

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ここでは左側の実際のインテルの方に注目して下さい。

その問題点というのは、「前線に優れたアタッカーを並べているが、皆凍結している」ことです。要は、ペリシッチや、ラウタロ、ポリターノらレベルの高い優れたアタッカーがいるわけですが、その選手たちの縦パスを引き出す、裏に飛び出してロングボールを引き出す動き出しが少なすぎる、ということです。

なので、ライン間に選手はいるのですが、動き出しがないので、ボールを持っている後方は余裕を持ってボールを持てているわけですが、縦パスを入れることができない。

パスコース自体が空いていても、動き出していなければ、受け手側の「パスを出して」という意思を出し手側は読み取ることができません。パスを受けることを拒否しているような状態なので出し手側はその選手にパスを入れる選択をすることはできない。

ですから、CB(シュクリニアル、デ・フライ)、3MF(B・バレロ、ベシーノ、ダンブロージオ)らが後方でパスをずっと回していて、停滞感のある攻撃になっていました。

では次に仮想のインテルの方に注目して下さい。図のところまで遡るのは面倒かな、と思いますのでもう一度出します。

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はい。では右側の仮想のインテルについて。仮想のインテルでのラウタロのように、スペースを探して、見つけて、少し相手DFから離れるように動くだけで、パスコースは作ることができるわけです。その短い距離の動き出しをするだけで、縦パスを受けることができて、チャンスを作ることができます。

しかし、インテルのアタッカーたちは、その動き出しがキックオフからレフェリーが終わりのホイッスルを吹くまでの90分間で、何度もすることができず、相手DFの近くで立ち止まっている時間が長すぎた。

この問題は、どの試合でも見られます。そして、負けている展開では、どうしても攻めないといけないので、片っ端からベンチにいるアタッカーを周りの選手のポジションどうこうを気にせずどんどん投入し、カオスな状態で攻めて何とかなるかならないか、という試合を僕は何度も見ています。確かホームのラツィオ戦では中盤のダイナモであるベシーノがCFになってました。

攻撃の問題点の本質

ここまでインテルの攻撃における二つの致命的な問題点について指摘してきました。

ですが、その問題の本質は、選手のコンディションが悪い、パフォーマンスが悪い、ということではないと僕は考えています。

本質は、「プレー原則が落とし込まれていない」ということです。

プレー原則については、日本対カタールの分析で触れましたが、簡単に言えば自分たちのやりたいサッカー(ゲームモデル)を実現するための原則です。自分たちのやりたいサッカーを実現するためには、全選手がプレーを同じ基準で判断しなければなりません。後方はポゼッションして、ショートパスでビルドアップしたいのに、前線が裏に走ってばっかりではダメなわけで。試合の局面の解釈を共有して、同じ判断をしようと思えば、その判断の解答例のようなものが必要です。その解答例がプレー原則です。全選手が同じ解答例を共有するためにあるのです。

つまり、「ライン間の大外レーンにポジショニングする選手がいないので幅を使えない」という問題は、どの選手が幅を取るのか、そしてどう幅を使うのか、というプレー原則が落とし込まれていないからだと思いますし、「アタッカーが凍結」問題は、アタッカーがどのポジションに立って、誰がボールを持っている時に、どのような動き出しでボール保持者からパスを引き出すのか(足元への縦パスなのか、スペースへのロングボールなのか)、というプレー原則が落とし込まれていないからだと思います。

では、ここで僕の考えた解決策を紹介します。まずは一つ目の「ライン間の大外レーンにポジショニングする選手がいないので幅を使えない」問題について。

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それが、上図に示したものです。

まずプレー原則①。SHがインサイドレーンに入り、SBが上がって高い位置を取る。

プレー原則②。ボランチの片方がCB脇に下りて、相手WGにマークさせ、4バックをCF+SHの4人で釘づけにすることで高い位置を取っているSBをフリーにする。

そしてプレー原則③。CBもしくは中央に残っているボランチからSBに展開して幅を取る。

こうして幅を取れば、相手SBに対するSBとSHによる数的優位を生かしてサイドアタックでインサイドレーン裏に進入し、相手CBを引っ張り出してエリア内の守備を薄くしてクロスを入れる、というような形で打開を図る。

では二つ目の「アタッカーが凍結」問題の解決策です。

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プレー原則①。ボランチがボールを持って前を向いて、パスを出せる体勢になれば、インサイドレーンにポジショニングしているSHが相手DFから離れて縦パスを引き出す。

プレー原則②。SHに縦パスが入れば、相手SBに対する数的優位を生かしての連係や、ドリブル突破でサイドアタック。

最後にプレー原則③。サイドを攻略してクロス攻撃。一つ目の問題点の解決策と同じように、IRに進入し、相手CBを引っ張り出して相手のエリア内の守備を薄くした状態でクロスを入れることが望ましい。

ここまで紹介した僕の考えた解決策はあくまで一例ですが、このようなプレー原則を練習から取り組み、落とし込みがされていないので、前述したようなポジションバランスが悪く、アタッカーが凍結されていて縦パスを入れることができない、停滞感の強い攻撃になっているのだと思います。

守備はしっかりプランニングされている

攻撃は致命的な問題点が二つありますが、守備は、相手を対策することもあり、特にプレッシングは多様です。

ではここで一例を紹介します。

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セリエA第29節のラツィオ戦です。図に詳細を記しましたが、この試合のように相手を抑えるためのプレッシングを準備している試合もあるわけです。

守備ではプレー原則があり、プランニングされていて、そこまで多くのチャンスを作られているわけではありませんし、セリエAで2番目に少ない28失点。固いブロックを作れています。

なので、守備のように具体的なプレー原則が落とし込まれた攻撃ができるようになれば、もっと強いチームになれるでしょう。

データ分析 ~データで見るインテルの攻撃の停滞感~

今回は、この試合の分析ではないので、この試合の展開をデータで読み取ることはしません。インテルの攻撃に関するデータを紹介します。

(データ引用元:whoscored)

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まずはプレーエリア(左がインテル)です。両チームもGKは除いています。インテルは、センターサークル付近が物凄く濃くなっていて、この試合でも後方でボールを回す時間がとても長かったことが分かります。

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そしてこちらが各選手のポゼッション時間。インテルは72%ボールを保持しましたが、その中で4バックと2ボランチが63.6%。シュクリニアルとB・バレロは10%越えです。

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これが、4バック+2ボランチのパスマップです。これだけこの後方の6人でパスを回していて、

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SHと2CFと、途中出場3人はこれだけ。

本数にすると、チームトータルの681本中549本を4バック+2ボランチが占めていることになります。これはとても多い数字だと思います。

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そしてこのデータはパスの内訳ですが、クロスは36本とすごく多いですが、スルーボールが0本。つまり、DFラインの背後へのパスが全くなかったということです。

また、シュート自体は21本打っているのですが、枠内が5本で、8本ブロックされている。

これらのデータを見ると、インテルの攻撃はとても後方でパスを回している時間が多く、DFライン裏へのパスが全く出ておらず、アタッカーにパスが届いていない、停滞感の強い攻撃だったことが分かります。

総括

攻撃の問題点① ポジションバランスが考えられておらず、SHはインサイドレーンに入るのに、SBは低い位置に留まっているので、幅を使った攻撃ができない。また、後半修正されたが、意味のない偽SBを行っていて、幅を取る選手が決まったのは良かったが、停滞感があることは変わらず。

攻撃の問題点② アタッカーがライン間で止まっていて、動き出しが少なすぎるので、後方は余裕を持ってボールを持てているが、縦パスを入れることができず、4バックと2ボランチがボールを持っている時間が物凄く長い。

しかし、これらの問題点の本質は、選手のコンディションなどではない。プレー原則が落とし込まれていないことである。

どの選手がライン間の大外レーンにポジショニングし、その選手をどのように使って幅を取り、崩すのか。どの選手がボールを持った時に、どの選手がどのように動き出してそこにパスが入ればどうするのか。

このようなプレー原則がないので、選手は再現性のあるプレーができず、全部アドリブ、という感じなので、停滞感の強い攻撃になっている。

守備は良いので、攻撃的なサッカーをローマなどで披露していたスパレッティ監督が攻撃でも具体的なプレー原則を落とし込むことができるか。このずっと改善されない課題を克服できないならば、いつまで経っても強いインテル、リーグの優勝争いをして、CLで勝ち上がれるインテルには戻れない。

ちなみに、試合は1-1のドロー。結果、他会場の勝ち負けもあり、インテルは3位キープで、ローマは4位に。順位が一つ上がりました。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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