個人依存が引き起こした美しい前半と静かになった後半~日本対パラグアイ レビュー~[キリンチャレンジカップ2019]

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今回取り上げるのは日本代表です。9月4日に鹿嶋サッカースタジアムで行われたキリンチャレンジカップ2019の一戦、日本対パラグアイを分析していきます。前半に大迫、南野がゴールを奪い、多くのメディアで「快勝」と報じられていますが、確かに前半は面白く、ワクワクする展開でしたが、後半に目を向けるとどうでしょうか。前半と後半のパフォーマンスを比較すると、やはり森保JAPANの最大の課題が浮き彫りになってきます。

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序章 スコア&スターティングメンバー

日本 2 : 0 パラグアイ 

日本:23'大迫 30'南野

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日本は、海外組が10人、国内組が橋本一人のみという構成。お馴染みの顔ぶれが並び、新鮮な感じはありません。システムもいつもと同じく4-2-3-1。権田、酒井、冨安、吉田、長友、柴崎、橋本、堂安、南野、中島、大迫の11人です。

コパ・アメリカでは決勝トーナメントに進出し、ブラジルと接戦を演じたベリッソ監督率いるパラグアイは、4-3-3でプレミアファンの方には馴染みのあるアルミロンや昨シーズンはベティスに所属していたサナブリア等がスタメン。コパアメリカの試合を見られた方は覚えている選手も多いでしょう。

第一章 個々の連動性と、最後方の致命的なミス。

攻撃の時間がかなり長かったため、攻撃の分析が多めになるので先に守備について書きます。

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日本は南野と大迫が横並びになって4-4-2で守備的プレッシング。しかし攻撃的プレッシングとも言えると思います。第一PLをセンターサークル辺りに設置し、そこから出て行ってプレッシャーをかけていく形です。

対するパラグアイは、4-3-3のままで、5レーンをいうものが意識されているようには見えませんでした。

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プレッシング時、第一PLの大迫、南野は、片方が寄せてもう片方は下がり目でMFへのパスをケアするセットオフポジションを取ります。ボールに近い方がCBにプレッシャーをかけ、もう片方は斜め後ろに下がってAC(8)をマークします。CBにプレッシャーをかける選手もAC(8)へのパスを出されないように意識的にバックマークプレスで寄せていたので、二重でケアしていることになります。

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その第一PLのAC(8)を消す守備でサイドにパラグアイを誘導したら、ハメ込みます。SB(3)にSHがプレッシャーをかけ、トップ下,CH,SBが連動してパスコースを消し、一気に奪いに行きます。

ここで印象的だったのは、左SH中島の守備。今まであまり守備意識が高くなく、コロンビア戦では中島の背後をケアする方法を持っておらず機能していないが顕著に表れたわけですが、コパアメリカのウルグアイ戦から意識が変わり献身的な姿勢を見せました。その献身性がこの試合でも継続されていて、左SB(2)にパスが出た瞬間にプレッシャーをかけ、潰すシーンや、寄せるときに相手CHへのパスコースを消すバックマークプレスで寄せるシーンも見られました。移籍したポルトは組織的な守備ブロックを組むチームですので、セルジオコンセイソン監督の指導により、守備時の個人戦術もレベルアップしたのかもしれません。中島が守備でも効果的にプレーしつつ、孔隙でもドリブルやコンビネーションでチャンスを作り出してくれれば、日本にとってはとても嬉しいことですよね。

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また、上図に示した55分49秒のシーンでは、右WG(10)への縦パスに対して長友が背中から寄せ、橋本がプレスバックしてダブルアタックで奪い切るという連係も見せていました。

押し込まれる時間はほとんどなかったので組織的守備のことに関しては何とも言えませんが、ある程度組織的に守ることは出来ていたと思います。ですが森保監督がそれを全て指導して落とし込んだものなのか、というとやはりそうではないと思います。もちろん森保監督もベースの部分は指導していると思うんですが、第一PLのプレッシングであったりハメ込む守備等は、個人戦術に頼る部分が大きいと思います。

ここまでポジティブな面について書きましたが、最後に大きくネガティブな、ピンチを招いたCBの連係について。

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35分35秒のシーンです。敵陣左サイドでプレッシングをハメ込むも奪い切れず、右WG(10)のドリブルによってカウンターを喰らいます。その(10)と(10)からパスを受けた(9)には、左SB長友の裏を突かれているので左CB吉田がスライドして対応するのですが、この時に冨安と吉田の距離が遠すぎる。吉田がサイドに出て対応するのは仕方ないことなので問題はありませんが、冨安はもっとボールサイドに絞らないと、CB同士の間が大きく空くと、相手にゴールへの道を与えてしまうことになります。このシーンでも実際に(9)にカットインされ、そのCB間のスペースを突かれてシュートを打たれていて、権田の好セーブがあったので何とか失点は免れたという決定機を作られてしまっています。

これと同じような事象が何度も見られたわけではないのですが、CB同士の連係ミスは例え試合の中で1回しか犯さなくても失点に直結するので、1→0にするべきものです。

第二章 個人依存による前半と後半の高低差

では続いて攻撃の分析をしていこうと思います。前半2点を奪い、他にも素晴らしい崩しを見せた理由は何なのか、なぜ後半は前半のような攻撃が出来なくなってしまったのか。実際に見られた事象を抽出して解き明かしていきましょう。

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まず日本は4-2-3-1のままで攻撃。パラグアイ同様5レーンを意識した配置がされているわけではない。パラグアイは自陣に4-1-4-1でブロックをセットし、守備的プレッシングで構えます。

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そのパラグアイのベリッソ監督は、コパアメリカと同じく特徴的な守備戦術で日本の攻撃を封じようとしました。それが「幅広いエリアでのマンツーマン守備」です。相手のキープレイヤー(特にトップ下やAC)1,2人にマンツーマンで対応するチーム、監督は良く見ますが、ベリッソの場合は噛み合わせがハマるマッチアップには全部マンツーマンをつけ、人がついて行く形で対応。ですが若干ハマらない部分(CF(7)とAC(8)のゾーン)があるのでそこはゾーンで守備。なのでアタランタやフランクフルトのようなフルマンツーマンではありません。

ではこのパラグアイの特徴的な守備を前半の日本はどのようにして攻略したのか。理由は大きく分けて二つあります。

まず一つ目は「堂安&酒井&中島の右大外攻略」

11分43秒のシーンがこちら↓

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左サイドにボールがある時に、逆サイドの右SH堂安は中央に絞ったポジションを取り、マンツーマンで対応する左SB(2)を内側に引っ張ります。それによって右の大外にはスペースが出来る。そこにSB酒井が走り込み、中島からのサイドチェンジを引き出しました。このサイドチェンジは通りませんでしたが、相手がマンツーマンで対応していると分かっている堂安がスペースを作り、そのスペースを酒井が見つけて使った良いシーンです。また、この時酒井に対応するパラグアイの左WG(9)は完全にボールウォッチャーになっていて、ボールのある左を見ていました。酒井はその(9)の死角から走り込んだのでフリーの状態でボールにアプローチすることが出来ていました。

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そしてこの16分23秒のシーンはハイライトにもなっているこの試合を代表する素晴らしいシーンです。この図に書いていない前段階から話すと、相手の縦パスを吉田がカットし、左から中央に入って来ていた中島に渡しました。そして中島はAC(8)の左脇に顔を出した大迫とのワンツーでIH(6),(23)のプレッシャーを交わします。そのタイミングで堂安は右から中央に向かってスタートを切り、左SB(2)を引っ張ります。この動き出しによって生まれた大外のスペースにまたしても酒井が酒井を警戒できていない左WG(9)の死角から走り込んでスルーパスを引き出し、ワンタッチでグラウンダークロスを入れて大迫が右足でフィニッシュ。

ボールを奪ってPTに切り替わった直後に大迫&中島のワンツーでスピーディーに相手のプレッシャーを交わして中盤を突破し、そこから11分43秒のシーン同様「堂安絞って大外空ける→酒井がラン→中島からスルーパス」という流れの3人の連係で右サイドを大外から完全に崩し、シュートまで到達。素晴らしいとしか言いようのない最高のシーンでした。

そして、

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堂安&酒井&中島の連係は、上図に示したように30分の南野の2点目に直結しました。図、もしくはハイライトを見ていただければここまで紹介した二つのシーンと中島に入ってからの崩し方が全く同じであることが分かると思います。

この3人の連係が得点を生んだわけですが、この連係で一番重要なのは「堂安」でした。なぜなら、彼がマンツーマンで相手が自分に対応していることを理解して、その「マンツーマン」を逆手に取って大外にスペースを生み出す動きをしなければこの崩しは実現しないものだったからです。堂安のサッカーIQの高さを起点に酒井のランニングと中島のパス技術が上乗せされて16分23秒と2点目の素晴らしい崩しが生まれたというわけです。

では大きく分けた二つ目について。「中島の質的優位」です。

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まず9分34秒。中島が中央に下りてきてボールをもらい、ドリブル開始。このドリブルで3MF(8),(23),(6)全員を引っ張り、奪われることなくその密集をかいくぐってAC(8)左脇の南野に繋げ、南野がライン間でフリーの状態で前を向き、左足シュートまで持ち込みました。

そして次に23分の先制シーン↓

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橋本から中島に入った時にパラグアイは右SB(3),右WG(10)の二人が食いつきます。そこで中島はワンタッチで中央に入って来ていた堂安にはたき、堂安からパラグアイの二人が食いついたことで空いた左大外の長友に展開。そして長友がクロスを入れて、相手DFに当たってコースが変わるも上手く大迫が合わせて決まりました。

「質的優位」というのは個々人の「質」つまりドリブルであったりパスであったりスピードなど、その選手の持つ技術やフィジカルのレベルがもたらす優位性のことです。このシーン、中島はパスが入ってくるときに首を振って後ろの状況を確認しているので、恐らくパラグアイの選手が食いついてきて、背後にスペースがあることが分かったので堂安にシンプルにはたいのかなと思います。そうなら中島の認知の能力が優れていてそこから判断を下して実行するまでも素早くて正確であったことが分かりますし、その優れた認知→判断→実行のプロセスの「質」がパラグアイの寄せを上回り、背後のスペースを使うことに繋がったと言えますよね。

そして先ほど紹介した9分34秒のシーンでもドリブルの「質」で3人を食いつかせて奪われることなくその背後のスペースにパスを送り込んでいるし、加えて堂安、酒井との連係の時にも「質」の高いサイドチェンジやスルーパスを出してチャンスを作っている。

この中島の多岐にわたる「質的優位」によってチャンスを作ったといううのがパラグアイの守備攻略法②でした。

この二つをまとめると、共通点が浮かび上がってくるんですが、その共通点とはいったい何でしょう。それは、

「個人戦術によってパラグアイのマンツーマン守備を攻略している」

ことです。①では堂安がマンツーマンで相手が対応してくることを理解して内側に絞り、左SB(2)も絞らせて大外にスペースを作り出したからこそのことで、②は中島のドリブル技術や、優れた認知→判断→実行のプロセスによって複数人を食いつかせ、そのプレッシャーをはがしてチャンスが生まれている。

主に堂安、酒井、中島の個人戦術によってパラグアイのマンツーマン守備を逆用して攻略出来た、前半に2点を奪うことが出来た、ということですね。

では後半どうだったのか。

まず3つの選手交代がありました。

HT 中島OUT→原口IN
      堂安OUT→久保IN
   酒井OUT→植田IN

このメンバー変更があって後半を迎えたわけですが、見事に前半とは様変わりの展開になりました。美しく崩すシーンは見られないし、得点も決まらない。ずっと攻撃する時間は続くも停滞。

なぜそうなったかと言うと、一番大きな原因は「個人依存」です。前半は日本の中のトップであり、代表チームでもずっと一緒にプレーしてきたことで連係が洗練されている中島、堂安、南野、大迫といったアタッカー人が先発したので、相手のマンツーマン守備を逆手に取って見事なコンビネーションで崩すことが出来ていたのです。しかし、後半の久保、原口、南野、大迫(永井)といったアタッカー陣はそういうわけではない。久保と南野、永井が一緒に組んだことは無いし、久保と原口&大迫はエルサルバドル戦の20-30分しか一緒にプレーしていない。

このようにまだまだ連係が未熟なので、そのアタッカーの個人戦術同士の連係を求めても無理だった。だから停滞したんです。

これが個人依存の弱点です。誰かが欠場したり交代したりすると、一気に機能性が下がってしまう。しかし、これをしっかりゲームモデルを設定してそのゲームモデルを実現するための具体性のあるプレー原則を落とし込むと、選手が代わってもチーム共通のコンセプトがあるので同じようなプレーができ、チームとしての機能性が落ちない。なので僕はこのnoteで日本代表について書くときにはいつもこれを訴え続けているのですが、まだ一向にゲームモデルに伴ったプレー原則が落とし込まれる気配はありません。

しかし、ライブ配信でも言及した通り、ゲームモデルとプレー原則無くしてJFAの言う「臨機応変なサッカー」なんてできるはずがない。JFAの矛盾がお分かりいただけると思います。

最後に取り上げないわけにいかない久保について。

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この試合HTから45分プレーした久保ですが、はっきり言って良さはあまり発揮されず。なぜなら上図のように右SHのポジションから久保が入っていきたいライン間右ILに、既に永井や南野がポジショニングしていて、久保が入れない状況になっていたからです。久保はタッチライン際でパスを受けて縦方向にドリブルで相手SBをちぎってクロスを折り返すタイプの選手ではありません。ライン間ILに入って内側でプレーし、ポジショニングセンス、縦パスを半身で受ける動きや密集の中での繊細な技術、そして左足から繰り出されるスルーパスやクロスが良さである選手なのでタッチライン際でパスを受けてばかりでは良さが発揮できない。しかしライン間ILに入れない場面が多すぎたので久保は輝きを放つことは出来ず。

この点も、選手の良さを生かし、最大値を引き出すための配置であったり戦術をゲームモデル&プレー原則で落とし込めば解決できるのですが...

終章 総括

守備
・4-4-2で守備的プレッシング。
・第一PLはセットオフポジションを取り、AC(8)を消す。そしてサイドに誘導したらハメ込みに行く。
・中島はこの試合でも献身的な守備を見せた。
・CBの間が開きすぎて35分35秒に決定機を作られた。
攻撃
・①「堂安絞って大外空ける→酒井がラン→中島からスルーパス」
・②「中島の質的優位」
・①&②でパラグアイのマンツーマン守備を攻略→2点をゲット
・後半は、主力が交代し、一気に機能性が低下。個人依存の弱点が顕著に表れた
・ゲームモデルに基づいたプレー原則を落とし込むことで個人依存は解決できる
・永井や南野に既にライン間右ILにポジショニングされてしまっていて、入れない状況が多発し、久保は良さを発揮できず

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のコメント、DM、下のコメントにでもお書きください。

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