川崎対湘南 レポート ~冴え渡った大島と家長。湘南スタイルを破壊~ [2019J1リーグ第8節][2019年4月マンスリー分析③]
J1リーグ第8節。シーズンが始まったな、と思っていたらもう8節です。今節の湘南は、アウェー等々力競技場での川崎戦です。
湘南のアグレッシブなスタイルと、川崎のパスワークで相手のプレッシャーを華麗に交わしていく攻撃の対決を分析していきます。
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ゴール 川崎フロンターレ 2 : 0 湘南ベルマーレ
川崎フロンターレ 21’阿部 37’知念
スターティングメンバー
まずは両チームのスタメンです。最初にホームの川崎から。前節の鳥栖戦では、下田がボランチの一角を務めていましたが、田中と大島のコンビ。それ以外は前節と同じメンバーです。しかし、家長がトップ下ではなく右SHで、小林と知念が2トップ。4-4-2です。
湘南の方は、左CBに前節は大野が復帰しましたが、再び小野田が先発。そして、菊地と武富の2シャドーではなく、梅崎と武富の2シャドー。まぁ、武富は12分に負傷で中川と交代したのですが。
川崎・攻撃 湘南・守備 ~湘南スタイルを破壊した川崎の攻略策~
では試合を見ていきましょう。
まずは川崎の守備、湘南の攻撃からです。
マッチアップはこちら↑。まずは、湘南の準備していたプレッシングから。
湘南は基本的に5-4-1から守備システムを変えることはありません。なので、5-4-1で守備をする、という前提でのプランとなります。
湘南のプレッシングプランは、CF山崎のプレーによってハメ方が違っていました。
まずは、山崎が左CB(ジェームズ)にプレッシャーをかけて、プレッシングのスイッチを入れた場合。
前提条件として、山崎が右CB(奈良)にプレッシャーをかけても左CBであっても変わらないのは、2ボランチの斎藤と松田が、相手2ボランチ(田中、大島)にパスが出た所を狙ってプレッシャーをかける、ということです。
山崎が左CBにプレッシャーをかけると、左サイドが縦スライドでマークをずらします。もう片方のフリーになっている右CBには、左SHの梅崎が一列前に出てマークし、それに連動して、左WBの杉岡が相手右SB(馬渡)のマークを担当します。
そして右サイドは、マークをずらさずそのまま右SH武富が相手左SB(登里)、右WB岡本が相手左SH(阿部)をマークします。
こうして縦スライドでマークをずらしてハメていき、フルマンツーマンのような形にしてプレッシングをハメようとしていました。
次に山崎が相手右CB(奈良)にプレッシャーをかけた場合。それが上図です。
山崎が右CBにプレッシャーをかけた場合は、先ほど紹介した左CBにプレッシャーをかけた場合の真逆です。
なので、山崎が左CBにプレッシャーをかけてプレッシングのスイッチを入れた場合は左サイドの選手が縦スライドでマークをずらし、フルマンツーマンになる形でプレッシングをハメ込もうとしていましたが、それを右サイドの選手が行う、ということです。
川崎の湘南攻略策
では次に川崎の湘南攻略策について。鬼木監督がしっかり湘南のアグレッシブなプレッシングを交わすためのプレー原則を落とし込んでいました。
そのプレー原則がこちら↓
はい、このように、右SHの家長が中盤に下りてきて、右IHのようなポジションでプレーします。なので、田中、大島、家長の3人が中盤に位置する4-3-3状態になっていました。
この家長が下りてきて相手2ボランチ(松田、斎藤)に3対2の数的優位を獲得する、というのが湘南を攻略するためのプレー原則でした。
相手2ボランチに対して数的優位を獲得することで、
上図のように、フリーで家長がパスを受けることができます。そして、それによって湘南の2ボランチ(斎藤、松田)は田中と大島に対応するはずだったので、マークがずれます。それによって図で表したシチュエーションでいうと、瞬間的に松田に対して2対1の数的優位が生まれます。
そうすると、連鎖してマークがずれます。なのでフリーの選手が生まれて、そのフリーの選手を使うことで、湘南のプレッシングを交わすことができます。
この家長を中盤に加えることによる4-3-3化で、湘南スタイルを破壊しよう、というのが、鬼木監督の落とし込んでいた湘南攻略策です。
絶大な存在感を示した大島僚太と家長明博
ここまでは川崎のチームとしての湘南攻略策について書いてきました。
しかし、そのチーム戦術だけでなく、個人でも湘南スタイル破壊に大きく貢献した選手が二人いました。
大島僚太と、家長明博です。
図のように、大島がコンスタントにパスコースを見つけて顔を出し、受けて、プレッシャーをかけられてもレベルの高いテクニック、キープ力で相手を交わして、フリーになって前を向き、パスを繋ぐ、というプレーを連発していました。
大島がプレッシャーをかけてくる相手を交わしてどこにでもパスを出せる状態でボールを持つので、湘南は2人目がプレッシャーをかけに行くことができまない。
なぜなら、大島はどこにでも出せる状態なので、プレッシャーをかけに行っている間に背後のスペースにパスを通され、ピンチになってしまうからです。
この大島のプレーによって、湘南のプレスを分断するシーンが多く見られました。
また、大島ほどのたくさんの回数ではありませんでしたが、家長も同じプレーをして、プレスを分断していました。
この2人のまるでイニエスタやシャビのようなプレーも、湘南スタイルを破壊できた大きな理由の一つです。
川崎・守備 湘南・攻撃 ~ボランチが攻撃のリンク役~
続いて湘南の攻撃。
ですがその前に少しだけ。
4-4-2の川崎は、4-4-2のままで守備をすると、2トップ(知念、小林)が相手3CB(山根、フレイレ、小野田)に対して2対3の数的不利の状態になっており、2トップ脇からCBに持ち運ばれて縦パスを入れられてしまいます。
なので、左SHの阿部が一列前に出て、3トップを形成し、3対3の数的同数でプレッシングをかけていました。
では湘南の攻撃の分析をしていきます。
はい。2枚一気に出してしまいましたが、右CBの山根(山根でなくても良い)が持ち運んでライン間の山崎に縦パスを入れた、というシチュエーションです。
このようなシチュエーションでライン間に縦パスが入ると、川崎は第二プレッシャーラインを下げなくてはなりません。なので、ボランチ前のスペースが空きます。そのボランチ前のスペースでボランチの斎藤、松田が落としを受けて、スピードアップして速攻に転じたり、
フリーでCBからパスを受けてライン間への中継点となり、パス&ゴーでライン間まで飛び出していく、というようなダイナミズムのあるプレーで攻撃参加をするなど。
幅広いエリアでボールに絡み、後方と前線のアタッカーをリンクさせる役を担い、存在感のあるプレーを見せていました。
特に前半の序盤は、攻撃で良いプレーができていましたが、中盤以降は、川崎にプレスを何度も交わされ、完全に試合を支配され、カウンターに移行することができず、ボールをポゼッションして後方からビルドアップする時間を作ることができなくなっていたので、あまりチャンスを作ることは出来ていませんでした。
後半 湘南・曺貴裁監督の修正 ~結果的には...~
湘南は前半2失点。そしてここまで書いたように何度も川崎にプレスを交わされ、守備もハマっていない。
曺貴裁監督は、「悪いゲームではない」というコメントをしていましたが、内容も良くなかったと思います。
そして迎えた後半、守備を改善することが目的だと思いますが、選手交代とシステム変更が施されました。
HT:小野田OUT→秋野IN
そして、システムは
(武富ではなく中川です。変えていませんでした。)
小野田を削った4バック、秋野アンカー、斎藤と松田がIH、中川が右SH、梅崎が左SHで、山崎が1トップの4-5-1(4-3-3)です。
4-5-1に変えたことによって、
中盤が2人から3人になったので、川崎の中盤3人に対して3対3の数的同数で対応できるようになりました。なので、前半はフリーで浮いていた家長を拾えるように。
ですが、結局試合を決めるのは前のリバプール対ポルトのレポートにも書いたのですが、戦術ではなく、選手の判断でありプレーです。
戦術的には中盤が数的同数になり、マークを整理し、浮いていた選手をマークできるようになりましたが、後半も何度も大島と家長にプレスを分断されていて、個人技で解決されてしまいました。
また、4-5-1に変えたことで、別の場所に穴が空いてしまっていました。
上図のように、前半は川崎の2トップ(知念、小林)に対して3CBだったので、3対2の数的優位で対応することができていましたが、4バックに変えたことで、CBは二枚になったので、2対2の数的同数で対応しなければならなくなりました。
CBが相手FWに対して数的同数の場合、CBはFWの動きについて行って、潰すことが難しいです。
なので、川崎はプレスを分断してフリーでボールを持った大島などから縦パスが入り、知念や小林が納めて起点となり、チャンスを作ることができていました。
ではなぜ、CBはFWと数的同数の場合に食いついて潰しに行くことが難しいのでしょうか。それを今から説明します。こちらをご覧ください。
このように、2対2の数的同数なので、一人が相手FWについて行くと、もう一人のCBが、広大な裏のスペースを一人だけでケアしなくてはならなくなります。そうすると、相手FWは裏に抜けたい放題です。そこにフリーの状態の大島なんかに精度の高いロングボールを配給されると、決定機になってしまいます。
それほど、CBが相手FWに対して1対1になると、2対2の危なくなれば相方がマークを捨ててカバーできる状況とは大きく違い、非常にリスキーな状況となるのです。だから、2対2の数的同数ではCBが相手FWに食いつくことは難しいわけです。
システムを変えることで数的不利の状態に陥っていた中盤は数的同数にして対応しますが、結局は前半と同じく大島と家長に個人技で解決されてしまい、プレスを分断される展開は変わらず。
そして、CBが相手CFに対して2対2になったという弱点を突かれてライン間のCFに縦パスを入れられてチャンスを作られる、というシーンもあり、修正が戦術的には効果的な面もあったわけだが、結果的に逆効果。後半も試合を支配され、ボールを奪う位置が低くなり、カウンターアタックを仕掛けることがほとんどできず。
攻撃でも
前半は、攻撃でボランチの斎藤と松田が後方とアタッカーをリンクさせる役を担い、幅広いエリアでボールに絡んで、中心になっていました。
ですが後半はそのボランチの攻撃参加がほとんどなくなりました。
そして、CFの山崎が孤立。
なぜなら、3-4-2-1ではシャドーでプレーしていた選手がWGでのプレーとなり、内側に入らずタッチラインに近いポジションにいることが多かったからです。
なので、図にも示したようにCF山崎と他のアタッカーの距離が遠くなり、山崎に縦パスが入っても他の選手がスムーズにサポートに入って落としを受けることができないし、近くに選手がいないとパスを入れてもその次の展開が難しいので、縦パスを入れることも躊躇してしまう。ていうか、縦パスを入れられない。
このように山崎に縦パスが入っても近距離に見方がおらず、落としが繋がらないので、松田、斎藤が攻撃参加する時間がなく、上がる前に奪われてしまう。
もう一つ、山崎の近くに見方がおらず、サポートがないので、そもそも縦パスを入れられないので、攻撃参加する機会がない。
このような理由で、後半の湘南は攻撃も停滞しました。
この攻撃に関しては、曺貴裁監督の修正が甘かった、と言えると思います。
守備に関しては個人技で解決されてしまったので、多少仕方ない部分はありますが、このCF山崎と味方の距離が遠い問題については、WGがインサイドレーンに入っていく、もしくはシャドーの時と同じようなポジショニングをする、という言い方で伝えて、プレー原則を設定することで解決できたはずです。
データ分析 ~大島と家長と低調な湘南の攻撃~
最後にデータで試合を解釈していきます。
(データ引用元:Football lab)
実際にJリーグクラブにデータを提供しているデータスタジアム社のJリーグの試合に関する詳細で豊富なデータを見ることができるので、ぜひ下のリンクからご覧ください。
(1枚目が前半、2枚目が後半です。)
まずはプレーエリアから。川崎の方は、前半は中盤と左サイドが特に濃くなっていて、前後半に共通していることはサイドが濃い、ということ。
湘南の方は、前半は敵陣左サイドが濃くなっている一方、自陣の中央も濃くなっていて、守備の時間が長く、押し込まれていたことが分かります。後半も同じように自陣側の方が濃くなっています。
(上の水色が川崎、下が湘南。)
次にゴールの可能性が高いプレーをしていた時間を示すグラフです。
前半の湘南はほとんどゴールへの可能性が無いことが示されています。だいたい11-22分あたりは(横に四分割されたうちの左から二番目のエリア)ゼロ。
そして、このクロスを12本上げて成功率0%というのもゴールの可能性が低かったことを読み取る材料の一つになりますし、湘南のような縦志向の強いスタイルでプレーするチームのパス本数がチーム平均より約200本多いことも気になります。それほど後方でパスを回していた時間が長かったということです。
この二つのスタッツでも、湘南の方はやたら走行距離が長い。
これは走らされていた、ということでしょう。実際、終盤になってもパワフルなランニングを他の試合なら見せている湘南ですが、この試合の終盤は明らかに多くの選手が疲れていて、プレッシングをハメようとしても他の選手がついて来れなくなっていてハメきれず、交わされるシーンも多く見られました。
ですが、スプリントは約40回少ない。ずっと守っていれば長い距離を走ることはありません。カウンターアタックを仕掛けることができた回数が非常に少なかったので、その分スペースに飛び出していく機会が少なく、このような数字になったのかもしれません。
こちらがCBPポイント(前回、前々回に定義については多少触れているのですが、詳細についてはぜひこの章の最初に貼ってあるリンクからサイトに飛んでみて下さい)の攻撃/パス部門。
どちらも川崎の中盤3人、家長、田中、大島がトップ3。試合を支配していたことが分かります。
逆にここまで出場した試合で攻撃、パス、ドリブルなど、多くの部門で高い数字を記録し、データでも良いパフォーマンスを見せていることが示されていた湘南のCF山崎は、攻撃部門では1.25ポイントで11位。パス部門では0点台となっています。
ではこの試合の山崎のパフォーマンスを、他の試合のパフォーマンスと比較してみましょう。
この表を見ると、出場した7試合の中で、攻撃CBPは下から2番目。パスCBPは上から5番目。そしてドリブルCBPはポイントがついているのが7試合中の5試合で、その中で4番目。パスレシーブCBPも下から2番目。
このように、どのCBPポイントも出場した7試合の中で低く、データからもこの試合では目立ったプレーができていなかったことが分かります。
ですが、誤解しないでほしいのは、単に山崎が悪かったというわけではないということ。
一つ前の湘南の後半の修正の章で書いたように、4-5-1になった後WGが内側に入らず、タッチライン際にポジショニングしていることが多く、味方が近くにおらず、山崎自身ではどうしようもない部分も大いにあったわけです。
なので、山崎が悪いパフォーマンスをしていたというより、チームとして山崎を生かして効果的に攻撃する方向に持っていけなかった、ということが問題の本質です。
次にこちらをご覧ください。
(1番目が大島、2番目が家長、3番目が田中の表です。)
こちらはこの試合で素晴らしいパフォーマンスで湘南のプレスを分断した川崎の中盤3人のシーズン通しての各試合のCBPポイントとの比較です。
ここでは3人もいるのでイチイチこの部門が何位で、どうでこうで...という話はしませんが、3人共今シーズンの中でトップレベルのプレーをしていたことが分かります。
湘南の攻撃の核である山崎は本人だけの責任では決してないものの、良いパフォーマンスではなかったが、川崎の湘南攻略策のカギとなっていた中盤3人は素晴らしいプレーをしていたことがデータでも示されている、ということを結論としたいと思います。
総括
守備 山崎がプレッシングのスイッチを入れるタイミングによってハメ方を変えるプレッシングプランを準備していたが、川崎に2ボランチに対して3対2の数的優位を作られ、マークがずれ、ハメることができなかった。また、大島、家長にキープ力でプレッシャーを交わされるシーンが多く、プレッシングを分断される。押し込まれる時間が長い展開になった。そのプレッシングがハマらない守備を改善するべく後半の頭から曺貴裁監督が修正。秋野を投入し、システムを3-4-2-1から4-5-1に変更。それによって中盤を数的同数にするが、結局大島、家長に個人技で解決されてしまい、プレスを分断されて押し込まれる展開は変わらず。逆に、CBが川崎のCFに対して2対2の数的同数で対応しなければならなくなったので、CFの動きに食いつくことは難しく、CFに縦パスを納められてチャンスを作られることもあり、修正は結果的に逆効果。
攻撃 前半は、押し込まれる時間が長かったのであまり後方からビルドアップをスタートさせて攻撃する時間は無かったが、ボランチの斎藤と松田が幅広いエリアでボールに絡み、後方とアタッカーをリンクさせていた。しかし、後半、4-3-3に修正されると、逆にWGが内側に入ってこないので、CF山崎の近くにサポートをする選手がおらず、山崎が孤立。山崎のサポートができない状況なので、縦パスを入れることができず、斎藤、松田の攻撃参加で厚みを加えるシーンもほとんどなく、ダイナミックでスピードのある攻撃を展開することは出来ず。
試合は、21分にロングボールを馬渡が競り落とし、川崎の2トップ小林と知念が湘南のDFラインを押し下げていたことで空いていたライン間のスペースで落としを受けた阿部が美しいコントロールシュートを決めて先制。そして、セカンドボールを家長が納めてマイボールにして、パスを受けた奈良の正確なスルーパスに抜け出した知念がGK秋元との1対1を制して2-0。湘南は最後までペースを握ることができず、いつもなら終盤でもパワフルに走ることができる湘南の選手たちだが、疲れが出てきてプレッシングに全体が連動できなくなっていた。
この敗戦で、湘南は3戦勝ち無しに。次節アウェー駅前不動産スタジアムでのサガン鳥栖戦です。
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