王者に対する「タレント軍団」の綿密な準備。フィンク監督の思惑とは?~川崎対神戸 レビュー~[2019 J1 27節]

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皆さんこんにちは。こんばんは。おはようございますの方もいるかもしれません。ですので、おはようございます。

そんなことは置いておいて、今回は久しぶりにJ1の試合を分析していきます。3連覇を達成するにはもう負けてられない川崎と、残留争いに巻き込まれてしまっている神戸。この注目の一戦に、神戸はタレント軍団を擁しながらもしっかりと綿密な準備を見せ、見事に川崎を攻略しました。そして試合は2-1で神戸が勝利。終盤に川崎は長谷川のゴールで1点差に迫りますが、同点に追いつくことは出来ずに、落とせなかった試合を落とすことになってしまいました。

ではこの試合の神戸はどのように川崎の攻撃を封じ、ゴールを狙いに行ったのか?川崎にはどのような対抗策があったのか。この辺りにフォーカスして書いていきます。

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序章 スコア&スターティングメンバー

川崎フロンターレ 1 : 2 ヴィッセル神戸
川崎: 90+1'長谷川
神戸:44'ビジャ 70'大崎

川崎対神戸 1

まずホームチームの川崎のスタメンから。システムは4-2-3-1で、ジェジエウ、奈良の負傷もあって谷口の相方は車屋が務め、右SBには守田。僕は普段川崎を見ているわけではないので分かりませんが、かなりCBに車屋という起用は意外だなと。車屋は右SBで起用されたりもしてますし、色々やってますね。それ以外は特に驚きの起用はなく、下田、田中、阿部、中村、家長、小林がスタメンに名を連ねました。

対するアウェーチーム神戸は、3-3-2-2。大崎の脇をダンクレー、ヴェルマーレンというJリーグトップレベルのCBが固め、ACにサンペール、IHは山口とイニエスタ。2トップはビジャと古橋。

第1章  神戸の川崎攻略法に対する川崎・根性の対応

まずは川崎が守備、神戸が攻撃をする局面から分析していきます。

川崎対神戸 2

川崎はSHの阿部、家長が前に出てCF小林と3人で相手3バックにプレッシャーをかけ、トップ下の中村は相手ACのサンペールをマンツーマン。相手のプレーメイカーに仕事をさせないタスクを担います。数字で表記するならば4-2-1-3です。そしてハーフラインよりも少し前にFWライン(小林、阿部、家長)を設置し、攻撃的プレッシングによって相手のDFラインのビルドアップを牽制します。

あまり積極的にボールを取りに行かず、守備的なプランを選択したのです。

神戸は特に配置の移動はなく、3-3-2-2のままでビルドアップしていきます。GK飯倉を組み込み、ショートパスを重視するスタンスで、飯倉がマリノス時代同様ペナルティーエリアを飛び出して高い位置でビルドアップに参加する姿勢を見せます。

では神戸の攻撃戦術から見ていきたいと思います。大きく分けて狙いは二つでした。

川崎対神戸 3

まず一つ目。「ビジャへのタッチダウンパス」です。この試合何度も最前線のCFビジャの動き出しに合わせてタッチダウンパスを送り込み、一発でDFラインの裏を突く攻撃をしていました。

この攻撃はかなりしっかりとチームに意識づけされているプレーなようで、プレー原則として落とし込まれている攻撃だと思います。ビジャは37歳ですが、まだまだ裏抜けできるスピードがありますし、そこからのカットインはビジャの大きな武器です。このタッチダウンパスが蹴れるのは飯倉、ダンクレー、大崎、ヴェルマーレン、サンペール、イニエスタあたりでした。次に二つ目。

川崎対神戸 4

WBの酒井、西は幅を取るタスクを担っているわけですが、あまり高い位置を取り過ぎずに前に出てサイドCBにプレッシャーをかけるSH(41,8)とSB(6,2)の中間にポジショニングすることを意識。そうすることによって中間でフリーになり、サイドCBからフリーでパスを受けることができていて、そのルートから前進していました。

川崎対神戸 5

前進できたら、左サイドの場合は酒井とイニエスタの場合はワンツーで崩すシーンも多くありました。

この神戸の攻撃に対して川崎はどう対応したのか。

まず一つ目のタッチダウンパスに関しては、終盤まで特に対応策をというのは示されていなかったのかなと思います。なので、結構ピンチを作られていました。二つ目に関してですが、これは「SHの根性」でカバーしていました。↓

川崎対神戸 6

SHとSBの中間でパスを受けられて、SBは距離があり、前に出ると背後にスペースを空けてしまうのでSHが急いで戻ってなんとかスペースを埋める、という対応でした。論理がどうこうといった対応ではありませんが、根性は必ず必要な要素ですから(根性論ではありません)しっかり良い対応ができていたと思います。現にその守備によって中間を使われてもそこまでピンチを多く作られたわけでは無かったので。

というように、守備的なプランで神戸に対抗した川崎は、チームとして戦術的な修正を見せたわけではありませんでした。なので神戸の裏へのタッチダウンパスにはやられていたのですが、押し込まれた時にはしっかり4+4のブロックを組んでバランスの取れた守備ができていたので、何度も崩され、多くのピンチを作られたわけではなく、しっかり守れていました。

神戸も紹介したようにビルドアップのプランはしっかりしていたのですが、川崎を押し込んで、ゾーン3の局面になったときの崩しのプランも具体性があればもっと良かったです。ですが、神戸はポゼッションの時間を長くしてボール保持によって試合を支配し、ゴールを奪いに行くというゲームプランだったとは僕自身は思いませんし、そこまでゾーン3のでのプレーに時間を割いていなかったとも考えられるのでこの試合に限ってはあまり問題ではないのかなと。

第2章 フィンク監督の川崎対策「弱点を消した5-3-2」

ではここからは川崎が攻め、神戸が守る局面について分析していきます。

川崎対神戸 7

まずホーム川崎は、SHの家長、阿部がライン間ILにポジショニングし、SBが高い位置を取って幅を担保する役を担います。

対する神戸はハーフラインにFWラインを設置して5-3-2で守備的プレッシング。基本は自陣で守備をするスタンスながらも、時より高い位置からプレッシングをかけていく局面も作っていて、「自陣に構えるだけじゃない」という姿勢を見せ、ファイティングポーズを取ることもありました。

では、攻める川崎は、どのような形でゴールを狙うのでしょうか。この試合から読み取れたものを図で示します↓

川崎対神戸 8

上記のように神戸は基本的にはプレッシングをかけてこないので後方ではフリーでボールを保持することが出来ており、不自由なくサイドの高い位置にボールを運ぶことが可能。幅を取ったところから内側に入ったSHがILランをしてスルーパスを引き出し、ゴールライン際をえぐってクロスを折り返す。これが①。②は、中央突破。相手がスペースを消していながらもライン間にポジショニングしている小林や中村に縦パスを打ち込んで、スピーディーかつ精度の高いコンビネーションで崩す。特に②は川崎の選手のクオリティの高さがあってこそできる攻撃です。

この試合では主にこの二つの形から神戸の守備を崩してゴールを奪おうとしていた川崎ですが、その川崎に対して神戸のフィンク監督はどのような対策を準備していたのでしょうか?それを次から分析します。

川崎対神戸 9

試合を通して、IHの山口、イニエスタは、「サイドにスライドしたくない」という心理のもとでプレーしているように見えました。なぜなら中央→サイドのスライドを繰り返すと運動量を大いに奪われますし、山口はそういう守備を厭わないプレーヤーとはいえイニエスタに関しては特に守備では走らせたくない選手ですよね。なのでこの5-3-2システムではIHは守備時にタフなタスクを負うことが多いのですが、サイドにボールが行っても中央のポジションをキープし、スライドをしませんでした。

ですが、フィンク監督はそのための仕組みをしっかり落とし込んでいたのです。上図のように、WB酒井、西が縦スライドで相手SB守田、登里に対応し、相手SH家長、阿部にはサイドCBのヴェルマーレン、ダンクレーが食いつきます。こうすることでIHがスライドしなくても良い環境を作っていました。

また、ゾーンで守っているIH山口、イニエスタとは反対にACサンペールは人に付く守備。特に下りて行ってパスを受けにいく相手トップ下の中村を掴んでパスを受けさせない、という守備が多かったです。そしてそのサンペールの一列後ろのCB大崎は、サイドCBをカバーするゾーンのエッセンスも含まれていながらも、相手CF小林の縦パスを引き出す動きには追跡してパスを受けさせないマンツーマン守備をしていました。ポジションによって柔軟にゾーン守備とマンツーマン守備を使い分けていたわけですね。

ではこの守備によって何が得られたのでしょうか。それは「サイド守備時の中央封鎖キープ」です。

川崎対神戸 10

5-3-2システムなので、中央には3CB,3MF,2FWの8人がポジショニングしていて中央にボールがある時には中央を封鎖することが出来ており、相手をサイドに誘導。そこでサイドに相手を誘導した後、相手SH阿部、家長にはダンクレー、ヴェルマーレンというハイレベルなCBがマークしているので簡単にはサイドCBの壁を突破されません。なのでサイドCBのエリアで中央のゴール前へのルートを封鎖出来ているのです。

加えて前述の通りIHがスライドしなくて良い仕組みがあるのでサイドにボールがあっても3人が中央にポジショニングしており、ライン間にパスが入ってもCBとのプレスバックで奪えますし、3MF間にスペースが空いて使われたり、逆サイドに展開されて3MF脇を使われることも無し。

このように、3MFがスライドしなくても良い仕組みがあることで、サイドでの守備になっても中央の密度の高さをキープでき、サイドから中央へのルートをサイドCBで封鎖し、3MFの間、脇を使われることなくライン間へのルート封鎖を継続。サイドに誘導した後も強固に中央封鎖して5-3-2の短所をケアし、中央からもサイドからもゴール前に侵入できない守備戦術だったのです。

そして川崎が強引に中央のライン間に縦パスを打ち込んできたところをCBが潰して奪取。川崎がブロック内に入ろうとしてきたところを奪いどころに設定してカウンターを仕掛けようというプラン。この守備を見事に選手が遂行し、川崎の攻撃を封じて見せました。

第3章 試合中に隠れていた川崎が攻略するためのヒント

第2章で書いた神戸の守備戦術ですが、川崎にも攻略するヒントは試合の中に隠れていたので、そのヒントとは何だったのかをこの章では書いていきます。

川崎対神戸 12

まず最初は60分前後のシーン。守田がボールを持った時に相手左WB酒井が寄せた時に、その酒井の背後のスペースに家長が入ってきてタッチライン際でパスを受け、マンマークで食いついてくる左CBヴェルマーレンをサイドに引っ張り出します。そうすることによって左CBヴェルマーレンとCB大崎の間のスペースが空き、小林などがアタックしてスルーパスを引き出せる局面が生まれていました。川崎に関してはストライカーの小林がクロスの出し手になっても中村、阿部などシュートが上手い選手がいるので小林が飛び出してもよかったと思いますが、この2度あったシチュエーションを川崎はどちらも有効活用することが出来ていませんでした。

では次に二つ目のヒント。

川崎対神戸 11

鬼木監督は、68分に阿部を下げてドリブラーの長谷川を投入。そして長谷川は阿部とは違ってタッチライン際に張り、相手右WB西を釘付けにして登里と2対1の数的優位を獲得していました。しかし、解説の戸田さんも言及されていましたが、この選手交代を川崎はあまり上手く生かせていませんでした。なぜなら、「スピード感を失っていたから」です。

スピード、突破力のある長谷川とせっかく投入したのに、各駅停車のパスで長谷川にボールが渡るので、長谷川にはスペースがなく、西に余裕がある状態で対応されてしまっていました。ここで、右サイドで組み立てて、1、2本のパスで左サイドにサイドチェンジして、時間的・空間的余裕がある状態で長谷川にボールを渡すことが出来たら、西はスライドの途中で長谷川に対する体勢を整えられておらず、長谷川に有利な状態で長谷川がドリブル突破に持ち込めるからです。

その攻撃が無かったので長谷川を投入して登里と数的優位を作り出してもチャンス創出には繋がらず。

最後に3つ目。

「レアンドロ・ダミアンの投入」です。74分に田中に代わって投入されたダミアンですが、この選手交代も上手く活用出来ていませんでした。もちろんダミアンにクロスを放り込む、というのは分かるんですが、そのための仕組みは読み取れませんでした。「どのようにしてクロスを放り込むのか」が無ければ、そう簡単にクロスを入れることは出来ませんし、実際に1本くらいしかダミアンへのクロスは入っていませんでした。加えてダミアンに縦パスを打ち込んでポストプレーで起点を作る、というプレーが見られなかったのも疑問です。これに関してはいくつかtwitterでご意見を頂いたのですが、僕の考えていた通りポストプレーは出来るよう選手なようです。ですが、ダミアンが入る前は普通にライン間にどんどん縦パス入れまくってたのに何でダミアン入ったら縦パス入らなくなるの?(笑)という感じで全くダミアンに起点を作ってもらうようなパスは出ず。このダミアンの起用法ももっと具体性が必要だと思いますし、もしかしたら加入から半年以上経った今でもダミアンを理解しきれていないのかな?と感じます。普段から川崎を見ているわけではないのです詳しいことは知らない状態なので申し訳ないですが、川崎を久しぶりに見た身からするとそう見えました。

この辺りに関しても川崎サポの方、教えて欲しいです。情報を持っておられる方がいらっしゃればお願いいたします。

終章 総括

川崎
・4-2-1-3で攻撃的プレッシングだが、積極的にボールを奪いに行く守備ではなく、守備的なプランを選択した。
・神戸のタッチダウンパス攻撃には終盤まで対策を取れず。ピンチになっていた。
・SB,SHの中間に立つ相手WBにフリーで受けられても、何とかSHのプレスバックで対応していた。根性!
・守備的なプランを選択し、守備の時間が長くなったが、押し込まれる展開ではバランスの取れた4+4のブロックを組んで守ることが出来ていて、しっかり守れていた。
・攻撃ではSHがライン間ILにポジショニングし、Bが高い位置を取る。
・神戸の守備戦術に大苦戦。中央から突っ込んで奪われるシーンが多発。
・ヒント①60分前後の家長のヴェルマーレンをタッチライン際に引っ張り出して内側にスペースを作り出したプレー。
・ヒント②長谷川の投入。もっと長谷川が時間的・空間的余裕がある状態でパスを受けられる仕組みがあるべきだった。
・ヒント③ダミアンの投入。傍目に見ると周りがダミアンを理解しきれていない?
神戸
・3-3-2-2のままで攻撃。ショートパスにこだわり、飯倉も参加。
・ビジャへのタッチダウンパスはチーム全体にかなり意識づけされている。
・相手SB,SHの中間にWB酒井、西がポジショニングしてフリーでパスを受けて前進。左では酒井とイニエスタがワンツーで打開。
・ボール保持で試合を支配するプランではなかったと思うのでこの試合に限っては仕方ないが、ゾーン3のクオリティーは足らなかった。
・守備では5-3-2で守備的プレッシング。時々プレッシングをかける場面も作っていた。
・IH山口、イニエスタはゾーン、ACサンペールは人につく。サイドCBダンクレー、ヴェルマーレンは相手SHにマンツーマン。CB大崎も小林に食いつく。
・IHは「サイドにスライドしたくない」という心理状態でプレーしているように見えた。
・IHがスライドしなくて良い仕組みが落とし込まれている。
・中央を封鎖してサイドに誘導した後も、サイドCBダンクレー、ヴェルマーレンがゴール前へのルートを封鎖し、3MFが常に中央をキープしているので3MFの間、脇を使われることが無い。
・「サイド守備時の中央封鎖キープ」守備戦術によって見事に川崎の攻撃を封じた。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のリプライ、下のコメントにでもお書きください。

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