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論文の執筆・提出には必ずドラマがある【修論提出・口頭試問を終えて】

2020年12月に放送大学大学院 文化科学研究科 社会経営科学プログラムにて修士論文を提出し、昨日口頭試問が終わりました。論文の執筆・提出は誰のどんなケースであってもドラマチックな側面があると思っているのですが、私も提出ラスト2週間から今日まで、いろいろあったので勢いで書いておきます。これから論文を書こうとする人の役に立つかもしれないし、(ポンコツすぎて)立たないかもしれない。ほかの人のドラマも聞きたいです。

前提:2019年年4月~修士課程在学(2021年3月修了予定)。領域は政治学、組織論。並行して出版社で企業のマーケティングに関する媒体の編集を行っています。

※これまでの研究過程もnoteにしていますが、2020年は更新があまりできませんでした。空白を埋めないと…。

1. ~提出

恐ろしいほどまとまりませんでした。間に合わなすぎて仕事の休みをとりました。

最後はビジネスホテルに缶詰めで書きました。作家さん作戦です。思考をまとめたいときにはあらゆるものが雑音になるので、「なにもない」ビジネスホテルはとても良いです。ただし「あの本になんて書いてあったっけ?」「この引用って本当に合ってる?」などと本を確認したくなるので、近所のホテルにしましょう。というかそもそも、そんなにギリギリを攻めないように計画的にやれよ、という話。本当に。特に困った部分を3つまとめました。

1-1. 序章書けない(提出2週間前~2日前)

問いの設定が最後までクリアにならず、序章を書いては消し書いては消しやっているうちに、だいぶ時間が経ってしまいました。

突破口になったのが、もう時間切れだ、後半の考察を書かなければと切り替えたこと。実は考察を書き始めたタイミングすらもはや3日前くらいからで、当然ながら内容は大変粗いものになりました。が、そこで言いたかったことが整理でき、提出当日の朝、書きかけだった序章を一気に修正してゴールできました。今思えば、序章とそれ以降の本文、考察のつながり、整合性を担保しようとしすぎた自分の性格が災いしたなと反省しています。少しの飛躍も許せずきっちりした文章を書きたがってしまった結果、にっちもさっちもいかなくなってしまった。

1-2. 題目決まらない(提出1日前)

題目が最後まで決まらず、提出1日前に、ホテルに向かう電車の中で泣きそうになりながら考えていました。ただこの段階ではもう、うんうん唸って0→1を生み出そうとしても無理だと思ったので、以下の方法でそれっぽい題目をパズルのように組み合わせることにしました。

1. 手元にあった各学会の論文集の題目を片っ端から見て、よさげなものをリストアップ
2. 修論の題目を公開している大学院のHPを探し同じ作業を行う(あまりなかったので断念)
3. ciniiの博論検索(緑のやつ)で自分の研究キーワードを打ち込み、同じ作業をするとともに、題目の相場観を知る(どんな切り口があるか、どこまで具体的にすべきかなど)

※放送大学の論文集、題目一覧もあるのですが、みんな分野が違いすぎてほぼ役に立たないので、その他の方法で探した方が良いです。

最後にちゃんと研究している大学院で修論を書いている友達に題目案を見てもらって、変じゃないか確認を取ったうえで、進めることにしました。

1-3. 終章も要旨も書けていない(提出当日!)

提出日の朝が来ました。えっ。全然書けてない。先に終章に手を付けることとし、各章の書き出しと小括をちょこちょこまとめて、なんとか「らしきもの」ができました。本論文の限界と今後の課題とか、とても大事な場所だと思うのですが勢いで書いてしまいました。ただ課題については、他の部分を書きながら「ここができなかったな、甘かったな」ということが頭に浮かんでいたので、それを文字にするだけで済んで、命拾いしました。

終章が書き終わった時点で、その内容をかいつまんで要旨を作ったのですが、着手したのが当日13時から(元々決まっていた仕事の打ち合わせがここで挟まった。瀕死)。ほぼノンストップで手を動かし、読み返しもほぼ行えていないので、かなり中途半端なものになってしまいました。要旨は初めて論文を読む人がまず目を通す部分なので、もっと時間をかけて書くべきだった。全体を通して一番悔しいところです。

最後に本文と文献リストに載った文献との突き合せを行い、「本文で挙げている文献なのにリストに載っていないものはないか」「逆にリストに載せていたのに本文で使われていない文献はないか」だけを確認して作業を終えました(著者名、文献名は正しいと信じることにしました。欧文リストの体裁が揃っていないのもちらっと見えましたが、それももう無理でした。)

1-4. 印刷、製本、提出(提出日午後)

当日消印有効だったのですが、「まあ、さすがにギリギリまでは粘らないだろう」と近所の郵便局(16時まで)に出しに行く算段でした。甘かった。普通に間に合わない。近くで一番大きな郵便局の【営業時間】と【そこまでの交通手段】を調べておくべきでした。

あと、コンビニで印刷する人も注意です。紙がなくなります。すぐに替えてくれないコンビニもあります。私は2部目を印刷しているときに紙切れが起きて、たまたま優しい店員さんが急いでセットしてくれたのでよかったですが、2、3箇所、印刷できるところが近所にないと辛いです。

確か15時頃に印刷をはじめ、製本し、すべてのページが存在することだけを確認して(図表の解像度が粗いことに気づいたものの、もう時間がないし気力もなく直せなかった)17時過ぎに車で郵便局に向かい、なんとか提出。

もちろん封筒など用意する暇はなく、ファイル2部を抱えて「これが!入る大きさの封筒!あと簡易書留!今すぐ!」みたいなすごい危ないお客さんになってしまったのですが、郵便局のお兄さんがちゃんとした封筒を用意してくれて、しっかり封もしてくれました。現物だけ持ってあとは手ぶらで行っても、なんとかなります。

出した後に「ビクトリィ~~~~~~~~~~~~!!!!!」と叫び、そのままご飯を食べに行きました。すごく眠かったはずが、出し終わった瞬間に食欲がわいて、食べ物がおいしく感じた。

その後、先生やTAさんになんとか提出したことの報告メールをしました。

2. 提出~口頭試問

口頭試問の準備を……と思いながら、全然身体が動きませんでした。まず溜まりに溜まった仕事をやらないといけない。眠気もすごい。1日10時間眠れる。そして「あんなひどいもの見返したくない」という気持ちとの闘い。もっとできたんじゃないか、自分はサボってしまったのではないか、という気持ちもわいてきて、1週間はファイルを開けませんでした。

お正月休みに差し掛かったくらいから、重い腰をあげてのろのろと準備をはじめました。先生からアドバイスをいただいていたのは、「結局この論文の本質は何なのか、最も言いたかったのは何だったのか明らかにしておく」ということ。1週間近く離れたことで、逆に近眼的だった視点がリセットされて、自分の研究を相対化できるようになりました。

私は昨年「先輩の口頭試問を見学させてください」などとお願いできない(そんな発想なかった。あと幕張まで行くのが遠い)ダメ学生だったので、口頭試問に向けて以下のサイトを参考に対策しました。

用意したのは、10分程度のプレゼン資料。論文の内容を説明するというよりは、どの章をどんな意図をもって書いたのか、なぜその部分を厚く書いたのか、その順番で構成した理由など、「論文に書くのはヤボだけど狙ってやったこと」、つまり「舞台裏の説明」を中心に話すことにしました。

あとは論文のなかで核になる言葉の定義をはっきりさせるとともに、参考文献リストをざっと見返して、どの本になにが書いてあったか思い出して臨みました(想定質問とか用意しようと思いながらも、サボり癖がついていて手が動かず、無理でした…)。

3.  口頭試問

今年はこういう状況なのでZoomで実施。仕事もほぼリモートなので、特に気になりませんでした。むしろ資料を読みつつの発表でも対面と比べて違和感ないという点で、私にとってはありがたい変更でした。

発表は資料を使って10分でつつがなく終了。まずは無事に提出できたことに労いの言葉をいただきました。

3-1. 質問&フィードバック

質問とフィードバックについては意地悪なものはなく、論文で扱った内容への質問というより、「そこから漏れていたが重要なテーマについて突っ込まれた」という印象です。

(1)今回の研究結果(作ろうとした分析枠組み)は日本の政党政治にも適用できるか。

→他の人の口頭試問を聞いていた人は「聞きなれた質問だな~」と感じるかと思います。海外事例を扱う場合は、考えておくべき問いです。私はぼんやりしていたので準備できておらず、もにゃもにゃ言ってしまいました。

(2)今回の研究結果と「カリスマ」の問題との関連をどう考えているか。注:私が扱った政党組織論の中では「カリスマ」の問題は重要なテーマの一つ。

→論文には書かなかったものの、なんとなく横目で見ていたテーマではあったので、なんとか答えられました。

領域にも論文の内容にも、先生の好みにもよると思いますが、口頭試問への準備をする方の参考になれば幸いです。

続いて副査の先生からコメント。

(3)制度論への挑戦にもなり面白く読んだ。自分で論文の限界もわきまえているので良い。
(4)事例を取り上げず、理論研究のみで終わらせた方がよかったのではないか。これから事例研究をする際は、なぜその事例を取り上げたのかしっかり説明できるように(いくつかお薦めの本を紹介いただく)

→事例研究のお作法を踏まえずに事例を扱ってしまったことは自分でも気になっていたので、まさにその通りと思いました。

3.2 まとめ~書き終わったときに「ドラマ」が見える

副査の先生から「なぜ政党組織論の話とマーケティングの話がつながったのか。きっかけがあれば教えてほしい」と質問がありました。これは自分のアイデンティティがその両方にあった(学問的には政党研究というバックグラウンドをもって、仕事として企業という組織について考える環境にいた)ことが大きいのだと思います。その点がユニークだと思ってもらえたのなら、とてもラッキーでした。

主査の先生は「政治学の王道を知らないからこそ、面白いものが書けたということでしょうね。勉強しすぎるとつまらなくなることもある」とおっしゃっていましたが、まさに私が狙っていたのも、「王道をいっている院生、研究者では見えないなにかを見つけて、勢いで書く」という戦略だったので、一応意図したかたちになってよかったです。破天荒かもしれない発想を尊重して下さり、形になるように導いてくれた先生に、本当に感謝しています。私の場合は論文のタネの段階で「なにがなんでもこれで書く!」というほど強い意志を持てていたわけではなく、おそるおそる、という感じだったので「そんな発想では論文にならない」と言われたら、「ですよね…」とあっさり引き下がって、そのタネはお蔵入りしていたと思います。ただし研究者養成の大学院である場合、興味関心だけで突っ走ることが必ずしも良いとは言えないのかもしれませんが……。

さて「論文の執筆・提出には必ずドラマがある」と大きく構えてしまいましたが、なにがドラマだったかを発見していくのは、書いてからしばらく経ったときになるのではないかと考えています。提出前のドタバタも本人にとっては十分ドラマですが、「あの時あの本に出会っていたことが、私をここまで連れてきてくれたんだな」とか、「ここが研究の分かれ道だったんだな」とかとか、これから気づいていくことがたくさんあるのでしょう。あるといいな。

いったん手を動かすパートはこれで終わり、あとは審査結果を待つことになります。同時に、論文執筆体験記ばかり書いていないで、内容そのものを発信できるかたちに整えたいな、とも思っています(ああまた身体が重くて動かない……)。

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