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「シスター・キャリー」を読んで(2)。才能だけでは成功しない。120年前の女優から学ぶ夢の叶え方。

前回は、あまりの衝撃にハーストウッドに注目しすぎてしまった。

しかし、「シスター・キャリー」の主役は、キャリーである。作者はキャリーに大事なことを託したはずだ。

そこでもう一度、キャリーについて「その性格と成功法の関係」の視点から、読み直したいと思う。

付け足しておきたいのは、この記事を書いている私は「何者にもなれなかった」方の人間である。成功者の努力や感情は、推し量れない。あくまでも、キャリーの場合と思って欲しい。


前半は、表現者キャリーの特徴。後半は、成功法が書いてあります。



キャリーの背景

可愛い田舎の娘が都会に出できて目覚める。

キャリーは、片田舎から出てきた娘である。当時、階級の差は貧富の差、そしてそれは教育の差でもあった。キャリーは、知性があまりない立場として描かれている。

大都会に出てきたキャリーは、そのキラキラに魅了される。ここには、富も、服飾も、逸楽もある。羨望の炎がキャリーの心の中でメラメラと燃え上がる。

なによりキャリーは、モテる。彼女に惚れた男性は、サポートすることを申し出てくる(下心で)。


キャリーの性格

感覚的でセンス重視。欲しいものは欲しい。

姉が考えるキャリーの性格は以下。ちなみに姉は堅実で質素に生活をしている。

生まれつき、私利を図ることには万事引っ込み思案で、力やかねがない場合にはとくにそうであるくせに、快楽を求めることにかけてはとてもしぶとく、それがこの子の性質の変わらぬ特徴と言えるほどだ。ほかのことについては黙っていても、遊びに行くためなら黙っていない。

「シスター・キャリー」上巻.p65.

お姉ちゃん、さすが見抜いている。キャリーの<のし上がり方>には、緩急がある。私利がなく引っ込み思案である故の「緩さ」で流されがちであるのだが、ここぞというタイミングで「急に」大胆になり上手いことステップアップするのだ。流されつつも、欲望はしぶとく消えることはない。

キャリーにはもう一つ、秀でた特徴がある。

キャリーは愚かであり、それゆえに、その愚かさの点においてヒツジにも似て、勘は鋭かった。

上巻.p125

この勘が、キャリーを恋の盲目にしなかったのである。初めは舞い上がっても、しばらくすると落ち着いて、相手の人柄や弱点を冷静に見定め、男が自分の窮地を語らなくてもキャリーは察しが付いている。キャリーの想像力や感受性は、男たちを上回っている。


キャリーの才能

世界は表現されたがっている。天才とは。

たまに登場するエイムズは、階級も高く、芸術に造詣の深い青年である。キャリーは、彼に密かに憧れているのだが、そのエイムズが、キャリーの才能について語り始める(半分、自分に酔っている)。キャリーは、ゾクゾクする。

要約すると、
あなたの顔の表情は、歌や絵画のように人の心を深く動かす。それこそ、人々が触れたいと思っているものなんですよ。

「世界はみずからを表現しようとしていつももがき苦しんでいるのです。たいていの人々は、自分の感じていることを言いあらわす能力を持ち合わせていません。ほかの人を頼りとするのです。天才とはそのためにこそいる。(中略)」
ーー
「そのためにあなたは、義務を果たさなければならないという重荷を負うことになるんです。こういう素質を授かるのも偶然でしかありません。あなたの手柄になるものではない─つまり、ぼくの言いたいのは、それがあなたになくてもおかしくなかったということです。それを手に入れるために、苦労一つしたわけではないでしょう。でもそれがそなわっている以上、その顔を活かすようなことをしなければいけないのですよ」

下巻.p424-425

こんなにも褒められたキャリーは、ちょっとその気になる。本格的な演劇へ進もうかしら。

だが、キャリーは何もしなかった─哀愁にふけるだけ。あの、より高尚な仕事までの道のりは長い─外から見た目にはそうだ─それにいまの暮らしに不自由は何一つない。

下巻.p427

こうゆう所が、ザ・キャリー。事物以外の欲望ために頑張るなんてことはしないのだ。


キャリーは、なぜ成功できたのか?

私が、考えたのは四つ。

  1. 才能

  2. 適応力

  3. 見極め力

  4. 運・不運


1.才能

生来の美貌と演技力がキャリーの才能だろう。それらを下支えし、輝かせているのは、豊かな感受性と優しさ、そしてギャップである。

キャリーは、俳優の仕事を自力で獲得している。男には頼っていない。

2.適応力

この辺りから、性格が関わってくる。適応力は二つの要素に分けられる。

  • 素直さ

  • 忘却力

キャリーは素直である。自分の欲望に忠実で、隠し立てもしない。また、人の提案もけっこうすんなり受け入れる。こうあらねばが、ほとんどない。強く自己主張もしないが、必要以上に、無理もしない。

また、忘却力もあり、しばらくすると記憶や考えも薄っすらする。違和感を持っても、いつのまにか馴染んでいる。あの辛かった日々やハーストウッドのことさえ、段々忘れる。

この二つの要素のおかげで、色んな意味で足が引っ張られないのだ。

3.見極め力

冒頭でも触れたが、キャリーの勘はきれる。言語化はできないが、感覚で分かっている。今、様子を見るべき時か、動くべき時か、判断力にほぼ間違えはない。自分の才能とその限界にも、目が曇ることはない。

4.運・不運

才能があるだけでも、相当、運がいい。しかし、男運はけっこう悪い。ちょいちょい押しに弱く流される。良く言えば情に厚く、悪く言えば欲望に負ける。男を利用してなくもないが、騙されがちなところもある。

そんなキャリーだが、不運につぶされたりしない。楽しみを見つけて気分転換するか、いよいよとなると急にアクセルがかかってモードチェンジするのだ。自力でなんとかする根性はすごい。不運を転機に変える。


私達にも応用できること

潮の流れに乗ること|方向を間違えない

キャリーから学べるのは、自分の向かいたい方向に流れている潮に、思い切って身体を浮かべてみるということだ。目的とは違う水に浸っていても、そちらには流れてくれない。

成功の定義はまちまち|自分サイズで

才能は、個人差がある。だが、流れをつかんで乗ることが出来ていれば、いつかはきっと、目標に辿り着く。成功の度合いは、人それぞれ才能の大きさによるが、小さくても自分に合っていれば、けっこう感じがいいものだ。

緩く、時に急ぐ|健康第一

そして何よりのコツは、「緩急」である。ずっと頑張り続けても、怠けていても、流れに乗り続けることはできない。運・不運もあるので、力まずに様子を見て、心身の健康を大切に。場合によっては、別の流れに移る判断も大切かもしれない。

自分の欲しいものを信じる│しぶとく

自分の欲しいものは、他人から見れば無価値だったり、無謀で不道徳なものかもしれない。でも、自分の感覚や感情を信じてみよう。しぶとく粘り強く、前に進もう。


最後に|全てなはずはない

小説の中で、独りで揺り椅子に座って幸福を夢見るキャリーが描かれる場面がある。心は満たされることもなく、飽くこともない。

でも作者が、キャリーを否定している感じはしない。きっと、成功がすべてではないし幸福がすべてでもない、と言いたいのではないかと思っている。


ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

「シスター・キャリー」は、色んな角度(男女の心のすれ違いやお父さんの悲しみとか…)から楽しめます。1章ごとに、朝ドラ的に毎日15分ずつ読むのが、おススメの読書法です。

「シスター・キャリー」の海外本の装丁が可愛いので、貼っておきます。

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