【毎日が400字】つまらないことが思い出になる
「あららららぁ」。
庭先で母が愛犬ゴンのお腹を見て言った。
私が年長のときに父が拾ってきた雑種のゴンは、全くもって愛想がない犬だったが、ご飯をくれる母には一番なついていた。
そんなゴンのお腹に、直径3センチ程の大きなオデキが突如現れた。
毛の少ないお腹の色と同じ淡いピンク色をしている。
触ろうとすると、ウゥーっと低い声で威嚇してきた。
「ずっと舐めてる」。
心配そうに姉が言う。
「痛みを和らげてるのかしら」。
母も顔を曇らせた。
3日たってもそのオデキはきれいなピンク色を保っていた。
「ちょっと薬でも」。
当時、私たち姉妹の傷に多用していた赤チンの出番だ。
昼寝をしているゴンのお腹に綿棒でそっと赤チンを塗る母。
「硬い」。
小さな声で呟く。
ゴンが薄目を開けた。
突然、そんなゴンの頭を手で押さえた母。
もう片方の手にはハサミを握りしめている。
ウウウゥゥゥーー。
ゴンも目いっぱい威嚇し、体をうねらせ、押さえられている顔を左右に激しく振って抵抗をした。
そんな中、
チョキン、コロコロコロッ。
腫瘍が取れたのか?
出血は?
そもそも、この処置は合ってるのか?
薄いお腹の毛が空中を舞う。
スモモ味。
夏休みのラジオ体操で、ご褒美のお菓子セットをもらった姉だったが、食べたスモモの飴玉が口に合わず、プッと吐き出したそうだ。
それが、どうやってゴンのお腹に付いたかは謎だが、一日一食のゴンにとって、突如自分のお腹に甘くて美味しい飴玉が現れたことは、これ幸いだったに違いない。
姉はこっぴどく母に叱られたが、おかげでゴンはスモモ味を堪能できた。
そんな姉は「曲名がわからない」といい、レジの店員さんの前で1番をフルに歌い上げ、無事に「いつまでも変わらぬ愛を」のCDを購入した。
この曲を耳にすると、この一連の出来事が思い出される。
あれから約40年が経つ。
日常のどこのどういう部分が切り取られて、思い出として残るのか。
40年もの時間があったのだ。
「もっと他にないものかねぇ」と、我ながら乏しい思い出のラインナップに困惑するも、
他の思い出もこれと大差なことに気づき、「まぁこんなもん」と開き直る。
だからなのか?
では、こんな感じで明日もよろしくお願いいたします。
おかず、増えます。