忘れ得ぬ人 故郷愛の男編
私はなんであんないい人を振ってしまったのだろうと思うことが度々ある。こんなちんちくりんが。(考察しながら書き起こしていきます)
イケメンだのなんだのと言っていても こちらに害がなければもはやなんでもいい。目の保養だとか、言うのはタダ!とか、そんな話をした忘年会…女子会なんてとんでもない。婦人会と言っているよ。わきまえるよ。
肉体関係だけが愛の証だと思っていた時期…言葉に出さないと証明されない愛情表現の幼さ。若さとは、未熟なんじゃなくて未経験なだけ。と夏木マリが何かで言っていたけど、確かにそう。恋愛も経験を重ねて、色んなケースがあるなぁ…と。
冬空の空気にあたると、ふと思い出すのは昔付き合っていた人。女装をしたら私より女っぽいのではないかというくらい端正な顔立ちで、スタイルが良くて。東北訛りが残った素朴な青年だった。私には勿体ないくらい非の打ち所がない人だ。
同い年の彼は、地元には働き口もないので就職をきっかけに東京に出てきた。工業高校出で、割と奥手なタイプだとは思っていたけど、振り返ると女慣れしていないというのか、なかなかのスローペースだった。
彼はEDだった。私もその頃はまだ恋愛経験も浅かったし、知識も探究心も今ほどでもなく。EDはおじいさんがなる、というかなり間違った知識しか無かった。
初めて知った時、やはりそれに突入する(突入される)時だった。おちんちんはその時になったら硬いもの。というこれまでの常識が常識では無かった。彼が何度もトライする。
彼は、やっぱダメだった…。大丈夫だと思ったのに…と気を落として申し訳なさそうに言った。初めてそれを聞いて、私は意外と平気だった。「私に魅力がないから?」なんていうことも思わず。それより彼が可哀想に思えた。
「抱きたいんだよ。すごく」
「○○ちゃんのこと、すごく好きなんだよ。」
天井を見つめながら、汗をかいたお互いの体をさすりながら寝付くまで話していた。痛いほど伝わった。悔しさも。すんなりと、頭では理解出来た。
挿れなくてもいいんじゃない?なんて理解ある彼女アピールしてみたけど、少しの間は確かにモヤモヤしていた。でも驚くことにわりとすぐに慣れてとりあえず火がついたら流れに任せてみよう。というスタンスでいられた。
一度だけ、突破できた時には最中にバンザイして喜んだこともあったなぁ。挿入だけが全てじゃないのを初めて教えてくれた人だ。
つまらない駆け引きも必要なくて、会う時は堰を切ったように思いが溢れていた。おっとりと優しい彼だから、ゆっくりと時間が流れ日々の疲れを癒す時間でもあった。(突破できるできないに関わらず。)
最終的には、酔った彼が元カノの名前を呼んだだけでパスーンと冷めてしまった。時間差で自分の冷酷さにも驚いた。あのころは今よりさらに自分本位で幼稚で、なかなか会えないことにも限界が来ていたこともあって…私にも、上司に付き合って呑みと聞くとプンプンする可愛い時があったのだ。と、友人に話す時はこんな感じで。
友人に言えない、言いにくくて言えてない部分は、元カノの名前を間違えて呼んだことなんかじゃなく、きっかけはなんだって良かったのではないかと思える。
そのころの私はすごく重い女だったはずなのに、彼はそのうえを行く粘りを見せてはつなぎ止めてくれていた。諦めるよう、嫌いになるように試して試して試しても、違うんだよ。そうじゃないよ。と優しく熱を込めて諭してくれてた。
地元の話をしている時の彼は生き生きとしていて、思い出話も情景が思い浮かぶよう。初めは田舎の雪国の話は私も興味津々、でもだんだんと地元の話をしている時とそのほかの時との差がありすぎることに気づく。
嗚呼、この人はずっと一緒にはいられないのかもしれない。と思うようになってきていた。
次第に地元と東京を比較して話すことが目立ってくると、ホームシックになっているだけだと言い聞かせた。けど、だんだん心ここに在らずな彼と対峙するのが耐えられなくなっていた。別に結婚に焦っていたわけでもなくてシンプルに、解き放ってあげたいとだけ思った。仕事の愚痴も増え、もし仕事を辞めたら…なんて話になってくるといよいよ東京にしがみつくものがなくなる。私だけの繋がりになる。あんなに地元を愛しているのに、私に時間を取られて可哀想だと思った。
正月休みで地元に帰省するね。そう言って休み明けに久々に会った彼は、都会に染まった部分を全部洗い流したようにすっかり顔色もよくリセットされていた。
帰省中に地元の友達と飲み会をしている時に電話をくれた、その時に名前を呼び間違えられたのだ。一回の通話の中で一度じゃなかった。三度目で私は電話を切った。帰省中も電話をくれた嬉しさと、楽しそうにしながら、ながらで酔いながら話してる面倒な感じと、名前を間違えられたショックと。
2人の関係でネガティブになってよぎるのは、絶対にEDが原因だとは思われたくなくて。逆に私が。本当に本当に違うから。だから、ここぞとばかりに伺っていたんだと思う。…私は酷いよ。
「ユキ、って呼んだでしょ!」
「え、俺そんなこと言った?」「なんでだろう、ごめん。本当にごめん。悪かったよ。」
最後のメールは覚えている。
でも年月がたって、あんなに好きだった彼の訛りを忘れてしまった。
鼻の先が冷たくなる季節になると、彼が自分のジャケットのポッケに私の手を入れてくれてぎゅっと手を繋いでいてくれた。私の冷たい手を遊んでる親指で摩ってくれる。
穏やかな彼は私がふらっと道路側によろけると凄く怒ってポジションチェンジする。
初めてネックウォーマーを手作りして渡したら、こんな洒落たもん貰ったことない。とクシャクシャの笑顔を見せて喜んでくれた。
顔を今思い出した。好きだったな。
飾らなくて素直で、こんな私を好きでいてくれてた。
今頃元気にしているだろうか。
彼には絶対に幸せでいて欲しい。
あとがき
こうして書くと本当に整理できた気がする。
公開したあと少し切なくて寝付けなかったけど、お焚き上げ感覚ですうっと軽くなった。
付き合ってる彼女を置いて、あんたは現地妻だったんじゃね?という友人の言葉は無視しますよ。
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