マルコ・シェリー

短い物語を投稿しています。

マルコ・シェリー

短い物語を投稿しています。

最近の記事

[短編]芸術娯楽大臣 SST906

 私は元国王である。  厳密には私が現役の頃、この国は民主主義だったから、国王ではないのだが……。  3年前までこの国には王政制度はなく、18歳以上の国民は選挙権を持っていたし、野党と与党が存在した。  私は与党の党首だった。私は党首として、ある政策を発表した。まさか自分の地位を失い、国の政治の体制を大きく変えてしまうとは知らずに。  支配。それは恐ろしいものだ。大体の場合、支配されていることにすら気がつかない。もちろん、王政が支配だと言うつもりはないが......。  政権

    • [短編小説]水上のエメラルドグリーン

      ☆ 満員電車の流れに揺られる。 スーツを着た、もはや生きる歓びを忘れてしまった人間たちに囲まれながら、社会人1年目である僕も同じようにスーツを身にまとう。 電車が揺れるたび、群衆に押し潰されそうになる。 僕はその度に歯を食いしばり、胸の中に火を灯す。 「こんな事をするために生まれてきたんじゃない」 そう心の中で叫びながら。 胸の内でメラメラと燃え盛る炎は火の粉を撒き散らし、やがて暗闇を照らしていく。辺りは次第に光を取り戻し、昼間の南国の砂浜のような景色が姿を現す。波風が心地よ

      • [短編小説] Happier

        仲の良い友人について思いを巡らせる。 「こいつのためやったら何でも出来るわ」 そう思えるような人と、人生であと何回出会えて、どれくらいの時間を共に過ごせるのだろう。 ダラダラと刺激の足りない大学生活を続けていた1回生の秋、僕は新しい必修のクラスで後に大親友となるKと出会った。これ以降Kのことは蜜蜂と呼ぶことにする。 蜜蜂と関わり合うようになったきっかけは曖昧だけど、僕は当時下宿をしていた彼の家に連日通うようになった。 エドシーランとスティーブジョブズが好きだった僕たちはすぐ

        • [短編小説]雪山の龍くんとショーシャンクの空に

          当たり前のことが、当たり前にできない環境にいると、自分の大切なものが見えてくるものだ。 ー遡ること2年前ー 大学一回生だった僕は秋学期の長期休みを利用してリゾートバイトに行くことにした。 リゾートバイトとは住み込みのバイトのことで、宿泊代や食費などは一切かからず、1ヶ月で20〜30万円ほど稼げる!といった夢のようなバイト。 のはずだった。 僕が住み込みで選んだ場所はスキー場の旅館。旅館といっても、小学生や中学生がスキー実習で利用するお手頃な宿泊所だ。 僕は二ヶ月間その旅館、い

        [短編]芸術娯楽大臣 SST906

          [短編小説]満たされない症候群

          どうすれば満たされるのだろう。充分わかっているつもりでも体が頭と同じように反応してくれるとは限らない。 僕は大学を卒業後、東京に出てきてとある大手企業に就職することができ、現在も細々とその仕事を続けている。上京して3年目。収入も貯金も不満がない程度になってきた頃だ。 信号が青に変わり車を走らせた。今は付き合って2年になる彼女の家に向かう途中だ。ラジオからは流行りのJPOPが流れている。この頃はお笑いも、音楽も、映画も、分かりやすい、僕の言葉で表現すると「ちゃっちい」もので

          [短編小説]満たされない症候群