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LFO文学賞とは?

LFO文学賞。

小説家、あるいは小説家を目指すものなら、一度は耳にしたことがあるだろう。なぜならそれは遥か彼方の銀河系に存在するという、幻にして究極の文学賞だからだ。

創設時期、運営する団体、候補作の基準、審査方法、受賞タイミングなど、一切の詳細がなぞに包まれている。あらゆる時代、あらゆる言語の文献に、その存在が記されているにも関わらずだ。

この賞は架空のおとぎ話なのではないか。そう囁く声を、そこかしこで耳にする。賞の存在そのものを否定する者さえ現れるありさまだ。これが草花や動物と対話する術さえ失った愚かなる人類たちの、あわれな末路ということなのか。

しかし我々ソニックパルスフィクションは、LFO文学賞の存在を信じて疑わなかった。


LFO。

その文字列からは魂の、あるいは大銀河宇宙的規模の、絶大にして屈強なる意志が感じられることは明らかに明白な事実であることが確実である。


そして我々は、本格的に調査を開始した。

ある時は前人未踏のジャングルに、ある時は海底2万マイルに、ある時は未知なる惑星アスパラガスに、調査団を送り込んだ。当然のことながら、それは安全安心なツアーパッケージ旅行とはちがう。危険で野蛮な冒険の旅だ。それゆえに多大な犠牲も払った。ある調査員は足の薬指の爪が……われた。かなり深く、われた。だが我々は進んだ。立ち止まるわけにはいかなかった。


……。

月日は流れ、調査開始から8年が経過した。

希望と絶望が、入れ替わり立ち替わりに姿を見せた。昇っては沈む太陽のように。欠けては満ちる月のように。延々と回り続けるレコードのように。

そして我々は……ついに成し遂げた。

とある密林の滝つぼにて、調査団はひとりの男と邂逅を果たした。男は上裸だった。異様なふんいきをまとっていた。

その男こそLFO文学賞受賞作家、タカダ=サカナ氏だったのだ。

タカダ氏は寡黙にして多くを語らない人物であった。まるで偉大にして巨大な神々による壮大な戦を目撃した若者が人類と自らの矮小さに打ちのめされたすえ滝つぼでひとり孤独に暮らすようになりやがて長い年を経て口数の少ない賢者へと変貌したかのようだ。

口の重いタカダ氏に対し、調査団の聞き取り調査は難航した。それでも文明社会で培われた手八丁口八丁を駆使し、どうにか本人の口からLFO文学賞の存在を確認することに成功したのだ。これは歴史的にして宇宙的な快挙である。

我々は多くの守秘義務を課せられた。しかしごく一部の情報に関しては、ここで公開する許可を得た。それが後述する歴代受賞作品と、その著者のプロフィールだ。


歴代の受賞作品と作家プロフィール

【第一回受賞作品】

「夜と筋肉」大連寺百拳 著

大連寺百拳(だいれんじひゃっけん):1974年熊本生まれ。古流拳法・冥途流の師範にしてフィクション作家。決闘罪により服役していた最中に創作活動を始める。断固とした筋肉的文体と南米風のマジックリアリズム、そして飛びだす絵本の技術を融合した独自の作風で知られる。妻であるイラストレーター堀みゆきとの共作にて絵本作家としても活動する。代表作には「霧の中の筋肉」「伝奇大胸筋」「ねぇママ、きんにくひろったよ」など。


【第2回受賞作品】

「星の数ほど星がある」ウォルタ・ギャロ 著

ウォルタ・ギャロ(うぉるた・ぎゃろ):1873〜1956年。イングランド生まれ。新聞記者として働くかたわら、長編の執筆にも意欲を注ぐ。やがて時間の確保が困難となった結果、タイトル以外はなにも書かないという究極のミニマル小説スタイルを確立。無限の行間を読者自身に埋めさせる唯一無二の作家となる。その作風ゆえ当然のごとく速筆であり、多作家。代表作は「汝の右手は左手にあらず」「つつけば割れる泡」「4ページ33行の空白」など、他多数。


【第3回受賞作品】

「m字売りお乃世界」ユイ・アラビスタ 著    

ユイ・アラビスタ(ゆい・あらびすた):2024年東京生まれ。作家、ユーチューバー、VJ、コンテンポラリーダンサーなど、多方面で活躍する若手アーティスト。大学受験浪人中にネット上でデビュー作を執筆。ごく一部のSNSで話題となる。誤字脱字を恐れない即興的な文体が特徴。受賞作のタイトルは「水色の世界」とタイピングしようとした結果である。さわやかな少年少女の物語を得意としており、著作には「まろぼしのシャにボn玉」「すpっピーカーをONに背よ!」などがある。


このように、受賞順と作家の活動期間が一致していないことから、LFO文学賞は時間的概念にとらわれない賞であることが明らかだ。これはたいへんに宇宙的であり興味深い事実であるといえよう。

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タカダ=サカナ氏により開示が許可された情報は、残念ながらここまでだ。現在のところ、タカダ氏本人のプロフィールすらも明かすことを許されていない。だが我々は調査を進めるとともに、タカダ氏との交渉も継続中である。やがて機が熟せば、LFO文学賞にまつわるすべての情報が白日の下にさらされることになるだろう。

そしてその瞬間が訪れるまで、我々ソニックパルスフィクションの戦いは続くのである。


※Photo by Jaredd Craig on Unsplash

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