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岡基機動のおすすめSF漫画!!

今やご存知の方も多いだろうが、いちおう紹介しておこう。

岡基機動(おかもときどう)とは、1976年生まれ、北海道出身のSF漫画家である。1998年に短編『マシンハザード』で「たかださかな漫画賞」の準大賞を受賞すると、翌1999年には「月刊ポリバケツ」にて長編『マシンハザード』の連載を開始した。

岡基作品の特徴といえば、何といってもその世界設定だろう。重厚なSFでありながら、台詞や言葉による説明が極端に少ないのだ(作品によってはたったの一文字も書かれない)。こちらの想像力に挑戦してくるようなその悪魔的スタイルに、読者は知らず知らずのうちに捕らわれてしまう。岡基機動とは、そのような恐るべきシステムを採用している漫画家なのである。

本コラムでは、そんな岡基機動の作品群から、2作のおススメを選び出してみた。どちらも一筋縄ではいかないマンガなので、ぜひ挑戦してみてほしい。



原点にして頂点の大傑作『マシンハザード』

岡基機動のデビュー作。科学暴走の果てに機械生命体と化した地球、そして地球の『抗体』から悪性と見なされ駆除されつつある人類との戦いを描いたハードコアSFだ。とことんまで淡白な描写であり、コマがひとつ進むたび数十年から数百年の時間が流れるという恐るべきスピード感を備えた伝説の超大傑作である。

作品の舞台となる地球は、周囲の惑星や衛星を捕食して際限なく肥大化し続けている。そんな地球上を旅しているのが、この物語の主人公である『有機性工業製品体』のアォ島だ。アォ島は『抗体』の脅威にさらされる人類を見守り続け、時には機械の体を駆使して『抗体』と戦闘することも辞さない。

主人公アォ島の目的はなんなのか、そして『有機性工業製品体』とはどのような存在なのか。それについて作品内で説明されることは最後までない。というよりも、ここまでの情報はあくまで描かれている風景や登場人物の描写などから読者が導き出した仮説のひとつに過ぎず、決して本編で明言されたり公式に発表された設定ではない。なにせ一コマで数百年も時間が流れているのだから、要求される読解力も並大抵ではない。読者によっては読み返すたびに解釈が180度変わってしまうほどだ。特にクライマックスにおける主人公アォ島と宿敵キ山の3ページ(作品内時間にして300000年以上)にも及ぶ決闘シーンの勝敗については、未だにファンの間で意見が割れている。

このように、岡基作品に欠かせない「狂的なまでのスピード感」および「意図的な説明不足」という2大特徴は、初連載である本作においてもっとも顕著に表れているのではないだろうか。



これぞ王道!? 大人気連載中『リルルクリの塔』

月刊アダマンタイトで現在連載中の、岡基機動最新作。30世紀の未来世界にて、少女ザザと少年ゲゲの二人が『リルルクリの塔』と呼ばれる旧文明の超高層遺構でくりひろげるSFアクション冒険物語だ。持ち前の破壊的スピード感と説明不足はそのままに、岡基本人曰く「担当編集者の要望でラブコメやら少年漫画的バトル要素やらを存分にとりいれた」という意欲作なのである。

連会開始当初こそ、その作風の変化に読者は困惑した。ポップさをとりいれた反動で岡基に特有のピーキーさが失われたように思い、怒り悲しんだファンも多かったことだろう。だが連載が進むにすれ、そのような心配は杞憂だということに、誰もが気がついていったのだ。

読者の度肝を抜いたのは第4話目でのこと。この回の扉絵に、ハヴァという非常に可愛らしい新ヒロインと、彼女のかなり詳細なキャラクタープロフィールが描かれたのだ。

この時点で、愚かなる読者たちは「アッ。どうせこの新ヒロインが少年ゲゲを巡って少女ザザとラブコメるんでしょ。シッテルシッテル」などと早とちりしたに違いない。いや、それは早とちりではなく、予想の踏み込みが浅かったと表現するべきかもしれない。

その理由は、扉絵ページをめくれば一目瞭然だ。

なんとこの第4話の1コマ目で、新ヒロインのハヴァがいきなり死亡しているのである。しかもこの新ヒロインと主人公ふたりが出会ってから、相当の時間が経過しているような描写がされているのだ。これはどういうことか。

推察するに、どうやら第3話のラストからこの第4話の冒頭までのあいだ(つまりマンガとして描かれていない部分)に、次のようなできごとが発生していたようだ。


①主人公2人と新ヒロインが出会った
②長い時間をかけ親密かつ複雑なラブコメ関係を構築した
③やがて現れた敵に新ヒロインが殺害されてしまう



つまりこれは、尋常ではない物語のスピード感にヒロインさえもが追いつけていないという確固たる事実を証明している。ちなみにこの第4話では、その後も18人もの新ヒロインが登場する。そして全員死亡する。

岡基本人はこの展開について、棒雑誌インタビューでこう語っている。


「ぼくは『素粒子ハーレム加速発生機構』と呼んでいます。ようするに「可愛いヒロインをたくさん登場させてほしい」という編集担当者からの要望に応えた結果なんですよ。……えっ? 悪ふざけなんかじゃないですよ、失礼ですね。ぼくはいつでも真剣に漫画を描いているんですから」


なお続く5話でも独特の岡基節が炸裂している。主人公のひとり少年ゲゲは4話のラストから5話冒頭の間に3年間にもおよぶ修行をこなし、旅の目的であった両親の仇を激闘の末に惨殺しており、新たに現れた世界の脅威『ブザサフ卿』との戦いに挑んでいる。それが5話の冒頭だ。物語速度と並走できない半端者は、あっという間に退場することとなる。たとえそれが主人公の宿敵であっても、だ。

このように、常軌を逸した加速と物語のうねりを維持したまま、『リルルクリの塔』は現在も連載継続中である。


まとめ

いかがだっただろうか。きっとあなたは今すぐ本屋に走るかネット通販サイトに飛びこむことによって、彼の作品を購入しまくりたいという病的なまでの強い衝動にガンガン襲われているはずだ。ちなみにここで紹介した以外の作品も傑作ぞろいなので、ぜひ全作全巻購入してどっぷりと岡基機動ワールドに浸かってみてほしい。




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