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シェアリングエコノミーでの戦略広報ポジションペーパー

前回の記事「シェアリングエコノミーでの戦略PRを考える:(長いけど)まずは経緯の把握」にて、ポジションペーパーの性質とシェアリングエコノミー、とくに貸し会議室業界における課題点を、背景を含めて説明してみました。

その結果、以下の5つを課題として意見を表明しました。

1.貸し会議室会社による意見表明と団体組織化、保護の法律の必要性
2.人手不足解消策は「人を雇わなくてもいい」構造実現ではないのか?
3.現行の人材はアップデート価値が十分であるがその転向先は何か?
4.財務の上乗せとして現場で注力する事業を特定すべきではないか?
5.情報機関を設立し、ブランドコントロールにまで発展させたらどうか?

今回は、この意見についてさまざまな視点から考察していきたいと思います。

1.貸し会議室会社による意見表明と団体組織化、保護の法律の必要性

シェアリングエコノミーはその同名の団体設立で一定の発言力を得てきているように見えます。しかし、シェアリングエコノミーにおける貸し会議室については、基本的に40㎡以下の10人前後で行う会議室、という前提があり、わたしの所属する業界の規模と比較すると小さいのが正直なところです。小さいところが価格競争を引き起こしているわけで、その背景や影響については前の記事で触れましたが、大規模会議を扱う身としては分けて考える、あるいは明確なすみわけをユーザーに訴える必要がある、と感じています。

私の組織の立場から意見を述べるとすると、まず中規模の貸し会議室数社(小規模の会議室を保有し、これがシェアリングエコノミー協会の加盟事業者と競合する可能性がある、あるいはすでに始まっている会社)で団体を設立し、貸し会議室業界の代表的地位を築く必要を説きます。また、民泊の二毛作の対象として貸し会議室に転用していることを問題視し、とくに住宅として建てられた建物を会議室転用する規制を政府関係者に働きかけて法制化する動きを提案したいですね。

反対に小規模会議室を運営する事業者の視点からすると、中規模会議室企業からの反発の目は覚悟しておく必要があり、二毛作における価格競争化に対する具体的な対策案を作る必要性を説きます。とくに会議室の選定を値段だけで行う客が増加している点で、会議室それぞれのコンセプトを理解し、マナーと節度を持って取扱事業者と取引をするよう促すマナーアップキャンペーンなども必要です。これらの対応を怠ると、同居テナントや住民から苦情が相次ぎ、民泊新法の二の舞になってしまう危険性があります。団体としての自主規制の整備を急げ、と提案します。ファンドを活用してM&Aをすすめ、小規模会議室専業の事業者を中規模会議室を取り扱う事業者クラスに巨大化させ、各種圧力に対抗する地力をつけさせる提案もしたいですね。

2.人手不足解消策は「人を雇わなくてもいい」構造実現ではないのか?

受注業務の特性と離職の構図や、パートタイムに依存しなければ成立しない状況なのにたくさんの人が辞めていく状況、働き方改革前夜でパートタイムの不公平感の高まりなどなど状況を見ていくと、貸し会議室業における人手不足対策はどうすればいいのか?人手不足対策には、2つの選択肢があるといわれ、それぞれをひとことであらわすと「人を雇わなくてもいい構造」と「働く意義を充実させる構造改革」ということになります。貸し会議室の人手不足対策は、前者の「人を雇わなくてもいい構造」の導入にならざるをえないのではないか、と思います。

すでにある程度のステップが様式化できる仕事のワークフローは、AIを導入した高精度の提案システムを入れた方が相当数のステップを自動化できることは誰の目にも明らかではないか、と。お客さんにウエブ画面から条件・要望を細かく入力してもらうと、AIが過去の実績や経験から最適なスペース案を複数提示し、同時に見積書やレイアウト案なども表示させるシステムを作る、というものです。基本的な対応ステップの中で人間の対応はほぼなくなりますが、貸し会議室の要望は、どれも似たようでまったく別であり、千差万別。大枠の共通項はAIに任せ、それから漏れる細かい要望を臨機応変に人間が想像力をもって対応する組み合わせで業務をこなす未来を感じます。

*世の中の受注業務型の営業スタイルのところは、すべてこの「人を雇わなくてもいい構造」型で改革をすすめることができるようにも思います。

3.現行の人材はアップデート価値が十分であるがその転向先は何か?

経常利益率の話を前回の記事でしましたが、この上積みを狙うチーム作りに転用するのがいちばん自然な気がします。貸し会議室の付加価値としては、備品のレンタルや飲食の提供、さらには会議室の利用方法の提案によるイベント誘致という道が考えられます。これらを新規事業化したり、専業のチームを作って活動することで、提案型事業あるいは提案営業の素地を作り、収益化していくことでしょう。たとえば貸し会議室大手のTKPは、備品のレンタル事業も並行して行っています。会議室の会場設営面を受託する事業を行っている会社もあります。懇親会の料飲事業に特化した部署を設けて対応する会社もありますね。それぞれですでに活動しているものがありますが、今から追いかけても十分に差別化が可能なものばかりです。

4.財務の上乗せとして現場で注力する事業を特定すべきではないか?

財務面では経常利益率を高め、稼働率を高める工夫が必要になりますが、ひとつは料金体系を柔軟なものにできるか、というハードルでしょうか。旅行業のホテルの予約のように、季節変動や繁忙時期に応じて価格を上げ下げする料金システムの導入などは、意外と会議室業界は採用していないものです。単純に期間限定割引キャンペーンを行っても、イベントは年間いつやるか決まってる顧客ばかりで、閑散期は徹底的に閑散期なのです。そこで値引きをやっても値引きの印象だけが残り、価格競争の仲間入りになってしまいます。旅行業界ではすでにこの導入のメリットデメリットの研究がおこなわれているので、それを参考にするだけでもリスク軽減は十分に可能かと思われます。

財務面の行動は3の答えと連動しますが、関連事業をM&Aしていくことなどは大胆な提案です。逆に自分たちの事業が特化しているなら、より大きな会社に買収してもらうことをもちかけてもいいと思います。

上場による信用力確保も課題です。人手不足解消策としてAI導入を提案しましたが、安定的にいい人材を確保するとなると、上場を目指すことは非現実的なことではありません。とくに高級路線を取っている会社は、お客様も上場企業や国のトップの機関、医療系学会などの利用が多数であり、会場選定でコンプライアンス違反でないところが優先されることは明らかで、上場はひとつの回答になると、強く思っています。

5.情報機関を設立し、ブランドコントロールにまで発展させたらどうか?

さまざまな課題は、見方を変えると発表のチャンス、差別化のチャンスにもなります。課題対処のみで終わるのはもったいない要素ばかりで、情報発信を総合的にプロデュースする部署であるパブリックリレーションズ室なり部なりの設立を提案したいですね。

現在わたしが所属する会社のマーケティングは、受注対応に陥りがちな営業部の活動を支えるという位置づけで分岐されたもので、営業活動を分析し、新しいアプローチ法を考えて実行する、というような仕事しかしていません。ですので、ウエブ制作や受注システムの設計・構築、メルマガなどの販促活動の企画進行、提案切り口の発見と開拓程度です。

しかし、このくらいの量であっても、経営戦略がもやもやしたものであったために、メッセージ発信の方針が定まらず、高級路線なのに値引きを許容したりというようなちぐはぐな販促キャンペーンを張っていたりと混乱の毎日です。会議を開いても内容が決まらないことばかりで、私が配属されるまでそれがおかしいと、気づいてすらいなかったのです。。。

情報の旗振り役をさっさと作った方がよい

このような問題は、経営と連携したコミュニケーション戦略さえあれば、情報発信の方針をはっきりさせることができるので、あっという間に解消されます。戦略の浸透を全社に広げることができれば、あらゆる場面で軸のブレない検討ができるようになるのです。

本来は、パブリックリレーションズ部署がそのかじ取りをするわけですが、多くの会社ではすぐに部署設立を承認してくれることはまれです。しかし、情報機関の設立の必要性を感じているなら、まずそれができる部署を起点に展開していくことはOKなことが多いので、私の会社ではまず販促課でそれを起こそうと「次善の」提案をしました。

ただ、情報の組織作りにおいて、ボトムアップは相当に難しいのもたしかです。「次善の」提案での難しい点は、かかわるメンバーのマインドがフォローマインドであることが多く、マネジメント的に広い視野、長期的目標感に立てず、目先の課題解決を優先する傾向が強くなります。販促課も営業部の「売れ」「売れ」に引っ張られて目先課題が優先であったからこそ、経営戦略のファジーさにいつまでも気づけませんでした。そもそも配属されるメンバーがフォローマインドの人を中心に構成されることも多いので(だいたい無意識的に人事がなされている)、このマインドをいかに変えていくかは、相当難しい。

5つの課題の先にはボスキャラがいる

貸し会議室業界の問題点を中心に、シェアリングエコノミーにおける将来の課題をどう対処すればいいのかというのを今提案していったわけですが、それらのほとんどは、実は「第2ステップでとりかからなければいけないこと」だったりします。

これら5つの課題はマーケティングミックス、メディアミックスのミッションレベルであり、本当の課題は経営方針、経営ビジョンでメッセージをしっかりとまとめることができているのか、というものなのです。

これら5つの課題解決を各々の会社に当てはめるとすると、ファジーな結論になるはずです。しかも、「何か中心でモヤモヤする」とうファジーさにさいなまれる。これはつまり、経営ビジョンをはっきりさせていないことからくるものであり、まず向き合わなければならないが最終的に大きな課題であるボスキャラなのですね。このボスキャラをあぶりだすことができれば大したものですので、もし課題感を感じていたら、経営方針を疑うのは解決の近道かもしれません。

私が今回会社向けに作ったポジションペーパーは、もう少し経営理念寄りです。ここは核心部分に近いのもあるので、もし公開するとしたら有料にさせてください。

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[おまけ] ストラテジックコミュニケーションをはじめとするパブリックリレーションズについて、ちゃんと解説を試みるプロジェクトを試行中です。
http://pr401.com/

ストラテジックコミュニケーションについては、こちらのページで詳細解説しています。
◆ストラテジックコミュニケーション(戦略PR)へ
http://pr401.com/archives/317
…戦略にかかわるテーマなので、経営者の要素などもかなり大きく影響されます。記事では「経営」「経営者」「定義」「戦略」「中立」という視点で解説しています。

◆パブリックリレーションズとは(定義解説)
http://pr401.com/archives/172
…意外にも、広報担当者の多くがこの定義をちゃんと話すことができません。それは、日本では体系化された学部としての確立が遅れており、現場のたたきあげによる作業ベースでの理論、目先の方法論での積み重ねしか学ぶことができないからです。経営者目線で情報をどのように発信するのがいいのか、総合化という自分自身のアップデートに必須の「定義を知る」という内容にまとめています。


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