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美大生が考えた「都会と地方」のインターネットのはなし【卒業制作】

愛知県内の美大で映像制作を中心に活動していたタカハシです。

地方の美大を卒業して東京のIT企業でデザイナーをはじめ一年が経ちました。2月、3月とSNSでたくさんの「卒業制作」という文字を見かけた方は多いのではないでしょうか? 今回は自分が卒業するときにつくった作品の制作過程を簡単に踏まえ、テーマにしたインターネットについて触れていきたいと思います。

愛知県美術館で2017年に行われた卒業制作展で「Love City」という映像インスタレーション作品を発表しました。写真のように紙でつくられたスクリーンと二つのディスプレイが向き合うように設置され、同期された三つの映像が投影されるというものです。

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1.アイディアの着手

はじめに卒業制作をつくるにあたり美術館で展示することを踏まえ、インターネットを介して見れる映像を展示するのではなく、その場でしか感じられない映像体験を生み出すことを念頭に置いて作品を考えることをはじめました。

その場でしか見られない映像体験とはいったい何か。例えばARやVRを使った作品が美術系学生の卒業制作展でも頻繁に見られるようなってきました。しかし、特にエンジニアリングに強い美大生は一部であり、それらの特製を活かしきったコンテンツを見ることはなかなかありません。

そこで自分は「技法に囚われた作品ではなく、その技法を使った構造自体が作品の形態となるもの」を目指すことにしました。(美大受験の立体構成の考え方みたいですね)

つまり、作品のコンセプト自体が構造に直結するものを作る。根底に考えていたインターネットに溢れるコンテンツとそれらに触れる自分たちを作品のテーマにとして扱うことにつながりました。


2.コンセプト -インターネットによって何が起こっているのか-

世界のどこにいても地球の裏側の人と今すぐに繋がり、情報の格差はなくなる。人々を幸せにすると信じられ発展し続けるインターネット。

しかし、インターネットのハードルを大幅に下げたSNSの広がりは、地方と都会のコンテンツの格差をより如実に感じさせているのではないでしょうか?

オフラインとオンラインの差を意識しなくなった現代だからこそ、都会にいれば溢れるコンテンツや情報の恩恵をリアルに受け、地方にいればインターネットによって感じられる情報はむしろどこか寂しさや疎外感を付纏わせるものにすらなり得ます。

では都会にいればネットの恩恵を存分に受け人々は幸せになっているのか?全員がそうではないように思えます。「まだ東京で消耗してるの?」なんて言葉もあるように。実際に東京に住み始めて思いますが、Instagramの流行しかり、SNSに自己が囚われたり、大量のいいねを貰ってもそれが幸せに直結していなかったり。

インターネットは本当に人々を幸せにしたのか?

これらを踏まえ映像の内容はそれをかなり直接的に描いています。華やかな都会を想像し、その場所を目指す人物。また一方では都会によって磨耗し、そこから逃げ出すように街をあとにする人物。

<ディスプレイに映した映像をひとつにまとめたもの>


3.展示作品としての制作

アイディアの着手の段階で考えていた構造自体を作品の形態とするため、映像の内容は展示することを前提に作っています。上の動画では一本の映像となっていますが、それぞれの人物をひとつずつのディスプレイに映し、そのディスプレイを向かい合わせ展示空間で二人を出会わせるという形態をつくっていました。

また展示空間としての意味合いをより強くするため、そのディスプレイを街を抽象的に表した3DCGで設計した立体で囲み、そこにも二つの映像をつなぐような映像を投影するという試みをしました。

その場に立つことでしか感じられない作品を現実世界で見せることで、ネット上で消費される動画コンテンツではなく、鑑賞者に広義な意味で自分がいる場所を再確認させるという意図を含ませています。


<展示風景>

テーマでもあるように実際の展示場所にいかなければ体験できない映像作品になっているのでこの記録映像で十分に伝わらないかもしれませんが展示の様子です。(noteにvimeoで投稿すると小さくなる不思議)

また向き合わせたディスプレイの映像は向かいのディスプレイに反射することも意識して内容を制作しています。

<近づいてiPhoneで撮ったもの>


4.具体的な作り方

ここまで卒業制作をつくるにあたっての大まかな流れをごく簡単に書きましたが 、制作するまでにマルチディスプレイを使った作品やインターネットをテーマにしたメディアアートなどリサーチ、そもそも地域に根ざした活動をしている某デザイナーさんのプロジェクトに参加したりと紆余曲折を経たりしました。

そして具体的な作り方について、映像は主にCinema4DとAfterEffectsを使って制作しています。立体のスクリーンもCinema4Dでモデリングして、ペパクラデザイナーというモデリングしたものをペーパークラフトの展開図にしてくれるものを使ってケント紙を切っては貼り、切っては貼りを繰り返し大きなものにしています。

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紙なのでうまい具合にしなってくれるのですが、設計したディスプレイを囲む形になるように鉄パイプを加工したレールを制作しました(クリップは仮止めです)。搬入しやすいよう四つの大きな塊にわけています。

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三つの映像は三台のMacからプロジェクター、ディスプレイにそれぞれ出力しています。同期システムについては丁度良いソフトウェアなどがなかったため、特製のアプリケーションを協力して制作していただきました(スーパーエンジニアの先生ありがとう... 。システムについて需要があれば分かる範囲で書きます)

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そして音楽については、愛知岡崎を中心に活動するHammock  Scotch Bsuinessとともに制作をしました。元々はHammock Scotch Bsuinessが作っていたLove Cityのデモ曲を聴き、それを展示用に曲をつくり直すということをしました。映像インスタレーションと書きましたが、作りたかったのは空間型MusicVideoと言ってもいいかもしれません。

この展示をMusicVideoとして公開するに合わせ、このLove Cityを含める4曲が収録された「Other Bad Jokes EP」がApple Music、iTunes storeで配信開始されました。宣伝にしては長すぎる前振りな記事ですが、この曲以外にたくさん良い曲があるのでぜひ聴いてください。

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そしてこの制作を機に、現在はHammock Scotch Businessのメンバーとして活動しています。どういった肩書きが正しいのかわかりませんが、ウェブサイトを作ったり、MVを作ったり、VJとして一緒にステージに立ちライブをしたり。とても楽しいです。

近々また新たな成果物を発表するので楽しみにしていてください。


Hammock Scotch Business

Twitter (@hmckscbz )


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最後にひとつ、デザインや写真についてのtipsはnoteでもたくさん見かけますが、一年思考を凝らして作られた卒業制作の裏側を公開する美大生はなかなかいません。個人的にはもう二度と作れないような熱量を持った作品がたくさんあるのでnoteで卒業制作の裏側がたくさん公開された嬉しいです。

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